23 誤解を招く言い方ならまだしもガチの濡れ衣は勘弁してほしい
「ユリル様からも言ってやってくださいよ。この男、あたしに宝石渡さないんですよ?この!あたしに!」
「そりゃ酷い、メロに宝石を渡さないだなんて。でもメロ、その袋はアメジストじゃないのかい?」
「そーですけど、コイツまだ持ってるんです。だからそれもぶっ壊してあたしのものにしてやるって言ってんのに、コイツだしやがらないんですよ」
「そりゃそうでしょう、破壊できる人が全部破壊したらこっちは商売あがったりですよ!」
「んなこと知ったこっちゃない、あたしがいるこの王都で、普通に宝石売らずにさらに儲けようなんて考えたあんたが悪い」
「情報収集を怠った者の末路、か。諦めてあげたほうが身のためだと思う、その子絶対諦めないから」
「そんなぁ!?」
周りの国民たちも、うんうんと頷いている。
それを見て、男は絶望した顔をした。
若干憐れんでいると、くいくいとワタシの袖をフィーネが引いて、聞いて来た。
「ユリル、あの人は?」
「ああ。あの子はメロ・シャトーレイン。魔導王国有数の名家、シャトーレイン伯爵家のご令嬢で、七星大魔導の一人。『明星』の異名を持つ天才なんだけど、見ての通り守銭奴っていうか、貴金属に目がなくて、宝石とあらば見たもの全部手に入れるまで粘着し続けるような子だよ」
メロは三年前に七星に選ばれた、【轟雷】【光】【鏡】の魔法を操る大魔導。
入れ替わり決戦を二度返り討ちにした実力者ではあるんだけど、使える魔法を見ても分かる通り、貴金属類、特に宝石類、「光っているもの」が大好きで、レアな宝を手に入れるには手段を選ばない強欲娘でもある。
「ユリル様も何とか言ってやってくださいよ」
「いやー、そうしてあげたいところなんだけどね、ワタシも一応王女だからそういうことすると問題になるというか」
「ユリル様ァ♡もし言うこと聞いてくれたら、メロが一日デートしてあげる♡」
「おるァァァァ出せこの野郎!!メロたんがてめーの宝石をご所望だ、つべこべ言わずに全財産差し出せこの外道がァ!!」
「えええええ!?いやっ、この状況ではどう考えても外道はそっち…………」
「知るか、王女権限ださっさと出せ!さあ早く!十秒以内だ!」
当然の話をするが、メロは可愛い。
年上でリードしてくれる感じもあるし、何より好感度を稼ぐ方法が分かりやすい!
既に似た様な手に六回くらい引っかかってる気がするけど、年上のお姉さんに翻弄されるというのは大歓迎なので、そんなもんはどうでもいい。
さあ、こうなったら精神魔法で操ってでもっ―――!
「ユリル」
「はいなんですかフィーネちゃん、ワタシは今取り込み中で」
「ダメ」
「…………えっ?」
「ダメ」
「いや、でも、その」
「そういうことは、ダメ」
「…………」
さて、ワタシの脳内会議室よ。
今回の議題は、「心底惚れたワタシ好みの美少女の苦言を聞くか、年上美女のデートを取るか」だ。
もし前者を取れば、ワタシはもしかしたら二度とメロとのデートに誘ってもらえなくなるかもしれない。
しかし後者を取れば、ワタシはもしかしたらフィーネに軽蔑されるかもしれない。それはいかんだろう。
うーむ、こんなに悩んだのは七歳の頃、初めて魔法術式に干渉したせいで吹き飛んだ部屋を、父上にどう弁解するかを考えた時以来だ。
悩みに悩んだ末。
だした、答えは―――。
「…………今回は、見逃す、から…………早う、どっか、行きなさい」
「え?あ、はい!」
「んなああああああああ!?」
うん。
やっぱり、フィーネは何事よりも優先するべきだ。
「理性と本能で理性を勝たせたよさあフィーネ褒めて!」
「偉い、偉い」
拍手を送ってくれるフィーネに恍惚としていると。
「ユ、ユリル様が、ワタシの言うことを聞かない…………!?デートをちらつかせただけで、宝石買ってくれるし純金創ってくれるし、やりたい放題だったのに…………」
なんかワタシを利用してたことを認めたメロが、ショックを受けたようにその場で伏した。
と思ったらガバッと起き上がり。
「ユリル様っ!その子何者なんですか!?ユリル様がワタシとのデートより別の女の苦言を優先するなんて、どうしちゃったんです!?どこの誰ですかその女!ワタシとは遊びだったって言うんですか!?」
「ねえちょっと、誤解を呼ぶ言い方辞めようか!?」
「あの、あの激しく乱れた夜を忘れたんですか!ワタシがもうやめてって言っても、離してくれずにワタシをぐっちゃぐちゃにしたあの日を!」
「待ちたまえ、処女相手に何を言う!?してないよそんなこと!?」
「…………ユリル」
「してないしてない!だからそのジトッとした目後生だからやめて!」
「認知しないつもりですか!」
「間違って孕ましちゃった女の子を見捨てるクズ男みたいな扱いやめてくんない!?あと、人集まって来てるから!誤解呼ぶから!」
「え?ユリル様、まさかついに…………」
「あーあ、やっちまったのか」
「うん、いつかやるとは思ってた」
「『英雄色を好む』とはよく言ったもんだ。しかし最初はメロさんかあ、てっきり俺はシズカさんかカグヤさん辺りに手を出すもんかと」
「私はクリュスさんだと思ってた」
「わかるわー」
「まあ、カンナ様じゃなかっただけまだマシだと思おうよ」
「そうだな、血が繋がってないとはいえ姉妹でそういうのは」
「おい国民共、やってないっていってんだろ、ワタシはまだ純潔だ!なので妙な噂広めんなマジ頼むから!」




