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17/43

17 分かっちゃいた

「ユリル、その人は?」

「こいつのことは害虫か何かだと思っといていいよ」

「ぜひ害虫とお呼びください」

「分かった、害虫」

「ユリ姉、僕は今すごい幸せだ!」

「訂正するねフィーネ、コイツはマーリン。ワタシの弟。ちゃんと名前で呼んであげて」

「直さなくて良かったのに!」


 マーリンはワタシの一つ年下の十六歳。

 金色の髪を短く切り揃え、まあイケメンの部類に入るだろう。

 さらには魔法薬学の分野で高い才能を発揮し、その方面でユリルの塔の研究者として出入りが可能なほど優秀だ。

 だけど見ての通りやっぱりガーデンレイクの血筋、筋金入りの変態野郎。

 女性に罵倒されたり、痛めつけられたり、支配されたりされることに性的興奮を覚える、まあ分かりやすく言えばドМだ。

 そのマゾぶりたるや、城に勝手に女王様を数人連れてきて、その全員があまりのマーリンのドМ度にドン引きして逃げ出すという伝説を持つほど。


「変態だからくれぐれも不用意に近づかないようにね」

「そうです、どうぞこの変態をゴミムシ野郎と罵ってくださ」

「ところでお前なんでいんの?」

「おい遮るな!」


 まったく、我が一族ながらどうしてこんなに変態が多いんだろうか。

 遺伝子って怖い。


「父上に呼ばれたんだよ。なんか美人の今後について会議するからお前も来いって。てっきり僕のご主人様オーディションかと思ったのにユリ姉の唾付きとはがっかりだ」

「それは父上の伝え方が悪いね。にしたってなんであんたなんだよ、もうちょっといるでしょマトモなのが。カンナ姉様とか、あとはこの子たちが性癖にぶっ刺さらなそうなプエナ姉様とメイシュ兄様とか」

「カンナ姉はまだ寝てた。昨日遅くまで仕事してたみたいだし寝かせてあげようかなって」

「じゃあ仕方ないね、姉様は朝が弱いし」

「プエ姉は道行く少年に抱き着いてキスを迫ったとかで警察に連行された」

「またか」

「メイ兄は…………なんか知らんけど、全身打撲と骨何本かいかれる重傷とかで医務室で治療受けてた、何があったか知ってる?」

「シラナイ」


 一割以下にまで加減したとはいえ、最上階からワタシの魔法で吹っ飛ばしたのにその程度とは、流石と言っておこう。

 その程度の怪我なら、ワタシが何とかせずとも回復魔導師の集中治療であと半日もあれば全快だろうし、ほっとくか。


「他のメンツは…………ダメだな、この美女たちに害を与える気しかしない」

「むしろなんでユリ姉が呼ばれてるんだよ、この状況で一番暴走しそうな性癖じゃん」

「この子たち助けたのワタシだし」

「ああ聞いたわ、サバーカが事件起こしたって。それ関係?」

「それそれ」

「バカだよなあ、ユリ姉を敵に回そうなんて。天変地異を生身で止めようとするようなもんだぞ」


 弟の名誉のために補足しておくと、コイツもメイシュ兄様同様、自分好みの美人を目の前にしなければ割とマトモな方だ。

 暴走度は家族の中では高い方ではあるものの、「マトモな時間がある」というだけでマシな部類と言える。

 そう、たとえ後ろにずっといた美人たちにドン引きされるような男であろうと、一応これでもまだマシなのだ。




「揃っているな」


 引き倒す美人とマーリンを引き離し、全員が席に着いたタイミングで、父が入ってきた。

 昨日の間抜けな顔はどこへやら、完全に外面の顔になっている。


「ガーデンレイク魔導王国第二十六代国王、エンリル・ガーデンレイクだ」


 父の重い言葉を聞いた美人たちが慌てて席を立って跪こうとした。

 まあ国家元首が登場して普通に座ってる方がどうかしてるってのは間違っちゃいないが。


「よい。楽にしてくれ」


 真面目な父上とか、ワタシからしてみれば違和感バリバリなんだけど、まあ空気読んで何も言わないでおいてやろう。

 後で「大人しくしてた」って理由で何か報酬ふんだくれないかな。


「まずは、君たちに謝罪をしなければならない。私の元配下の暴走によって、こんなところまでかどわかされてしまった。しかも、ここにいる愚娘を誘惑させて戦意を削ごうなどという馬鹿らしい作戦のためにだ」

「それ言う必要ありました今?」

「まったくもって度し難い、本当に失礼した。ついては我が国から、詫びとして補償を出させてもらう。その後、希望があれば故郷に即座に帰還できるよう計らうつもりだ」


 これを受けて、美人ちゃんたちの数人からほっとしたような吐息が漏れた。

 連れ去られたのがこの国だったことが幸いしたな。

 もし他国の酷い所なら、全てを主犯に押しつけて何もせずにだんまり決め込んだ可能性が高い。


「ついては、この中に自分の故郷の名が分かり、かつ戻る気のある者は挙手をしてもらえるかね」


 十七人中、九人がおずおずと手を挙げた。


「ユリル、彼女達から場所を聞いて、事実確認をしてくれ。それが済んだら、補償の後に空間魔導師に送り届けさせよう」

「なんなら届ける間でワンセットでワタシがやりますけど」

「お前はどうせ面倒くさがってその地域に直接転移するだろうが、本来不法入国なんだよあれは。普通は国境に一度転移して手続きを済ませてから再び転移するんだ、お前が英雄じゃなければ訴えられているからな」

「案の定訴えられなくなったか、魔人王とかいうあれ倒したのもああいった面倒な抗議黙らせるために英雄の肩書きが欲しかったのが一番の理由だったんで良かった良かった」

「僕、人生で初めて魔人王に同情した、そんな理由で倒されたのか人類の敵」


 呆気にとられたような顔をする美人たちの顔を眺めて楽しんだ。

 フィーネだけは分かってないように首を傾げてた、いやー可愛い。


「そちらの方、やはりユリル・ガーデンレイク様だったのですね……………。凄まじい魔法を扱っていらしていて、魔導王国でピンク色の髪といえば、もしやと思ってましたけど」

「え、ワタシのこと知ってた?いやー光栄だなあ、あなたみたいな美人に知ってもらっているなんて」

「その知ってたっていうのが勇名か悪名かで変わってくるな」

「別に何も変わらないでしょ。『美人がワタシのことを知っていた』これだけでワタシの心は満たされるのよ」

「ユリ姉って人生楽しそうだな」

「おい馬鹿共、私語を慎め」


 捕まっていた子たちが順番に自分の住む国と地域を言っていき、ワタシはそれを精神魔法で嘘がないか確認しつつ、解析魔法で場所を広域検索、さらに突き止めた場所を付呪魔法で千里眼と地獄耳を付呪した聴覚と視覚で観察、場所に間違いがないことを確実にした。


「ユリル、座標は分かったか」

「分かったけど、言っちゃったらこの子たち帰っちゃいますよねぇ…………」

「いいから早う言え、彼女達がいつまでも帰れなくなっていいのか」

「そりゃダメだ、女の子の不幸は土にも劣る酷い味だ。父上のメモ帳に念写したんで、空間魔法が使える魔導師に呼びかけしてください。魔力や技術の問題で飛べない魔導師でも、ワタシが最強化魔法でブーストするのでとりあえず空間魔法使えりゃ誰でもいいですよ」

「仕事が早いな。分かった、一時間以内に集まるよう手配しよう」

「あ、ありがとうございます!」

「あ、お礼ならぜひいなくなっちゃう前にワタシのほっぺに―――はっ!?」


 しまった、今までのテンションでナチュラルに女の子を口説いていた。

 フィーネの前で。

 なんたる失態、侮辱の目を向けられていたりしたら、ワタシは―――!?


「…………?」


 …………。


 うん、なんも反応してねーわ。

 良かったはずなのになんだろう、この妙な虚無感は。

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