21 極限魔導の魔法実験講座
「さて、どれから手をつけるか」
ワタシが現在抱えている研究総数は、国から依頼されているものが3つ、自分で決めたテーマが204、合計で207。
実験が失敗ないしは暴走し、それが最悪の状況を招いた場合の被害を想定すると。
特に何も起きないのが13。
ちょっとした有害物質が出るのが21。
この部屋が吹っ飛ぶくらいのが36。
塔にいる全員が死傷するレベルのが44。
王都全域に被害が出るのが52。
魔導王国が滅びかねないのが39。
マジで世界全体が致命傷負うかもしれないのが2。
「うし、危険なヤツからやっていくか」
しかし、どっちから手を付けたもんか。
『【宇宙魔法】による超新星爆発及びブラックホールの極小型再現実験』か。
『矛盾を超えた先にある更なるエネルギーの抽出実験、及び存在証明』か。
色々考えたけど、超新星爆発やブラックホールなら宇宙魔法、煉獄魔法、収束魔法なんかを使って疑似的な再現なら可能だし、今更別にいいか。
問題は後者だ。
この実験は簡単に言えば、『互いに矛盾した性能を持ち、かつその強度が全く同数であった場合に、まったく違う結果が生まれることがある』という現象の証明問題だ。
例えるなら、『どんなものでも絶対に両断する剣』と、『どんな攻撃も絶対に防ぐ障壁』がぶつかり合い、かつその性能を数値化した際にその数字が小数点以下255桁まで一致していた場合、誰にも予想できないような現象が発生する。
その際に放出されるエネルギーを観測し、その「予測できない」を「予測できる」に変えるのがこの実験の趣旨だ。
これの何が危険かって言うと、何が起こるか今時点では予測できない以上、どんなことが起きてもおかしくないという点。
例えば九人外クラス、つまりワタシの『どんなものでも燃やし尽くす魔法』と『どんな攻撃を受けても枯れ果てない植物を生成する魔法』が同時に放たれ、我慢比べが始まるとする。
下手したらこれでワタシが予想できないような結果が招かれ、最悪大爆発とか起きて世界が滅ぶ。
まあ正確には他の九人外が守れる範囲の生物は大丈夫だろうけど、九人外で見知らぬ人間を守るタイプの生物は、ワタシの知る限りワタシを除けば二人しかいないから、最悪の場合世界人口の九割は滅ぶかも。
「さてじゃあ、色々試してみるか」
まあそんな感じで犠牲を恐れた結果、何百年も研究されてない分野を、ワタシが証明してやろうというわけだ。
やり方としてはまず、威力が全く同じでかつ効果が逆な二つの魔法を十二組用意し、合成する。
それを直径50㎝程度の球体型結界に閉じ込め、しばらく経過を観察する。
「…………暇だな」
結果が出るまでしばらくかかる。
というわけで。
「ウェリス、調子はどう?」
『あん?ああ、あるじか』
「それ以外にだれがいるっつーのよ」
『いや、あるじが俺に調子を聞いて来るとか、いつからそんな慈しみの心を持ったんだ?』
「誰がお前の調子を聞いたよ、フィーネの調子を聞いたんだよ」
『このクソアマ…………』
「なんか言った?」
『言ってません。で、この娘の件だよな?今の所何もないぞ、あんたが届けた本を一切動かずに読んでる。途中風呂に入ってたけど、そっちでも読んでて一冊ダメになってて、ちょっと落ち込んでたけど』
「何それ可愛い。好き。…………ん?ウェリス、今風呂って言った?」
『言ったけどなんだよ』
「見たんか?」
『見たって何を』
「フィーネがあられもない姿を晒してる時にも観察してたのかって聞いたんだよ」
『そりゃあ気に食わないとはいえあるじの依頼だ、仕事とはちゃんといでえええっ!?』
遠隔でウェリスの首を絞めた。
『なにしやがるクソあるじ!』
「てめえ男だろうが、何ナチュラルにうちの子の全裸観察してやがる、その子の裸を見ていいのはこの世界でワタシだけだそこの所間違えるなよ」
『人間のメスの裸なんざ悪魔の俺が興味あるわけねえだろ!』
「信用なるわけないだろ、お前と同格の一人がワタシの知り合いにべた惚れしてんだから」
『あいつは「邪淫の悪魔」だから特別なんだよ!色欲系を司る悪魔はストライクゾーンが広いんだ、俺みたいな普通の悪魔は同じ悪魔にしか興味ねえ!』
へえ、知らんかった。
また一つ学びを得たな。
「それはそれこれはこれだ、次に下着以下を見たら殺すからな」
『…………勝手に不相応な贄で呼び出され、悪魔の本分をまっとうしようとしただけなのにこの女に捕まり、下級悪魔以下の扱いを受けまくって…………俺が何したってんだ…………』
「負けたお前が悪い」
ウェリスとの通信を切り、再び観察に戻った直後。
ワタシが閉じ込めた中でもっとも強力な魔法同士が反応し始めた。
「お?お?さて何が起きる?」
ワクワクしながら見ていると。
突然結界に穴が開き、大量の謎の液体がドバドバと流れてきた!
「どうわあああああ!?」
慌てて避けると、座っていた椅子が一気に腐食し、崩れ、液体に溶けた。
それに飽き足らず、ワタシが部屋中に張った結界すら溶かし、床を突き破って四十九階に流れ出そうになったので、慌ててワタシの最強クラスの結界を張って補強。
しかし、それすらほんの僅かずつだけど溶かしている。
「なんじゃこりゃ…………。結界を溶かす酸なんて聞いたことないんだけど」
液体―――おそらく酸性のなにかにさらに魔力が作用している。
ワタシの最強結界すら僅かとはいえ溶かすということはつまり、この液体は文字通りの意味で「すべてを溶かす」と言っても過言じゃない。
なんて恐ろしいものを作り出してしまったんだ。
取り敢えずワタシは空間魔法でその液体をワタシが作り出した小さな亜空間に閉じ込めた。
流石のこの液体も亜空間を消し去る力はなさそうだ。
「す、す、す―――素晴らしいっ!!」
なんてこった、これはほぼ間違いなくこの世界にはない、異世界とか魔界とかそういう場所由来の液体だ!
偶然とはいえ、こんなものを生み出せてしまうなんてさすがはワタシ!
「よっしゃ、まずは1mg辺りどの程度溶かせるかを検証しつつ、どの程度の魔法まで解かせるのかまで検証、その後成分を分析してワタシの魔法で再現だ!よっしゃ楽しくなってきた!ちょっとだけ、ちょーっとだけ…………」
あれ、何か忘れているような。
まいっか。




