15 神の領域(文字通り)
「―――あはははは!!」
あー面白い!
やっぱりあの子、見てて飽きないわ。
いやーしかしなるほど、そうなったか。
やっぱり、女神の権限による未来視は使わないに限る。
こうやって素晴らしい物語を紡いでくれる逸材に、千年ごとくらいに出会えるのが最高だね。
あれ、この物語を一緒に見に来てくれた人だね?
ここまで一緒に見てくれているとは、君はなかなかどうして話の分かる人じゃないか。
え?わたしかい?
ほら、この物語の説明をするときに最初に会っただろう?
ああ、そうか!あの時の答え合わせがまだだったね。けどぶっちゃけ、聡明な君たちなら大方予想はついていただろう?
わたしは神だよ。女神シラユキ。
この世界を、ひいてはユリル・ガーデンレイクを間接的にとはいえ生み出した女神さ。
まあ女神とはいえ、この世界においては君たちと同じく基本的に傍観主義者だから、そんなに御大層なものでもない。気を使う必要は無い。
さて、ちょっと聞いてみたいな。
この世界でわたしが『主人公』にすると決めたあの子―――ユリル・ガーデンレイクの物語、ここまではどうだったろうね?
魔人の王を降し、その一年後に偶然、超自分好みの美少女を発見し、結婚を申し込み、最終的には「まずはお友達から」に落ち着いて、彼女の裏にいる強大な何者かに密かに喧嘩を売ろうと試みる。
いかにも「完結済みの物語の後の蛇足」って感じがして最高だろう?
わたしはユリルのそういうところが気に入ってるんだよねえ。皆はどうかな?
さて、長々とわたしなんかと話してたってつまらないだろうし、そろそろ―――
「なにやってるんですか、先輩」
んあ?
「あれ、大神様じゃん。一介の上位神にすぎないワタシなんかの世界に、何の御用で?」
「どの口が一介の上位神とか…………。相変わらず無茶苦茶な世界創ってるみたいですね。最高位神様を誤魔化すのも意外と大変なんですよ?」
「あははは!まあそれは今までのあんたに対する貸しの返上ってことで」
「そろそろその借り、多分全額返上できると思うんですが…………。にしても、ちらっと見ただけでも、最下級クラスとはいえ神に近しい実力者がゴロゴロいるじゃないですか。もうちょっとマトモで堅実な世界を創る気ないんですか?」
「ないね!わたしは自分が面白いと思う世界しか作らない。無難な世界なんてクソ食らえだ。そういう面ではあんたの世界もいい線いってたよ、無難な下位・中位神たちが勇者に魔王を討伐させて人間を繁栄させてる中、人間滅ぼして魔族の世界を創っちゃうとか、ナイスなセンスだ」
「あれは仕方がないでしょう、人間が私の世界の害悪だったんです」
「先代の大神もバカな真似したよねえ、このわたしが一番目をかけてた後輩敵に回すなんてさ。最高位神様に今までの怠惰な働きがバレて下位神にまで落とされた時の先代の顔といったらなかったね。さらに自分を貶めたその女神が大神に出世だから、内心たまったもんじゃないでしょ」
「知ったことじゃないですよ。というか話をそらさないでください、そろそろその世界の魂の全体レベルを弱体化させた方がいいって話です!先輩にそういう意思がないのは分かってますけど、神界に対する謀反を企んでるんじゃないかって邪推してる神もいるんですよ!?」
「行動にさえ起こさなきゃ何もしてこないっしょ。こんなことで最高位神様は出てこないし、そもそもその下の大神があんただ、わたし知ーらない」
「それは、また色々と私に丸投げってことですね…………はあ、良いですよ分かりましたよ、昔の恩もありますし、今回は何も言いません。でも本当にもうちょっと自制してくださいね?」
「分かってるよ、今注目してるこの子が死んだりしたら考えるさ」
「この子ですか―――げっ!なんですかこの魂のレベル、人間に与える基準値を大幅オーバー!?ちょっと先輩、流石にやりすぎでは!?」
「ちょっと神域協定の穴はついてるけど、問題なし」
「くっ、言いたいことが十や百ほどあるけど、何も言わないと言った手前…………!」
「相変わらず真面目だねえ、もうちょっと肩肘伸ばそうよ」
「先輩が奔放すぎるんですよ!ああもうっ…………本当に、この神にだけは勝てる気がしない…………」
数百年前のとある事件がきっかけで、まんまとわたしを追いこして大神になっちゃった後輩の表情変化を楽しみながら、酒を一杯煽る。
いやー、この子のからかい甲斐は、上官になった今でも相変わらずで何よりだ。
「先輩なら、本気になれば大神どころか、最高位神様の側近クラスすら狙えるでしょうに…………。才能の無駄遣いの権化みたいな神ですよね」
「わたしは自分が楽しければそれでいいもん。側近とか自由がなさそうで面倒くさい、絶対やらない。それよりわたしにばかりかまけてていいの?他の神の見回りも行かなきゃいけないでしょ」
「はいはい。えっと、『転生』と『無限』の女神シラユキ、異常なしと。次に出会うのが裁判じゃないことを祈ってますよ、先輩」
「はいはい」
『死』と『憤怒』なんていう、あの真面目さに似合わんもの司ってる可愛い後輩に、最後に一言。
「じゃあねー、イスズ。次会うのは天照と一緒に日本風のお茶会がいいかな」
「…………はいはい、用意しときますよ、シラユキ先輩」
最後までため息をつき続けてたなあ、流石はマトモな大神、苦労が絶えないんだろうねえ。
おっといけない、君たちをほったらかしにしてたね。
あの子の世界の話は既に語り終えられてるはずだ、探してみれば見つかるかも。
それより、話の続きにそろそろ戻らないと。
神の世界からの観測は、結構時間とかがシビアだから見逃さないようにしとかなきゃ。
さて、そろそろ視点をユリルに戻そう。
わたしはあくまで傍観者、君たちと同じ立場だからね。
この物語に、必要以上に干渉することはしない。
ただちょっとした、そうだな、マスコットみたいなものだと思っていてくれ。
じゃあ、再び入ろうか。
ユリルとその愉快な仲間たちの、愉快な物語の中に。
このマトモな神様について詳しく知りたい方、作者の百合処女作をご覧下さい。
既に知ってる方は作者の感謝の土下座をご覧下さい。




