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隠居の魔女は今日も温厚に

作者: 後藤悠慈

 ちょうど陽が真上に上る昼時間。草木は気持ちよさそうに日を浴びて世界の空気を浄化している。暖かで少し優しい草の匂いを大きく吸い込み、大きく伸びをした。この場所に来てからどれほど経ったか分からないけれど、同じ場所でも環境と天気が違えば飽きることはない。ある日にいなかったちょうちょが、今日は群れを成して飛んでいるのが目に見えて、今日の景色は一層華やかだった。


(うん、今日も争いごと近くにないし、静かで平和な日ね。それが一番だもの)


 どこの国境にも当たらない狭間の土地。人が集まる村や町もないここなら、何か面倒事があっても、地形を変えるほどの力を使ったとしても、何も問題はない。そんな場所で、私はここに住み着いている。


「穏やかな日ね。お年寄りのおばあさんが散歩する絶好の日和じゃない」


 ふと、背後から聞き馴染みのある女性の声がした。いわゆる魔女仲間だ。彼女が来ることについては、まだどうしても感知することが出来ないでいる。


「あら、そうね。だからここまで散歩してきたんじゃないの?」

「私はまだそんなお年じゃないし、あなたの体を気遣って言ってあげただけなんだけどね」

 

 私は彼女の方へと視線を向けた。そこには、煌びやかなドレスに身を包んだカトレア国女王、カトレアがいた。金髪のロングを風になびかせ、悪戯な笑みで私を見ている。


「今日は何を話しに来たの? あいにく飲み物は切らしてるから、出すならそこの雑草茶でも出しましょうか? あなたにはお似合いね」

「それなら遠慮する。そうね、今日は割と大切な話かもしれない。あなたが良いなら、ここでこのまま話すけど、どうする?」

「このままで良いわ。家だと息苦しくてしょうがないもの。特にカトレアを招き入れる時はね。感情的になったら家がなくなっちゃうし」

「それはどうも。それじゃここで」


 カトレアはそう言い、魔法で切り株の椅子を具現化し、腰掛ける。私はそのまま草のソファを魔法で作り、足を組んでカトレアの言葉を待つ。


「さてと。それじゃあ、始めるわ。まず、あなたの存在について」

「え、なにそれ。改めて話すことがそれなの? もっと他に楽しい話題で良いじゃない。今までに殺した人の数とか、捕まえた反社会的組織の人の数とか」

「残念ながら話すことがこれ。それにそんな話題、私は持ってないし。――それで、まずあなたの存在が、各国の王に周知されているのは知ってるわね」

「ええ、もちろん。当然、国家機密になってると聞いてるわ。別にやましい存在じゃないのに」

「あなたはそう思っていても、各国王は違う。あなたの力が、歴史が怖いんだよ。あなたの天性『原子力』は、今じゃ禁忌の存在なんだし。生まれてきてしまったら、短い生涯として終えるしかない、その天性がね」


 私の天性。それは、原子力。凄まじいエネルギーを私は瞬時に生み出すことが出来、それを応用して戦闘にも、日常にも、自分自身にも流用することが出来る。簡単に人を殺せるし、国を滅ぼすことも出来るし、なんなら、多分この星も破壊できるかもしれない。そして、各国の王たちはその力を恐れている。遠い昔に起きた悲劇も相まって、それこそ、禁忌の存在として、腫物としている。そんな風に扱われているのはとっくの昔に知っているのだ。だから私は、国に被害が出ないように、国境に入らない辺境の地で暮らしているのだ。


「それで、その話を今持ち出したってことは、その力について各国の王たちが何か言って来たってこと?」

「そう。例によって、現レダラム帝国皇帝が、極秘国際会議を招集したの。それで、その話の中にあったことを伝えようと思ってね」

「随分優しいのね。私に聞かれて恥ずかしいことも出ただろうに。私の下着は地下深くまで埋めて処理せよとか」

「バカね。そんな笑い話ですめばここに来てないわ。――ここからが、本題」


 カトレアは一旦息を整え、そして続ける。


「今後、あなたが移動、国領に脚を踏みいれた際は、即刻逮捕、もしくは武力行使により撃退せよっていう意見が出た」

「あら、それなら別にやってくれて構わないわ。それなら移動するときは国領を気を付けて進むし。あ、それなら国領を引いた地図でも欲しいけど」

「それは後でまた送るよ。でも、この会議の意味は、その意見が出たことじゃない。そもそも、今までの意見では、あなたには一切の関わりを切り、感知しないという意見でまとまってたの。その長年の意見を、今回の会議で関わる方針の意見が出たことが問題なの」

「ああ、そういうことね。そっか、確かに、敵に全力で来られたら、私だってそこまでうまい訳じゃないし、全力で応えざる負えなくなる」

「それで、あなたが国際的な敵だと認知させようとしているんだと思う」

「それで、行きつく先の結論は、結局あれね」

「そう、あなたを隔離拘束し管理するってこと。そして、それはレダラム帝国が率先して言い出すでしょうね」

「でもおかしいわね。今の皇帝は、侵略的な思想は持ってないんじゃなかった?」

「ええ、でも、それ以外でも力を欲する理由はあるわ。あなたの力を、今の国領の維持、発展、防衛に使う気かもしれない。少なくとも、それくらいをやってやろって、彼は思うはず」

「随分詳しいのね。次会う時は、レダラム皇帝との結婚式かしら」

「バカ言わないで。とにかく、意見程度で会議は終わったけど、多分、今までの平穏な暮らしは難しくなるかもしれないわ。その忠告に来たの」

「なるほどね。――まあ、あなたの友情には感謝しているわ。でも多分、それこそやりようはあると思う。結局、力だって、使い様だし。別に国を相手に戦争する気もないわ。むかつく反社会的組織の人間たちを懲らしめるくらいね」

「そうね。まあ、そういうこと。それじゃ、私は帰るわ。また会いましょう。魔女会の時にでもね」


 最後に彼女はふんわりと柔らかい笑顔を残し、足元に魔方陣を出現させて一瞬で光となって消えていった。

 私はそれから、これからのことを考えていた。この天性の力は多様に渡って利用できる。だからこそ、私は人里から離れ、自分自身のために使おうと決めて生活してきた。今やこの天性を持った子たちは、極端に少ないようだ。理解ある人は天性であることを隠して国外へ逃がすか、隠して生きているのかもしれない。レダラム帝国は自国で生まれたらどうしているのか分からないが、私を欲しているのであれば、満足に研究出来ていないのだろう。

 これが、私が持っている責任だ。この力を悪用させない責任。それを、もうずいぶん昔から教えられてきた。大先祖たちが、この中世界にあった数多なる大陸を破壊しつくしてきた歴史を繰り返さないように。

 力も要は使い様。だから私は、今日も自分のために、その力を、飛ぶ元気のないちょうちょに使い、元気になって空へと帰すのだ。


 

お疲れ様です。

今回も戦闘などはない会話劇にフォーカスしてみました。

今後も一話完結系や短編を投稿していこうと思います。

よろしくお願いします。

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