18 研究対象と書いてモルモットと読む
まあ、フィーネがまだワタシが好きなわけではないことなど分かり切っていたことだ。
ちくしょー。
「そして、残った君たちだが―――どういう経緯で元の場所に戻りたくない、もしくは戻れないのか、差し支えなければ聞かせてもらえるかね?」
女の子たちは顔を見合わせ、恐る恐るという感じで順番に話していった。
元々奴隷として売られた身で行く当てがない。
身寄りもいなくて、劣悪な国で育った。
丁度何もかも忘れて別の国に逃げたいと思っていたところだった
などなど。
全員嘘はついてないのを確認し、父上にアイコンタクトを送ると。
「では君たちが良ければ、魔導王国で働かんかね?無論、今回の詫びとして斡旋くらいはさせてもらう」
「えっ!?」
「ユリル、ちょっと見てやれ」
「へーい」
ワタシは全員を観察した。
天才なワタシは、他人の魔法の才能を見抜くのにも長けているのだ。
まあ本当は魔力の質や量から使えそうな魔法を推定してるだけなんだけど。
「えっと、全員規定以上の魔力量はクリアしてる。特に右から二番目の色黒ちゃんと一番奥の眼鏡ちゃん、才能ある。これからの研鑽次第では大魔導も夢じゃないかもね。他の子も有用な魔法使える子多いから職は有り余ってるよ。具体的には―――」
全員分の適正魔法とオススメ職業、俸給なんかを挙げていってあげると、全員が目を輝かせた。
予想以上の食いつきだけど、魔導王国は大国だし、国民の九割が魔導師なことも幸いして魔法で流通面も他国より充実しているから、平均収入は高くて物価は安い。
それで仕事も斡旋して、住まいもしばらくはこっちで保証するってんだから、そりゃ喜ぶか。
ワタシとしてもこの国の女の子の比率が上がるのは願ったり叶ったりだ。
結果、全員の魔導王国への就職が確定した。
* * *
「ふぅ…………疲れたな」
「お疲れ、父上」
女の子たちが解散し、ワタシとフィーネ、父上とマーリンだけになった部屋で、四人で紅茶を飲んで寛いでいた。
ちなみに紅茶はマーリンが趣味の延長戦で調合したやつ、意外と美味くて腹立つ。
「一瞬で決まりましたね。誰もごねなかったのが幸いしました」
「こういう時に善政って役に立つな」
「善政かぁ…………敷けているのかなぁ、私に」
「客観的に見てすげえ良い国ですよここは」
「そうだな、他の国と比べりゃな」
「そ、そうか?」
父上が照れてるが、おっさんが照れてるところなんざ見ても誰得状態なので、目の保養に紅茶を飲むフィーネを見た。
うーむ、所作が綺麗。指が綺麗。可愛い。
「うおっほん!それで、もう一つ決めておかねばならんことがある」
「フィーネの今後の肩書きですよね」
「…………?わたしの肩書き?」
「流石にいつまでも『ユリルの友人』だけで通すわけには行かんからな。何か考えんと」
「無難なのはユリ姉の助手じゃないのか?」
「マーリン、それはフィーネくんに死ねと言っているのか」
「どういう意味だコラ」
「それは二割冗談としてもだ。いくらユリルが人間性がいかれてて周りの迷惑を顧みないバカと言っても、天才なのは確かなのだぞ?フィーネくん―――いや、この世界のどこを探しても、助手が務まる者などいるのか?シズカですらおそらく無理だというのに」
「今、遠まわしに八割本気っつったな父上この野郎」
「カグヤはあれ、助手って言わないの?」
「アイツは違うよ、師匠と弟子ってだけ。他に言い方あるとすれば、オモチャと子供とか、研究者と実験体とか」
「あー、そうだな」
「カグヤ?」
フィーネが紅茶を飲みながら頭に?を浮かべたので、質問に答える。
「カグヤはワタシの従者だよ。七星大魔導の第二位で、ワタシの幼馴染で、唯一の弟子でもある」
「シズカが来るまでは第一位で、師弟で魔導王国のツートップだったのにな」
「あれは仕方が無いだろう、シズカが強すぎだ。カグヤ自身も敗北に納得していたしな」
「従者なのに、なんで近くにいないの?」
「基本自由なヤツだし…………」
「従者とは名ばかりで、好き放題生きてる自由人だし」
「ユリルすら手を焼く自由ぶりだからな」
「それって、従者っていうの?」
「改めてそう聞かれると、言えないわ。まあワタシと一緒にいれば会う機会もあるよ」
「うん」
って、カグヤの話はいいんだよ。
フィーネの話だ。
「ユリ姉の助手ともなれば、相応の強さ、あるいは魔力がないと務まらないだろ?フィーネさんにはあるのか?」
「さっき見てみたけど―――ないね」
「ないのか」
というか、今は口には出せないけど。
さっき女の子たちと一緒に見てみたけど―――フィーネにはそもそも、魔法の才能が一切ない。
体内に保有する魔力量が、生命維持に必要な魔力を除いて0なのだ。
かなり珍しいけどいないわけではない、魔法が使えない体質。
言わば、体内に保有する魔力が多すぎて、幼少期は常に魔法を使って魔力を放出していないと生命維持すら出来なかった、ワタシの真逆だ。
「弱ったな。そんな彼女を助手にするなどと言ったら、お前の助手希望を出してる特異なマッド連中との確執を呼ぶかもしれん。どうしたものか」
「ワタシに助手希望出してるだけでマッド扱いとはどういう了見だ」
「…………もう、『研究対象』とかでいいんじゃないのか」
マーリンがそんなすっとぼけたことを言ってきた。
やれやれ、この弟は。
そんなふざけた話が通用、する、わけ…………。
「あれ?自分で言っといてなんだけど、いけるんじゃないかこれ?」
「うむ、やるなマーリン。助手では色々と面倒なこともあるかもしれないが、ユリルの研究対象として傍にいるだけならそういう余計な話も付随しないだろう」
「感情的には全力で否定したいけど、なんか最良な気がして何も言えない」
さすがのワタシも、年頃の女の子を研究対象として連れまわしているのが一番世間から見て違和感がないというのは自分でもどうかと思う。
「い、いやいや!フィーネがそれを良しとするかでしょう!フィーネ、どう!?」
「わたしは別に何でもいい」
「…………そう答える気はしてた」
「じゃ、決定で」
「うむ、すんなり決まったな」
こうして、フィーネの職業は『極限魔導の研究対象』になってしまった。




