10 日頃の行いは大事
「ワタシ、結婚します!」
ワタシは父と二番目の兄に向かって、そう高らかに宣言した。
あの後、首を傾げて目をぱちくりさせている彼女を、他の美少女たちと共に地上に移動させ、一流ホテルを金に物を言わせて貸切って全員そこに宿泊してもらった。
彼女に「すぐ呼ぶからここで待ってて」と言うと、頭に?を浮かべながらもコクリと頷いたのを確認し、一応は結婚という人生の一大イベントを家族に報告しなくてはと思い、まずは父の所に来た次第である。
いや、ワタシだってちょいと早すぎるのは分かる。
ワタシとて良識のある大人だ、お付き合い0秒ですぐに結婚!というのは、ちょっと段階をすっ飛ばしすぎではないかというのは理解できる。
しかしよく考えてほしい。
なにせあれほどの美少女だ。超絶弩級前代未聞空前絶後の、ワタシの理想をすべて詰め込んで2をかけたような美しい顔。
あれ、あの、えっと、もう顔も名前も思い出せないけど、とりあえずあの地下にいた雑魚男が―――このワタシに挑もうなんて世界で一番頭悪いこと考えていたバカが、ちゃんと栄養バランスのとれた食事と牢屋といえそこそこ大きな部屋、そして誰よりも強固な結界を張っていた程度には特別扱いをしていた。
つまり、アイツも彼女の美貌はワタシに対する切り札足りえると思ったんだろう。
その通りだ。
多種多様な意見あるだろうが、「バカでも分かる美しさ」、これが究極の美であるとワタシは思っている。
そんな彼女をだよ、間違いなく世に送ればコンマ0秒で野郎共が群がってきそうなあんな美人を、このワタシが手放す理由がどこにあるかね?
あんなのを男にくれてやるなんて勿体ない、いやさ女の子にだってあげないわ!
あの娘は他の誰かに見つけられる前にワタシが娶る、異論は認めんそれがワタシのプロポーズの理由である、Q.E.D.!!
そんな熱き思いを一言に詰め、大声で報告してみたわけだが。
「…………」
「…………」
「…………」
「メイシュ、茶、おかわり」
「あ、うん」
「やはり茶はほうじ茶に限る。異世界の味を苦労して再現した先代に感謝だな」
「僕は緑茶が好きだけど」
「うむ、それもいい。やはり二ホンとかいった、例の異世界の国は偉大な―――おいユリル、せっかくの茶を凍らせるとは何事か」
「解凍してほしくば話を聞け。さもなくば、ここにある茶葉と酒がすべてワタシの魔法薬実験に使われることになる」
何故か無視を決め込んだ二人に腹が立ち、茶と部屋の一部を凍らせ、ついでに二人の足元も凍らせて逃げられなくしてみた。
「なんなんだ、まったく…………結婚とか言ったか?もう勘弁してくれ、今度はどのキャバクラ嬢に入れ込んでそんな話までもつれ込んだんだ。どうせお前の買う馬鹿みたいに高い婚約指輪だけかっぱらって売り払うための詐欺かなにかだろう」
「なんて失礼ことを!キャバクラの女の子たちとは一線引いた関係を心がけてるのでそんなことにはならんわ!ちゃんと普通の子です!」
「じゃあお前の百合趣味を聞き付けた他国の間者とか何かじゃないのか?でなければお前の開発した未発表の魔法術式を狙う野心家な魔導師とか」
「んな気配あったらプロポーズなんぞしとらんわ!さっき仕事してた時に捕まってた子だよ!超可愛かったから結婚するって決めたの!」
足止めされた状態だというのに遠慮なくワタシにド失礼なことをぶちまけてくる父と兄に対して、怒りのままにそう言うと、何故か二人は憐れむような顔を作り。
「聞いたかメイシュ、さっき会ったばかりの少女に一目惚れしてプロポーズだそうだぞ。何故こいつはこう、行き当たりばったりな人生を送っているんだ。どうせ向こうの意思も確認せずにこっちに来たに違いない、なんとお詫び申し上げればよいか」
「僕の読みでは、まだ名前も知らないとみたね。しかしユリルの毒牙にかかってしまうとはなんて不幸な娘だ、そんな美形ならもっと違う人生があっただろうに」
「おい、家族なら何言ってもいいと思うなよお前ら」
本来ならこの場でぶっ飛ばしているところだが、都合の悪いことに言っている予測が全部合ってるからぐうの音も出せない。
「『とりあえず話を聞こうか』くらい言え!愛娘と愛妹の結婚になんでそう懐疑的なんですか!」
「『愛』、娘…………?」
「すまない、もうロリじゃなくなったお前は別に興味ない」
「おい、父上も大概だけどそりゃどういう意味だ兄様、数年前までワタシをそういう対象として見てたってか!ちょっと鳥肌立ったわ!」
「いや誤解だ、元々大切で可愛い妹だと思っていて、それが今では別にというだけだ、妙な言いがかりはよして―――」
とんでもない暴言を吐き始めた兄を魔法で吹っ飛ばし、窓から一階に突き落とした。
「今のはメイシュが悪い」
「ですよね」
まあ死にはしないだろう。
「で、お前の結婚云々はとりあえず後回しだ。まずは何があったか報告しろ」
「案の定地下がありました。この国狙うテロリストが百五十人くらいいたので全員倒しました。主犯は元七星の男です、名前は忘れた。ワタシへの切り札として美少女が捕まってたので助けました。そのうち一人がワタシの好みドストライクだったので結婚します。以上」
「そうか、ご苦労。なるほど、主犯はサバーカか」
「あ、そうですそれです」
「危険な雰囲気のある男だと思っていたが、お前に挑もうとするとは愚劣極まりないな」
「まったくですね。なにやらほざきながらワタシに向かってきたのでボコボコにしときました。拘束してあるので誰か派遣してください、ああ一応、七星を一人付けるといいと思います」
「なるほど、腐っても元七星だしな、警戒は必要か。お前の所のカグヤを借りられないか?」
「良いですけど、なにやらシズカにめっちゃ恨み持ってたみたいなんで、彼女を派遣した方が面白いかと」
「ああ、そういえばヤツは入れ替わり決戦でシズカに手も足も出ずに敗北していたな。その恨み言うわけか馬鹿らしい」
「ワタシほどでこそないものの、大魔導の枠組みを外れる超級の魔導師に嫉妬とは、阿呆にもほどがありますよね」
「もっともだ。よし、そういうことならシズカに行かせるか。カンナの許可を得なくてはな―――とはいえこの時間だ、お前の拘束魔法なら誰にも解けぬだろうし、明日でいいだろう」
「ですね」
「では今回はご苦労だった、約束通り報酬はお前の外出を十回見逃す。サービスだ、今晩の件はノーカウントにしてやる」
「マジすか!」
「ではもう行ってよいぞ。ご苦労だった、お休み」
「はい、おやすみなさーい」
ワタシは明日からの実験と女の子の日々を思い描き、スキップしながら塔にある自室に戻ろうと―――。
「いや違う、結婚云々についてまだ話してない!」
「ちっ」
この男!
「こうなれば是が非でも聞いてもらいますからね、ああそれと、今からするのは『相談』ではなく『報告』なので、父上の意思の介入は出来ませんので悪しからず」
「悪しかるわ。とりあえず一応聞いておくが、そのくだんの少女からの返事は受けたのか?」
「そういえば受けてないっすね」
「じゃあ彼女の名前は」
「そういえば知らないです」
「どこ出身」
「そういえば」
「もしかしなくても顔以外の情報を考えずに結婚結婚とほざいていただろう」
「おお、そういえばそうだ。さすがは父上、情報収集と肩書きで妻を八人娶った節操無しは言うことが違いますね」
「ぶっ飛ばすぞ」
父は肺の空気を全て吐き出すが如きため息をついて、言った。
「ならもういっそ、その少女をここに連れてこい。話はそれからだ」
なるほど、たしかに。




