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11 可愛い子は名前も大体可愛い

「【空間魔法:テレポーテーション】」


 父の意見を採用し、くだんの彼女を連れてくるべく、ワタシはホテルの一室の前に来ていた。

 顔を見た瞬間に心臓が爆発して死なないよう、全力深呼吸をしてから、鍵を開けて中に入った。

 室内は明かりがついていて、人の気配もする。

 生唾を飲み込んで奥に進むと―――。


「あ、さっきの人―――」

「ありがとうございます!!」

「…………お礼?」


 バスタオルを肩にかけ、顔を赤らめ、薄着でベッドに腰かけた女神がそこにいた。

 どうやらお風呂に入っていたらしい。

 あまりの神々しさとエロスに思わず、人生初の土下座を敢行してしまったワタシは、鼻血が噴き出しそうになるのをぐっとこらえ。


「し、失礼。実はワタシの父があなたに会いたがってて、一緒に来てくれる?」

「あなたの、お父さん?なんで?」

「いやー、国王としてなんやらかんやらあるし、ワタシとの今後の関係とか諸々も」

「あなた王女様だったの?」

「イエス!だからワタシと結婚すれば生涯食べるのには困らせないよ!」

「それは魅力的」

「でしょう!?…………まあ、その辺の話もしなきゃだし、一緒にいい?」

「わかった。一緒に行く」


 ワタシが王女だと聞いても、クールな顔を崩さない美形。


「じゃあ、行こう」

「え、その格好で?ほぼほぼ下着だけど」

「…………?何かダメ?」

「うん、ダメダメ」

「そう」


 なるほど、クールに加えて天然ちゃんか?

 まったく、どんだけワタシの性癖にグーパンしてくりゃ気が済むんだ。

 ワタシが糸魔法で一瞬で作った服を黙々と着ている彼女の姿を見て、ワタシは無意識に胸の前で手を合わせて拝んでいた。


「これでいい?」

「はい、ごちそうさまです」

「?」

「じゃ、じゃあさっさと行こう!【空間魔法:テレポーテーション】」


 涎と鼻血をふき取り、一瞬で父の書斎の前まで戻ってきた。


「これが、魔法?凄い」

「え、魔法を見るのは初めて?」

「少なくとも、記憶にはない」

「…………?」


 少し違和感を覚えたけど、それを調べるのは後だ。

 ワタシは既に破壊された扉をくぐり、彼女もそれに続く。


「父上、連れてきましたよ」

「ああ、ご、く、ろ、う…………」


 何やら威厳たっぷりに「ああ」とか言った父は、その後ドンドン尻すぼみになっていって、最終的に威厳もクソもない間抜けな顔になった。

 訝しんでそれを見ていると、父の視線はワタシの後ろの女神ちゃんにくぎ付けになっている。


「ちょっと父上、うちの子にそんな見惚れないでくださいよ」

「うちの子?」

「ユリル、お前ちょっとこっち来い」


 間抜けな顔は僅かな時間で引き締まり、代わりに父はワタシの首根っこを掴んで部屋の角まで引っ張った。


「なんすかちょっと」

「悪いことは言わん、分不相応だ。やめておけ」


 ふむ。


「父上、見損ないましたよ。確かに王族であるワタシと、今の所どこの誰かもわからない彼女では身分差というものがあるでしょう。しかし、ワタシはそんなものは気にしません、むしろ」

「何を寝ぼけたことを言っとるんだお前は。そうじゃない、お前が彼女に釣り合わんと言っとるんだ」


 なるほど、そっちか。

 喧嘩なら買うぞコラ。


「詳しく聞こうじゃないですか」

「なんだあの美少女は、私が今まで見てきた中でもダントツと言っても過言ではないぞ!絶世の美女と聞いて誰もが思い浮かべる可愛い系美女をそのまま具現化したと言っても過言ではないレベルではないか!クソッ、私があと二十、いや十年若ければ…………」

「あんた今年五十二歳だろ、どうみても十代の子を召し上げようとすんなハーレムジジイ」

「黙れ百合ガキ、女性にモテたいというのは男の本能だ」

「気持ちは分かる」

「お前は女だろ」


 とんでもないことを言い始めた父上、とりあえず今の会話を録った録音魔法は母上たちに聞かせるとして。


「子供がお相手として連れてくる方としては最上級と言っても過言ではない素晴らしい女性だ。だがユリル、連れてきたのがお前となると話は別だ。あんな美人をお前の被害に晒すわけにはいかん、やめとけ」

「ほざいてくれるじゃないですか。言っときますけどワタシが自分の実験に巻き込むのは野郎だけです、女の子を被害に合わせたことは一回もないですし、傷一つつけたこともないですよ、これマジです」

「んなこと知っとるわ。そうではない、お前の精神と人間性の崩壊レベルを考えろ。ああ見える、お前が彼女を泣かせる未来が…………」

「さっきも言ったけど、家族なら何でも言っていいと思うなよ父上」


 とりあえず、こんなところで父上なんかと言い争ってる場合ではない。

 女性を待たせるというのは、三流がすることだ。

 同じ考に至ったらしい父上は、再び首を傾げている彼女に近づき。


「大変失礼した。私がユリルの父、エンリル・ガーデンレイクだ。体の方は大丈夫かな?」

「え、あ、はい。国王陛下にあらせまして…………あらせられまして?えっと」

「ああ、そういうのは気にしないでいい。元々うちのバカ娘が勝手に君を気に入って勝手に頭のおかしいことを言い始めたのがきっかけだからな、気を負う必要はない」

「そう、ですか?」

「そうなのだ。だから君もこのバカに何かバカなことを言われたかもしれないが、気にせずにいてくれ」

「おい」


 美少女がこの場にいなければ、メイシュ兄様と同じ軌道を描いてもらうところだぞコラ。


「まずは謝罪を。除名されたとはいえ、我が王家に仕えていた者が今回の主犯だったようだ。君たちには恐ろしい思いをさせてしまった、すまなかった」

「いえ、あれはボーッとしてて騙されたわたしも悪いから…………」

「勿論、君を含めて他の捕まっていた少女たちに対して、出来る限りの補償をさせてもらうつもりだ。故郷が分かる者たちは責任もって送り届け、往く当てがない者がいた場合は我が国で保護しよう」


 こういう誠実かつ非を認める能力があるのが、父が自然に人を惹きつける要因の一つなんだろうな。

 ワタシにはない才能なので、ここに関しては尊敬する。

 父はさらに言葉を続ける。


「他にも色々と話さねばならぬことはあるのだが…………その前に、君の名前を教えてくれないか?」

「父上、それはワタシが聞きたかったことだというのに!」

「名前など誰が聞いても同じだ、なんだったら又聞きでも良い。重要なのはその後、どうやって親交を深めるかだ。それも分からず、自分が一番最初に聞きたいみたいな妙なプライドを持ってるからお前はモテないんだ」

「よーし、その喧嘩買った」


 彼女にバレないよう、父上の頭がポンコツになる呪いをかけてやろうと構えると。


「名前…………」


 ワタシたちの親子喧嘩を意に介した様子もなく、少女は考え込むように顔を伏せた。


「…………?」

「どうしたのかね?」


 ワタシに対してファイティングポーズを取っていた父も、それに気づいたようで彼女に問いかける。


「あっ」


 やがて彼女は、ハッとして顔を上げ、自らの名前を呟いた。


「…………フィーネ、だと思う」


 うむ、予想通り超絶可愛いお名前だ。

早くも日間ランキング25位、ありがとうございます!

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