拒絶
「……ねぇ、イアンさん。彼らはどうして私たちを追いかけて来ると思う?」
小さくなってゆく警邏隊の面々を見ながら、ナンナはふとある事を思いついて、イアンに問いかけた。案の定、彼は「何ですか、いきなり」と怪訝そうな声を出す。
「いいから答えて」
「隔離するためでしょう? コルヌールさんが、そう仰っていました」
「じゃあ、何で隔離するのかしら?」
「……私たちの事を良くない存在だと思っているからではないですか?」
しばらく考えて、イアンが言った。
「良くないから許せないと思って、捕まえて、閉じ込めてしまおうとしているのでは?」
「違うわ」
ナンナがくすくす笑いながら言った。
「あの人たちはね、自分たちと私たちが似ているから、追いかけて来るのよ」
「似ている? どこがです?」
「どちらも同じ、『悪』の側面を持っているっていうところよ」
ナンナは上機嫌で答える。
「違いは、その『悪』を出しているか、隠しているかって事だけね。彼らが私たちを追い回しているのは、自分たちに存在する『悪』の側面を認めたくないからなのよ」
ナンナは肩を竦めた。
「私たちの存在を認めてしまえば、それは『悪』を肯定している事になる。自分に隠された『悪』の側面も肯定する事になる。あの人たちにとって、『悪』は恐ろしいものよ。そして、恥ずかしいものだわ。皆持っているのに、自分にはそんな一面はありません、って澄まし顔をしてしまうくらいには、ね」
かつてナンナもそうだったから、よく分かる。ヨハンがイアンを嫌ったように、彼らにとっては、『悪』は徹底して憎むべき存在なのだ。




