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小説即興トレーニング

こんにゃくの彼(お題:フニャフニャした人)

作者: 夏夜 花火

彼はこんにゃくが好きだった。彼について知っているのはそれくらいで、他のことはほとんど知らない。耳にかかっていた髪の隙間から銀に光るイヤリングが見えたことや、立ち上がる時によく頭をぶつけていたから背が高いんだなと思ったこと以外はよく思い出せない。顔さえ正面から見たことがないのだ。

毎年冬の同じ川沿いの道にやってくるこじんまりとした屋台で時々隣に座ったくらいの関係だった。彼は決まってこんにゃくを頼んだ。私は彼がこんにゃく以外を頼んだところを見たことがない。

屋台のおじさんが「そんなにこんにゃくばかり食ってるからフニャフニャ、フニャフニャした人間になるんだ。」なんて半分冗談のように言っていたことがあるから、たぶん本当にこんにゃくばかり頼んでいたのだろう。


そんな彼のことを思い出したのは、また冬が来て私がふらっと屋台に寄った時、おじさんから彼について尋ねられたからだ。

「ケイ君最近来てないけど、どうしているか知らないかい?ほら、毎年来ていただろう?背の高い、イヤリングした」「ああ、あの人ですか。私は隣に座ったことがあるだけで何も知らないですね。」

おじさんは、そうか、と言った後私に卵と大根が入ったお皿を渡した。「心配だなあ。」おじさんはそう言いながら具材を混ぜていた。

「あの、ケイさん?ですか?あの人どんな人なんです?」私はなんとなく気になって聞いてみた。

「んー、僕もほとんど知らないんだけどね、大学にも行かず、かといって働きもせずにふらふらして、それなのにどことなくいい恰好をしていただろう?あんまり関わらない方がいい人かなって思ってもいたんだけどね。だけど彼のことを知っているて言う人から前はあんなんじゃなかったって聞いてね。彼に何かあったのかそれとなく聞いたことがあったんだよ。」

料理から立ち上る湯気がゆらゆらと白く昇っていた。

「彼はなんて言ってましたか?」

「病気でね...こんにゃくが食べたいって言ったんだよな。って言っただけでそれっきり黙ってしまって。悪いこと聞いたかなって気がかりだったんだよ。」それから私も何を言っていいいかわからなくなってしまって黙っておでんを口に運んだ。


それから2,3日後だったか、コンビニでアルバイトをしていたとき、こんにゃくを頼んだ人がいた。背はすらっとしていたが、彼だったか確信は持てなかった「こんにゃくって死ぬ前に食べたくなるほどおいしいと思う?」「えっ?」「俺、まだ、分からないんだよね。」私が何か言う前に、そのまま彼は行ってしまった。彼の耳には銀のイヤリングが光っていたと思う。


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