悲劇の起きた日
今回は前回に続き、シルヴィアの過去について書きました!
今日も私は、いつも通り人の寄り付かない森にぽつんとたたずむ家で、家族と過ごしていた。
だが、それは突然起こった。
「きゃあ!」
「な、何?!」
何の前触れもなく突如、地面の揺れと同時に外からガラスの割れるような音がした。
「ヴィル!」
何が起きているのだとシスティアはヴィルヘルムに説明を求めた。
ヴィルヘルムは深刻そうな表情をしていた。
「……結界が破壊された……」
結界というのは、この家を中心に半径100メートルほどを囲んでいて、結界の外から家を見えないようにしたりしている。
「え?でも……あの結界はもともと私たちに害をなそうとしているもの以外は普通に通れるはずじゃ………」
つまり、結界に阻まれて、わざわざ結界を破壊して入ってくるということは……
「俺たちに害を及ぼそうとしているということだな」
「で、でも、いったい誰がそんなこと………!」
「わからない。ただ俺が伝説上の存在ではないことを知っていて、どうやってここを突き止めたのかは知らないが、あの結界を破壊できるということは、相当な実力者だ」
「そんな……!」
「シル、急いで魔力と神力を全力で隠すんだ。目的は俺でシルのことは、そもそも知られていない可能性が高い。まだ、魔法は教えてないけどシルならできるよね?」
通は神力があっても分からないし、魔力も魔道具などを使わないと分からないが、相手が未知なため、もしものために隠すように言われた。
だが、それは何があっても私だけは魔法を使ってはいけないということだ。
そうして私は、神力を完全に隠くし怪しまれないように、ほんの少しの魔力以外を隠した。
「……シス、シルを連れて森へ逃げてくれ」
「でも、ヴィルは?!」
「後で、追いかけるよ」
「………わかったわ……」
母はこれ以上ないような、つらそうな顔をしていた。
シルヴィアは中身こそ女子高生だが精神年齢は実年齢に引っ張られるようで、この状況についていけなかった。
「と…う……様………?」
不安に震える声で私が呼びかけると、父は安心させるように微笑んだ。
「大丈夫、またすぐに会えるから。さあ、行って」
そうして母は私の手を引いて、家の裏口の扉から外に出て近くの森に逃げ込んだ。
その時、結界があった方向から声が聞こえた。
「おい!裏から女と子供が逃げたぞ!殺しても構わない、追え!」
その声に振り向くと後方では、集団の中でも明らかに異質な雰囲気を纏っている数人と、本来の六十メートル級の竜の姿に戻り戦っている父の姿があった。
集団は全員黒いローブを目深似かぶっていて、種族も性別も分からなかった。
そして集団の中の五人ほどが魔法を打ちながら私たちに迫ってきた。
そのうちの一つの魔法がシスティアに当たった。
「うっ……!」
「母様!大丈夫ですか?!」
「っ……シス!」
「他人のことなんか気にしている場合じゃ、ないんじゃないですかぁ!」
それと同時に放たれた魔法が、こちらに気を取られていた父に命中した。
そしてそのまま父の大きな体は、地面に倒れこんだ。
「……っ…くそ………二人とも……早…く……逃げ…るんだ…」
私は泣き叫びたいのを我慢しながら、母の手を引いて走った。
母は魔法が得意だが、ひいでているのは聖属性の魔法で攻撃魔法などは、人より少し秀でているだけで、あまり得意とは言えなかった。
そして十五分ほど、小さな傷をいくつも負いながらも母が苦手な攻撃魔法で撃退しながら逃げた先は、運悪く崖だった。
高さは六十メートルほどあり、下には流れの急な大きな川が流れていた。
気がつくと後ろにはもう、黒ローブの五人が迫っていた。
「はぁ…はぁ……やっと追いつめたぜ。手こずらせやがって……。さっきまでは、捕まえるだけにしとこうかと思ってたが、もうゆるさねぇ。お前らがあの竜のなんなのかは知らねぇが、特にお前だけは必ず殺す!」
その気圧に押されて、シルヴィアとシスティアはうしろに下がった。
後ろを振り向くと、すぐそこに崖が迫っていた。
そのまま五人は魔法で傷つけられた意趣返しとばかりに、システィアに向かって同時に魔法を撃ってきた。
そしてその魔法は、すぐ隣にいたシルヴィアにも確実にあたるはずだった。
「ごめんなさい……シル………生きて」
「え?」
そう小さな声でささやかれ、母の方を向くと悲しそうに微笑んでいる母の姿があった。
そうして、魔法が直撃する直前にシスティアはシルヴィアを崖から突き落とした。
翼を出しても、まだ飛び方を知らないため、あきらめて翼を出さずにそのまま落ちるしかなかった。
そしてその直後、すべての魔法が直撃したらしい大怪我を負った母もその衝撃で崖から落ちてきた。
「かーさまあぁぁぁぁああああ!!!」
そのまま、落ちた川は身動きをとるのは難しかったが、シルヴィアはとっさに隠していた神力を少しだけもとに戻した。
おそらくさっきの五人は下っ端で神力を少し出しても絶対に気づかれないはずだ。
そう思い、少し戻した神力で水の中でも普通に息ができるようにした。
これは、魔法をまだ教えてもらってない私が使える数少ない魔法の一つで、普通はどんな魔法を使ってもこのようなまねはできないのだが、《海》を司る神竜の神力の特性で、以前父の海の調査について行ったときに唯一教えてもらった魔法だった。
本格的に魔法を教えてもらっていれば、母にもかけることができたのだが実力が足りず、まだ他人に魔法をかけることはできなかった。
だが、かろうじて母をつかむことができたシルヴィアは、早く岸に上げるべく、必死に自分よりも背の高いシスティアを引っ張りながら、泳いでいた。
母の周りの水は真っ赤に染まっており、生温かかった。
ふと、崖の上を見上げると、そこにはもう黒ローブの五人の姿はなかった。
そのまま何とか、システィアを岸に上げたシルヴィアはようやく我慢していた、涙を流すことができた。
だが、母は誰がどう見ても助かる状態ではなかった。
この怪我を治せるのは聖属性の王級魔法くらいで、母は人間だがなぜか普通の人間には使えないはずのこの魔法を使うことができた。
そしてこの状況では今それを使えるのはシスティアだけであった。
その本人は先ほど逃げてくるときに魔法を使って魔力を消費しており、たとえ自分にでも魔法をかけるのは到底無理な話だった。
「かあさまぁ……死んじゃ嫌…です……ひっく………うっ……」
私の瞳からは涙がとめどなくぽろぽろとあふれていた。
その涙はシスティアの頬にぽたぽたと落ちた。
「シル………泣か………ないで……」
「ごめんなさい……涙が………止まらな……うっ……」
すると、システィアは少し困った顔をして、弱々しくもこちらに手を伸ばしてきた。
「シル……これを……」
システィアが伸ばしてきた手の中には、彼女がいつも身に着けていた、白い竜が描かれている片方だけの金色に輝くピアスが握られていた。
「これって……母様がいつもつけている……」
「これは……シルが……もっ……ていて……」
「でも、大切なもの……ですよね……」
「えぇ……そう…ね……だから……あな……たに、持って………い……て…ほしい……の……」
そう言って、システィアはシルヴィアの左耳に手を伸ばし、その冷たい手で器用にピアスをつけた。
「シル………何かあったら………アイリ……アレット王……国に行きな…さい………」
その言葉を不思議に思ったのもつかの間、システィアの声はどんどんか細くなっていく。
「……私は……ヴィルと……そ…して……あなたとであ…えて……本…当にしあわ……せだった……」
そう言い残してシスティアは優しく微笑むとそのまま目を閉じ、シルヴィアに伸ばしていた腕を下ろした。
いや、力なく落ちたという方が正しいだろう。
「母……様……?母様、目を開けてください!い、いや、いやです………母様……!いやあああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
そのまま私の母、システィアは静かに息を引き取った。




