王都
普段はド天然というか、とてつもなく鈍いシルヴィアですが、真剣な時は信じられないくらい鋭いです。
「次の者。よし、特に変わりはないな。入っていいぞ。」
王都に入ったときにはすでに、日が落ち始めていた。
今回は何の問題も起きずに王都に入れたシルヴィアは王都の広場で降ろしてもらった。
「五日間本当にありがとうございました。……そうだ!お代はいくらですか?」
「いらん」
「え?」
「嬢ちゃんは馬の怪我を治してくれたからな。もし嬢ちゃんがいなかったら、こいつはもう二度と馬車をひくことはできなかった」
「で、でも」
「お代は意地でも意地でも受け取らんぞ」
「……分かりました。ありがとうございます」
「いや、お礼を言うのは俺のほうだ。ありがとな。……後、宿をとるなら大通り近くの宿にしとけよ。あまり大通りから外れるとスラムがあって危険だからな。特に嬢ちゃんなんかは……」
「わかり、ました?ではそろそろ行きますね。いろいろとありがとうございました」
「後、これを被っとけ」
そう言って渡されたのは、茶色のフードがついたローブだった。
「えっと……」
「別にそのままでいいならいいが、嬢ちゃんの容姿はいい意味でも悪い意味でも目立つからな」
言われて、辺りを見回すといろいろな種族、眼、髪の色をした人たちがいたが世界的に見ても珍しい水色がかった銀髪という色をした髪の人はやはりここでも珍しいようだった。
実際にはそれだけでなく、シルヴィアの女神のような(実際に神なのだけれど)美しさと、その珍しい神秘的な髪の色が相まって目立っているのだが、シルヴィアはそれに気づいていなかった。
「ありがとうございます」
そう言って、私は渡されたローブを着て髪を隠すようにフードを深くかぶった。
ここまで、乗せてきてくれたジンさんは、口調が多少きつく無愛想に見られがちだが、その言動からは常にこちらを気遣ってくれていることにシルヴィアは気づいていた。
「ああ、嬢ちゃんも王都での生活を楽しめよ」
「はい!機会があったらまた、お願いします!」
「じゃあな」
それだけ、言い残してジンさんは馬車に乗って去って行った。
***
王立魔法学園には生徒なら誰でも無料で使える学生寮がある。
だが、試験までの二日間と合格発表までの二日間、そして入学までの三日間の合計七日間の間は学生寮は使えないためシルヴィアも宿をとる必要があった。
(まぁ、試験に合格しないことには、何も始まらないけれど)
そんなことを考えながら私は、ジンさんの忠告通りに大通り近くの宿を探すことにした。
暫くいろいろな店を覗きながら歩いていると、美味しそうな匂いを出しているお店を見つけた。
私もちょうどお腹がすいてきていたため、そのお店に入ってみることにした。
「いらっしゃーい!」
店の中に入ると、どうもこの店のオーナーらしき女性が忙しそうに動き回りながら私のほうを見た。
「宿泊かい?それとも食事かい?」
「え?このお店、宿も兼ねているんですか?」
「ああ、そうさ」
私はちょうど入ったこのお店が宿も兼ねているということに、歓喜し、しばらくここに宿泊することにした。
「じゃあ、今日から七日間ご飯付きでお願いします」
「大銀貨五枚だよ。部屋は二階の十七号室だ。夕食の前に先に部屋を確認しておいで。あ、そうだ。私はこの店のオーナーのディーカってゆうんだ。よろしくな!」
そうして私はディーカさんから十七と書いてある部屋のカギを受け取り部屋へ向かった。
(十五…十六……十七、あった!この部屋よね?)
私は十七と書かれた扉のカギ穴に鍵を差し込んで回した。するとガチャリとカギが開いた音がした。
部屋の中に入ってみるとそこは、一人で過ごすには十分な広さの部屋だった。
私は一度師匠に王都についたと報告しようとブレスレットに魔力を流し、そのブレスレットに向かって「もしもし」と話しかけた。
「師匠、聞こえてますか?」
「はい、聞こえてますよ」
いきなりブレスレットから声が聞こえたことに、わかっていても内心とても驚いていた。
「先ほど王都に到着しました。あ、ちなみに今いるのは宿の自分の部屋で周りには誰もいないので、大丈夫ですよ」
「そうですか、なにか変ったことはありませんでしたか?」
「えっと……強いて言うならば、ラメルクの町で貴族と間違えられたことくらいですかね……」
「はぁ……そうですか。神竜族の気配を感じたりもしていませんか?」
「はい。特には」
「ならいいんですが、もし神竜族を見つけたらおそらく、今起こっていることを知らない人が殆どでしょうから、注意だけしておいてください。」
「わかりました」
「後、言い忘れていましたがあなたの容姿、髪の色抜きでもとんでもなく目立ちますから、街を出歩くときはローブなどを「ローブなら今も着てますよ」って、え?」
「ほ、本気で言ってますか……まさかあなたが自分の容姿の価値に気付いて、自らローブを着るなんて………」
「えっと……師匠?言っている意味は良くわからないんですけど、ローブならここまで乗せてきてくれた乗り手の方にもらったものですよ?」
「え?」
「私は目立つからって……」
「そうですか……まあそうですよね。あなたが自覚なんてするはずありませんよね……」
「は、はぁ………」
「では、また何かあったら連絡してください」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そう言い終わるのと同時にブレスレットに流していた魔力を切った。
一階に下りるとディーカさんが食事を用意して待っていてくれた。
促されるままに案内されたテーブルで待っていると、おいしそうなシチューが運ばれてきた。
「ありがとうございます」
そのまま私は手を合わせて食前の祈りを済ませた後、ローブを着たままだと食べにくいため今だけと思いフードを脱いだ。
その時、近くでカランという金属音が聞こえた。音のしたほうを振り向くとそこには、ちょうどいま入ってきたと思われる二人の青年がこちらを見つめて固まっていた。
「も、もしかして私、粗相でもしましたか?」
フォークやナイフ、スプーンなどは前世でも使っていたためおかしなところはないと思うが、それ以外はずっと森で暮らしていたため、母や父、師匠たちにも教えてもらっていたがここは王都なので違うところがあったかもしれないと思った。
(それとも私の髪の色が珍しいから?)
「どうしたんだい?」
ちょうどその時ちょうど、異変を感じたらしい、ディーカさんが厨房から顔を出した。
「あ!ディーカさん!」
そう言って、振り向くと今度は案の定ディーカさんまでもが目を大きく見開いたまま固まってしまった。
「どうかしましたか?」
「…い、いや!なんでもないよ!それにしてもあんた、さっきのローブの子だよね?」
「はい、そうですけど……それがどうかしましたか?」
「え、ええと、そうだ!珍しい色の髪だなあと思っただけだよ!」
(やっぱり………)
シルヴィアはやはりそうだったんだと納得した。だが実際にはそのシルヴィアの美しさと神竜族の中でも圧倒的なカリスマ性と人間ではないと思わせる異質な存在を感じ取ったからであった。
「ほ、ほら、あんたたちもそんなとこで突っ立ってないでさっさと中に入りな!」
「「は、はい!」」
ディーカさんは固まっていた二人の青年に向かって呼びかけた。
すると、どうしたことか二人の青年はこちらに向かって歩いてきた。
「隣いいですか?」
「え?別にいいですけど……」