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19 ロリショタ悪魔

「ふーむ…………」


 捕まっていた女の子たちの身の振り方も決まり、フィーネの職業(研究対象)も決まった今だが。

 ワタシにはもう一つ、考えなければならないことがあった。


「さて、どうするか」


 それは―――フィーネの護衛だ。

 フィーネを研究対象としたおかげで、彼女はこの、本来立ち入り禁止のユリルの塔にも自由に出入りする権利を、事実上手に入れたと言える。

 だけど、諸々ワタシの研究、特に危険な分野(というかほとんどが危険)がひと段落するまでは、あまりここには近づけたくない。

 何せワタシ一人なら、魔法の暴走だろうが突然の大爆発だろうが、なんなら王都を滅ぼすような絨毯爆撃だろうがいくらでも対処できるけど、フィーネと二人の場合、ワタシの魔法研究に巻き込んでしまう可能性が0.03%くらいある。

 これではまずい。

 かといって研究をしないというのは論外だし、じゃあフィーネを遠ざけろという話だけど、九人外があの子に絡んでいる可能性が高い以上、目を放すという選択肢もない。

 ならワタシ以外の誰かをつければいいんだけど、もし万が一、九人外が直々に来たりしたら、並みの護衛じゃ相手になるとかならないとか以前の問題だ。

 何せ九人外ともなれば、二秒あればワタシ以外の王都の国民全員を皆殺しに出来るような連中。

 せめて、敵が現れた瞬間にワタシに知らせることが出来る対応力があり、かつワタシが到着するまでの最大で五秒弱を、九人外相手に時間稼ぎできる強者というのが最低条件。

 もっと言えば、ワタシに従い、フィーネを全力で守るヤツでなくてはならない。


「はあ…………仕方ない、気は進まないけどアイツ呼ぶか」


 そう腹に決めた瞬間。

 ワタシは少し気を引き締めつつ、「塔」の四十四階に転移した。


「え?ユリル様?」

「珍しい、基本的に塔では五十階から出ないのにどうしたんだろ」


 流石は魔導王国が誇る優秀な研究者、転移阻害してあるこの塔に空間魔法で移動してきたワタシを見ても平然としているとは。


「どうしたんですか、ユリル様。あなたがここに来たということは、何か御用があるんでしょう?」

「うん。ちょっとね、頼みがあってね」

「頼み、ですか!ユリル様の素晴らしい研究のお手伝いならば、我ら一同どんなことであろうと」

「いや、ちょっと今から禁術使うから、念のため四十階から四十九階までの全員を下層に避難させといて」


 しかしそれもワタシの頼みを聞いた瞬間に全員が表情を変えた。

 半分は露骨に顔をしかめた。研究がストップすることか、もしくはワタシの魔法による被害を恐れたためだろう。

 もう半分は目を輝かせ、「見たい」とでも言いたげな顔をしていた。


「参考までに聞くんですけど―――一体どんな禁術を」

「最上級悪魔召喚」


 全員が一目散に逃げだした。


「全員退避―!三十階までを封鎖しろ!ユリル様が最上級悪魔を呼ぶとかまーたとち狂ったこと言いだしやがった!」

「最上級悪魔ぁ!?ちょっと見てみたいし研究したいけど、命が惜しいからやめとく!」

「冗談じゃねえ、逃げろ逃げろ!」

「待って待って、先輩置いてかないでぇ!」


 おいおい、「命尽きる前に最上級悪魔を見てみたい」くらい言えるヤツいないのか。

 やれマッドキャスターだ、やれ天才だと持て囃されていても、流石に悪魔召喚は怖いってことかね。


 全員が三十九階どころか二十九階以下まで退避したのを確認して、ワタシは五十階の自室に移った。

 手をかざし、術式を編んで集中すると、目の前に九重の魔法陣が浮かび上がる。

 少しだけ親指を噛んで血を出して、代償召喚の準備は完了。


「『善意なきものの象徴 真心なきものの権化。 あと中略。 魔界の王の一端たる飢餓の悪魔よ。 血の飛ぶ夜の上に降臨せよ』 【召喚魔法:最上級悪魔『ウェリス』】」


 この世界最強、どんな魔法もほぼノータイムで発動できる極限魔導たるワタシが、ほとんど省略したとはいえ詠唱と、そして集中を必要とする。

 それくらい高度な魔法ってことだ。

 まあ最も、この悪魔を他の魔導師が呼び出そうとすれば、大魔導クラスが十人くらい集まって、ルビーとかサファイアとか、そういう高魔力結晶で部屋中いっぱいにしつつ、三日三晩馬鹿みたいに長い詠唱を代わる代わる一切噛まずに唱え続け、さらに代償として術者全員が肉体と精神と魂をすべて失う、くらいやらないと召喚出来ないから、それに比べればまあ速いほうだろう。


 詠唱が終わると、途端に魔法陣が赤黒く輝き、膨大な魔力が放出された。

 まあ膨大っつってもワタシの最大の一割にも満たないからそうでもない気はするけど、それでも並みの魔導師や非魔導師じゃこれだけで気絶か、最悪死ぬ量の魔力放出だから膨大と言って差し支えない。

 結界で部屋を覆い、外部への影響を遮断してなかったら王都が大混乱になってた、危ない危ない。

 ワタシが我ながら完璧な結界の完成度に満足していると、赤黒い光と数滴たらしたワタシの血がだんだんと形となり、少しずつ人型を成していった。

 手が、脚が、胴体が、顔が出来上がり、そして色が付き、「それ」はゆっくりと目を開いた。


 現れたそれの姿は、見かけのみでその特徴を言うならば―――ロリメイド美少女。

 既存のメイド服の白と黒を反転させ、長いスカートをパンツ見えるギリギリくらいまでミニにしたような服に、超整ったロリロリしい顔。

 人間離れした美しさ、そして灰色の長い髪。

 魔力を感じない非魔導師なら見惚れていただろうと断言できる。

 でも一定以上の実力を持つ魔導師なら、出会った瞬間にその膨大な魔力質量に圧倒され、死を覚悟する。

 まあワタシからすりゃ可愛いもんだ。

 そして顕現した悪魔―――魔界に四体しか存在しない最上級悪魔の一体、「飢餓の悪魔」ウェリスは。


「あー――るじー―――♡」


 ワタシを見るなり、顔に喜色を浮かべてとてとてと近寄って来たので。


「会いたかっへぶぅ!?」


 ワタシは手の長さを利用し、近づかれるより先に顔を掴んで力を込めた。


「あだだだだだ、ちょっ、あるじったらご無体なっああああ痛い痛い、ちょっ、マジやめてっああああいたっ―――痛えっつってんだろ、離せクソあるじっ!!」


 変声気がまだの()()()()()()声で、取り繕うのをやめて暴れ始めたウェリスを魔法で壁際まで吹き飛ばす。


「ぐおおおお、か、顔が割れる…………!」

「魔力生命体の悪魔ならそんなもん一瞬で治せるでしょうが。魔力の質が同じだったから気づいたものの、一瞬別の悪魔召喚したかと思ったわ。召喚早々変な猫被りやがって…………」


 ワタシとて、悪魔だろうとなんだろうと、可愛いロリっ子に手を出すような外道ではない。

 そう、普通は手を出さない。


「な…………なんでですかあるじ!?あるじは可愛い女の子が好きなのに、どうしてこんな酷いことが出来るんですっ!」

「お前が男だから」

「…………ちっ」


 これがワタシが容赦なく手を出せた理由。

 この悪魔は男性体である。

 しかも最初に呼び出し、そして調伏したときは、こんな服の趣味してなかった。

 ショタっぽい見た目ではあったものの、普通に男っぽかったのに、呼び出すごとにワタシ好みの服に変わっていき、可愛さに磨きがかかっていくのが腹が立つ。

 いや、一応言っとくけどワタシは女装男子は嫌いじゃない。

 むしろ好きだし、男の身でありながら女らしくしようというその心構えは感服すら覚える。

 だから基本的に女の子と同じ扱いをするし、手も出さない。

 なのに、こいつに関しては、ワタシが普通に手を出す理由は。


「加えてお前、やり口バレバレなんだよ。ワタシとの契約が働くほんの一瞬狙って毎度毎度殺そうとしてきやがって、手に魔力集中させてんの気づかないとでも思ったか」

「……………………」


 そう、コイツはワタシを殺そうと不意打ちのために女装してるだけで。

 性根はシンプルに男だ。

 だから野郎と同じ扱いでよいと思ってる。

 いくら女の子の格好をしようと、中身が女の子じゃなければそれは女の子足りえないのだ。

 これ持論。

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