実技試験
簡単すぎて動揺していた私だったが、一応すべての問題を解き終わった。
勘違いしたままだが………
「そこまで!筆をおいてください。答案用紙はそのままで構いません。これより実技試験に移ります。場所を移動するのでついてきてください」
立ち上がりそのままついていくと、ついたところは大きな実技演習場だった。
「これより一人ずつ的に向かって全力で魔法を放ってもらいます。受験番号7000番の人から五人ずつ横に並んでやってください。ちなみにここに張られている結界は王級魔法も防ぐことができるので、安心してやってください」
周りでは「おお……」「さすが……魔法最高峰の学園……」などという感嘆した声が聞こえてきた。
一方シルヴィアは……普段から帝級魔法をポンポン使っていることもあって、
(全力でって……そんなの試し打ちしただけで破れちゃうじゃない………)
などと考えていた。
「では、始め!」
「雷の怒り!」
合図と同時に隣から詠唱とドカン!という爆音が聞こえてきた。隣を見ると金髪碧眼のまさに王子様という感じの人が立っていた。
シルヴィアは人との関わりが少なく、周りにいた人はみんな美形だったため、この世界での美形率が高いと勘違いしている。
そして、視線を音のした方向に移すと的が跡形もなく吹き飛んでいた。
(今のは、雷系統の上級魔法?見た目からしてこの人、人間族のはずだけど……)
なんて考えたのもつかの間、シルヴィアはすぐに考えを変えた。
(上級魔法は私にとっては下級魔法でしかないけど、みんな上級魔法が使えるっていうのは結構すごいのね。この学園)
周りの人たちが驚愕し「あれが噂の今年の主席候補か……」「召喚された勇者よりも強いって噂だぞ」「規格外すぎるわ……」などと声をひそめて話しているのにもかかわらず、シルヴィアは考え事(とんでもない勘違い)をしていた。
じゃあ、私も平均っぽい上級魔法にとどめておいたほうがよさそうね。
そうして空気を読めないシルヴィアは水系統の上級魔法を放った。無詠唱で………
『荒れ狂う波!』
放たれた魔法は問題なく的を破壊したのだが、違う点で問題が起こった。
突如、バリン!というガラスが割れたような音がしたと思ったら、なんとシルヴィアの魔法に耐えられず結界が破られていたのだ。
「ゑ?!」
この結界、王級魔法も防げるんじゃなかったの?!
というか、どうしてさっきの人と同じ上級魔法なのに私の魔法は防げないのよ?!
それはただ単にシルヴィアの魔力量が多すぎて、普通ではありえないレベルの上級魔法となってしまっていたのだが、シルヴィアはそれどころではなくその事実に気づけなかった。
「って、やば!」
私の魔法は結界を破った後も威力を落とすことなく進み続けていた。
このままではいずれ誰かが、怪我をしてしまうと考えた私は仕方なく少しだけ神力を使うことにした。
私は、放った神力を器用に操り、いきなり魔法が消えたように見えないよう少しずつ魔法を霧散させていった。
普通一度はなった魔法は、消したりするなんて真似はできない。それが魔法を行使した本人であってもだ。
だが神竜族は自分と自分より弱い者の魔法ならば、神力で霧散させることができるというチートな特性を持っていた。
そもそも神力を感じ取れる者はほとんどいない。またいたとしても、それが神力という力であることなどは、わからないだろう。
そうして無事に魔法を霧散させることができたシルヴィアは試験官と周りにいる人たちにどう言い訳するか考えていた。
すると、試験官が震えた声で話しかけてきた。
「あなた、今使った魔法は?!」
幸運なことに魔法が消えたことには気づかなかったようだ。
「えっと、ただの水系統の上級魔法ですよ?きっと、さっきの最初の魔法が影響しているんですよ!」
「ただのって……無詠唱でしたよね?!………それにさっきの魔法は普通の上級魔法よりも威力が桁違いでした。あ、あなたはいったい何者ですか?」
「見ての通り人間族で、平民で、少し魔法が得意なだけな女の子………ですよ?」
「どうして疑問形なんですか……っというか平民?!それに少し魔法が得意なだけって……ありえない……」
「というかあなた、本当に人間族ですか?そんなにフードを深くかぶって、なにかやましいことでもあるんですか?」
「ええ?!そんなこと………」
「とっとと、その怪しいローブの下の素顔を現しなさい!」
私が言い切る前に試験官が私のローブのフードをつかみ、無理やり私の素顔をあらわにした。
その途端、鬼の形相をしていた試験官の顔が固まった。
「あ、あなたは……いえ、あなた様は……」
「へ?」
な、なんかいきなり、かしこまった話し方に変わってない?!
「私はなんてことを……」
「ええっと……あの?……」
どんどん顔色を青く変えていく試験官にシルヴィアは混乱していた。
「ま、誠に申し訳ありませんでした……女神……様……」
そう言い残して、試験官はそのまま頭を抱えて気絶してしまった。
「って!だ、大丈夫ですか?!」
ええ?!どういうこと?!っというか私、女神様なんかじゃない……って一応、女神ではあるけれど……私の正体を見破ったわけでもなさそうだし、ほ、本当にどういうこと?!
未だに自分の容姿と無意識に放っているカリスマ性と、人間とは思わせない異質な存在のオーラに気がつかないシルヴィアであった。
周りの人に助けを求めようとして、辺りを見回すと自分が非常に目立っていることに気がついた。
「あ」
気がついて急いでローブをかぶり直したがその時にはもう手遅れだった。
周りからは「な、なんだあの魔法……」「神々しい……」「もしかして本当に女神様なんじゃ……」「いやいや、神なんて存在するわけ……ない…よな?」などという声が聞こえてくる。
「ど、どうしよう……」
「君、大丈夫?」
戸惑っている私に話しかけてきたのは、先ほど雷の上級魔法を使っていた青年だった。
「は、はい……」
「そうか、じゃあまずはこの試験官を医務室まで運ぼうか」
「え、いいんですか?」
「何がだい?」
「だってまだ試験が……」
「ああ、確かにまだ解散とは言われていないが、試験はここまでだから問題ない。君が行かないなら、私が一人で医務室まで運ぶが?」
「行きます!」
***
事情を説明して無事、倒れた試験官を医務室まで運び終わった私たちはその場で一息ついていた。
「ふぅ……」
「お疲れ様」
「あの、本当にありがとうございました」
「いや、困っている人がいたら助けるのは当然さ」
「言い忘れていましたけど、私シルヴィアって言います」
「私はルシエル・フォン・シルヴァードという。よろしくシルヴィア」
青年はこちらに向かっていい笑顔を向けている。美形を見慣れているシルヴィアじゃなかったら、見とれてしまっていただろう。
だが今はそれどころではない。
ん?んんん?今シルヴァードって言わなかった?それってこの国の名前だよね。それが名前に入ってるってことは………
「も、もしかして……」
「ん?ああ、そうだ。私はこの国の第二王子だ」
「え、えええぇぇぇぇぇええええ!!!」
目立ちまいと思っていたシルヴィアは、入学前から如何にも目立ちそうな、とんでもない人物と知り合ってしまったのであった。
倒れた試験官はもともと、神の存在を信じている人だったそうです。