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22 アメジストは綺麗

「ユリル、どうしたの?疲れた顔してる」

「うん、ちょいと寝不足でね。『なんでも溶かす酸』なんてもんが別の実験の時に偶然生まれちゃって、なんとかこれを改良できないものかと四苦八苦してたんだけど」

「それって、戦争の道具とかにってこと?」

「いや、『女性の服だけを溶かす酸』に改良できないかと…………あっ」

「そうなんだ、頑張って」

「う、うん」


 相変わらずクールな子だ。

 普通ならドン引きされるようなことを口走っても普通でいられるあたり、記憶を失う前はすげえ大物だったんじゃないかと思えてくる。


「まあ、そんなことはいいんだ。それより行こうか」

「うん」


 さあ、デートの時間だ。

 そう、デートである。

 羨ましいだろう?


「とりあえず、しばらくはあそこに住んでもらうことになるわけだからね。服とか歯ブラシとか、生活必需品を買っとかないと」

「うん」


 本当は最上階に住まわせたいんだけど、あの危険極まりない実験道具が揃いまくってるあの部屋だと、フィーネが怪我してしまうかもしれない。

 美少女の怪我は人類の怪我だ、絶対に避けなければいけない。

 なので実験がひと段落するまで、当分はホテル住まいしてもらうことにした。

 そのための道具を買いそろえようと、今回のデートに至る。


「でもわたし、お金とかないよ」

「大丈夫、ワタシが出すから。気にしたりしないでいいからね、ワタシ、貯金は国家予算位あるし」


 王女で、世界最強の魔導師で、あらゆる研究で特許やらなんやら取ってるんだから、お金には困らない。

 むしろ美少女の生活必需品を揃えるなんてイベント自体にお金を払いたいくらいだわ。


「まあいい機会だし、魔導王国がどういうところなのかも見せなきゃだから、ちょっと寄り道しながら行こうか。ついてきて」

「分かった」




 ガーデンレイク魔導王国の王都は、人口約70万人、世界最高の大魔法都市。

 360度どこを向いても、必ず一つは何らかの魔法が使われていると言っても過言ではないほど、魔法と共生している場所。

 世界中の魔導師の憧れと言われる大都市。


「魔導王国って、国民の九割が魔導師なんだよね」

「うん、でもそれは魔導王国の全体の人口から魔導師を算出してるからそういう結果なだけで、地方に行くともーちょい少ないよ。ただ裏を返せば、この王都の魔導師の割合が高いってことなんだけどね」

「どれくらいなの?」

「九割九分九厘」

「えっ」

「九割九分九厘。要するに人口の99.9%が、実力の差異あれど魔導師。他国の首都だと魔導師の比率は25%いけば高い方だから、まあ圧倒的だね。世界で一番、日常的に魔法が飛び交ってる場所だから」

「てことは、この人たちは皆魔導師?」

「まあそうね」


 実際、耳を澄ませてみると。


「クラーケン焼きいかがっすかー!朝にうちの家内が狩ってきた新鮮なクラーケン!今なら豪炎魔法で焼けますよ!」

「あなたの魔法を試してみませんか?この魔法に対して強耐性を持つ特殊なアメジスト鉱石を破壊できた方には、その残骸を全て差し上げます!魔法研究にうってつけ、アメジスト鉱石です!」

「魔導書いかがっすかー、ユリル様が新しい魔導書を―――はい、売り切れでーす」


 うむ、今日も王国は平和だな。

 平和すぎてぶっ壊したくなるくらいには平和だ。


「クラーケン焼きって?」

「文字通り、海の怪物クラーケンの料理だよ。異世界人がこの世界にもたらした『タコヤキ』っていう料理なんだけどね。ただクラーケンは一級指定危険生物だから、一級魔導師以上じゃないと近づかない方がいいよ、食べたいなら今度狩ってくる」

「アメジストは?」

「アメジストとかルビーとか、そういう鉱石が光ってるのは魔力伝導率がめちゃめちゃ高いからなんだよ。そういう鉱石は魔法を込めて好きな時に打ち出したり、研究の時にめちゃめちゃ重宝するんだけど、如何せんかなり高いから普通はあんま買えないの。まあうちに余るほどあるけど」

「ユリルの魔導書?」

「ああ、もう出たんだ。既存のきったない魔法術式を改良して最適化してそれを上に提出したやつなんだけど、それを今の魔導書と差し替えしてるんだよね。今は第六弾かな、全部ベストセラーでうはうはだよ」


 一つ一つワタシが解説してると、フィーネはワタシをじっと見て来た。

 なんだ、照れるじゃないか。


「どったの?」

「もしかしてなんだけど」

「うん」

「ユリルって、凄い人?」

「えっ今更?」


 なんかショック。

 いや待て、でも確かにこの子にワタシがどんな人間かちゃんと話したことなかったわ。


「あーっと、まあ具体的に話すとだね。ワタシは多分、世界最強の魔導師なわけよ」

「世界最強」

「そう。魔導師って、その実力で六級から一級と、その上の大魔導って枠組みが決められてんの。まあこれはあくまで魔導師の『強さ』を測るためのものであって、研究一筋の魔導師は興味を持ってないから、位列が高い=魔導師としての地位が高いってわけじゃない、あくまで目安みたいなもんなんだけど」

「でも、ユリルは研究者だって言ってたよね」

「ワタシは研究職と戦闘職どっちもこなせる。ちなみに研究職は少ない魔力でも出来るデスクワークだから、男に人気の職業なの。んで、階級ごとの魔導師の魔法を普通の武器に置き換えて考えるとね」


 六級が木製バッドやカッター。

 五級がナイフや包丁。

 四級が拳銃や釘付きバッド。

 三級がショットガンやマシンガン。

 二級がグレネードランチャーやアンチマテリアルライフル。

 一級が戦車やダイナマイト。

 大魔導が超高性能ミサイル。


「まあこんなもんかな。勿論、同じ等級でも出来ることは違うから、補助系の魔導師とかがこの枠組みに入ることは無いし、あくまで目安として考えて」

「すごくよく分かった。それで、ユリルはどこなの?」

「この上」

「え?」

「いや、ワタシは強すぎて大魔導には数えられないってことになってさ。『極限魔導』っていう新しい枠組み作られて、それなんだよ。強さ的にはぶっちゃけ、普通の兵器じゃ表せないくらいかな」

「やっぱりすごかったんだ」

「そうだよ、惚れ直した?」

「うん」

「マジで!?」


 きゃっほおう!!


「でも、話を聞く限り、ユリルほどじゃないんだろうけど、その大魔導っていうのも凄そうね」

「ん?ああ、大魔導はマジで人数少ないからね。この国でも三十人ちょっとしか今はいないし。他の国なら三人いれば多い方、一人もいないなんて国も珍しくないから、これでも多い方なんだけど」


 そう言う意味では、あのフィーネを捕まえてた男も弱くはなかったし、むしろ本気を出せば都市一つくらいなら一人で壊滅させるくらいの強さはあったんだよね。

 まあその程度だからワタシに負けたんだけども。


「んで、その中で選りすぐりの七人を選定した、魔導王国最強の魔導師集団が《七星大魔導》。これは前にも話したよね」

「うん。どんな人たちなの?」

「どんな人たちって言われてもな。皆可愛いけど、半分以上頭ヤバイ子たちだし、実際―――」


「だーかーらー!もっと出せって言ってんの!」

「無茶言わないでください!勘弁してください!それは差し上げますから!」

「これじゃ物足りないっつってんのよ!さっさと出しなさいよ、あたしの貴金属センサーがまだアメジストがあるって囁いてんの!」


 ワタシの言葉を遮るように、広場の方から大声が聞こえてきた。

 というか、さっき通ったあの魔法試しの店の方からだ。


「どうしたんだろう」

「まあ、大体想像はつく」

「え?」


 道行く人たちが同情的な目を向けながらも何も言わないのが何よりの証拠だろう。

 みんな「気持ちは分かるけど王都であんな商売やったアイツも悪い」って感情なんだろうな。

 ()()()に目を付けられるのがオチだと、王都に長く住む人間なら分かりそうなもんだ。

 多分あの男は、王都で宝石の需要が高いと聞いて来たんだろうけど、それなら普通に売るべきだった。


 戻ってみると案の定、さっきの男と絶妙な感じで破壊されたアメジスト、そして男の胸倉を掴む十九歳くらいの女の子がいた。


「もう一つ破壊して、あたしのコレクションに加えてやるっつってんのに出し惜しみすんな、それでも商売人かああん!?ほら飛べ、飛んでみろよぉ!」

「勘弁してください!勘弁してください!!」

「おーい、メロ。何してんの?」

「あん?…………あれ、ユリル様?こんなところで奇遇ですね」

「んな大声でカツアゲして奇遇もクソもないでしょ」


 恫喝していた少女。

 七星大魔導序列第五位、『明星』メロ・シャトーレインは。

 気絶しかかっている男を締めたまま、こっちに爽やかな笑みを浮かべた。

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