20 人の地雷は知らない間に踏み抜いてる
「あークソったれ!こんなに可愛くなったし、こんどこそ行けると思ったのによぉ!」
「なまじ強かったから暴力だけですべてを支配出来た弊害だね、小細工が下手すぎる。あとその可愛い格好で汚い言葉吐かないでくんない、中身がお前だってわかっててもなんか嫌だ」
「うっせー!」
頭を抱えながらこちらを睨んでくる、この悪魔との出会いは二年前。
召喚魔法の悪魔召喚術を試しまくってた時、偶然この悪魔を呼び出す術式を発見し、発動したのが最初だった。
呼び出した瞬間に召喚時の拘束を魔力で引きちぎり、ワタシを殺して暴れそうになったので、慌てて空間魔法で亜空間を構築して閉じ込め、狭い範囲で三時間ほど戦い続けて結果的に倒し、命の保証と引き換えに『ワタシの命令に従う、ワタシやその他の人間にワタシの命令がない限り危害を加えない』という内容の契約で無理やり縛った。
当時は今ほど使える魔法も多くなかったし、何より戦闘の経験が足りな過ぎたためにかなり手こずった。
まあ高火力と絶対防御でゴリ押ししたけど、あれはワタシの人生ベスト5に入る激戦だったな。
それ以来、ワタシの最強の召喚体として活躍してくれている。
まあこの世界に顕現する際に、体が構築されて契約が働くまで二秒ほど時間がかかるのを利用して、あの手この手でワタシを殺そうとしてくるのが困りものだけど、この程度は可愛いもんなので別にいい。
「んで?今回は何の用だ。あるじが男の俺をようもなく呼び出すわけがねーだろ」
「うん、ちょっと頼みがあってさ」
二年前のまだ未熟だった頃とはいえ、かつてこのワタシ相手に九人外以外で唯一奮闘したコイツなら、フィーネの護衛として申し分ない。
ワタシほどの強さはないものの、魔界の四分の一をその戦闘力だけで治める、数万年を超える時を生きる伝説級の大悪魔。
七百年前に顕現したコイツの同格である「戦争の悪魔」は、魔力が尽きて魔界に強制送還される一日半で小国と大国を単身で滅ぼしたという、まあまあの戦績を持っている。
ワタシからしてみりゃ女装の何たるかを分かってない甘ちゃんもいいところだが、能力の高さだけは信用できるというわけだ。
「この子の護衛を頼みたいんだよね」
「護衛だあ!?この俺に!!魔界の王の一柱たる俺に、護衛させるっつってんのか!?」
「そうだよ、つべこべ言わずに従え」
契約がある以上、ウェリスはワタシの命令に逆らえない。
元々プライドの高い傾向にある悪魔、それも最上級となればさぞ屈辱だろうが、んなもんはワタシに関係ない。
「ち、畜生…………。で、なんなんだよこの女は」
「ワタシの大切な人」
「へえ?」
しかし、ワタシの『大切な人』という言葉を聞いた瞬間、ウェリスの目の色が変わった。
「あるじの大切な人、なあ?俺は契約で、お前ら人間に直接危害を加えることは出来ないし、あるじの言葉にも逆らえない。だが、間接的にも害する方法はいくらでもあるよなあ?あるじならそれくらい―――」
きっと、ウェリスのこの発言は、ワタシにとってフィーネがどの程度大切な存在なのかを推し量る目的が強かったんだろう。
本当にその気なら言葉に出さなければいいんだから。
ワタシが少しでも慌てれば儲けもの、それがなくても表情で少しでも読み取れれば御の字とか、そんな考えだったと理解できる。
分かってるとも。それくらい。
だけどワタシの思考とは裏腹に、体は一瞬で動いていた。
「が、はあっ!?」
ウェリスの鳩尾を、最強化魔法が付与されたワタシの腕が貫く。
瞬間的に防御しようとしたウェリス、だけど時間魔法によって『貫かれた』という結果が先行し、防御不可能となった。
そのまま壁に激突し、ウェリスの血が飛び散る。
腕を引き抜き、同じ右手でウェリスの首を掴む。
「よく、聞こえなかったんだけど…………」
「ひっ!?」
「ワタシのフィーネを、害するとか言った?ワタシに負けた悪魔風情が?聞き間違いだよねぇ?」
「ちょ、待っ…………」
「ワタシはさ、基本的に温厚なのよ。自分が世界に与える影響力も、魔法の威力も、どうやったらか弱い他人が死んでしまうかも理解してるから、常に魔法の威力もセーブしてるし、出来るだけ怖がらせないように心がけてる。それはお前に対してもだ。何度ワタシを殺そうとしようが、反抗しようが、見逃してきてやった。今すぐに自害させることも、跡形もなく消し飛ばすことも出来るのに、それをしてこなかった。ねえ、これはワタシが優しいからだと思わない?」
「思います、思います!」
「そんな優しいワタシがね?感情に任せてお前を今すぐ捻り潰してやりたいと思ったくらいには、さっきこの耳に聞こえた言葉は罪深い言葉だったわけよ。…………それを踏まえてもう一回聞くぞ?さっきのはワタシの聞・き・間・違・い・だ・よ・な?」
「聞き間違いっすよおおおお!!もおおお、あるじさまったら耳が遠いんすから!!さっきのは、がい、がい…………そう、あらゆる外敵からこの~え~っと!?」
「フィーネ」
「そう!フィーネさんをお守りするって言葉だったんですよ!!まったくあるじさまったらお茶目さん!まあそこがあるじさまのいいところでもあるんですけどね!!」
「だよねー!いやーびっくりした!まさかウェリスがそんな身の程知らずの言葉ほざくわけないもんね!ごめんごめん」
「いやいや、今のは俺がちゃんと発音しなかったのも悪いですし!?」
「じゃあウェリス、影からこっそりフィーネを見守ってあげてね。念のためバレないように気配も殺し続けて。ワタシが見れるときは見てるけど、どうしても外さなきゃいけない時になったらちゃんと見て、異常がなかったかワタシに報告ね。もし自分が勝てないと踏んだ相手にフィーネが遭遇したら即座にワタシに連絡」
「はい!」
「ああそれと、これは独り言だけど…………次に舐め腐ったこと言ったら今度こそブチ殺すからな?あんま調子に乗んなよ、最上級悪魔ごときが」
「誠心誠意!命を懸けて、フィーネさんを守らせていただきます!!」
「うんうん、じゃあよろしくね」
さすがのウェリスも、彼我の戦力差が分からないほど馬鹿じゃないし、命も惜しい。
ワタシがアイツの命を握って―――いや握ってなかったとしても、ウェリスはワタシとの戦闘なんて全力で避ける。
殺されることが分かっている戦いほど、無意味なものもない。
しかしびっくりしたな。
自分に、あんな激情が潜んでいたとは。
今回はあの舐めた態度の悪魔の調教のために身を任せたけど、次からは制御できるようにしなくては。
どうやら思った以上に、ワタシのフィーネへの執着は大きいっぽい。
いつまでもウェリスに任せておくわけには行かないし、久しぶりに本気で研究に取り組んで、一気に仕上げてフィーネとイチャコラできるようにするか。




