不要不急?
ナンナが使用人に手紙を出して来てもらおうと部屋から出ると、廊下でばったりノーラに出会った。ノーラはナンナが大事そうに握りしめている手紙を見つめて、やれやれと肩を竦める。
「イアン君に出すの? 非常事態宣言が出ても、お姉ちゃんはやる事が変わらないわね」
ナンナは、少なくとも週に一度はイアンに手紙を出していた。それだけよく話す事があるものだとノーラからは呆れられるが、ナンナは日々の些細な事でも、充分イアンとの話題になると思っていた。
「ノーラには分からないわよ。この間、また恋人と別れたんでしょう?」
「あれはあいつが悪いの!」
ノーラは眉を吊り上げた。
「だって、私の親友のビアンカの事、悪く言ったのよ! それに自己中心的っていうか、とにかく嫌な奴だったわ! ……あーあ、どっかにイアン君みたいな、従順な男が転がってないかなあ」
「あのねえ、ノーラ……」
その言い方だと恋人ではなく、奴隷を欲しているようではないか。これでまだ、『悪役病』にかかっていないのだから驚きだ。
その時、向こうから使用人が歩いてくるのがナンナの目に入った。ちょうどいいので、手紙を出しに、郵便公社まで行ってもらうように頼む。去っていく使用人を見ながら、ノーラはため息をついた。
「私もビアンカに手紙でも書くわ。お姉ちゃんが使用人に、不要不急の外出をさせてるって、愚痴ってあげるんだから」
「こ、これは必要な事よ」
動揺しつつもナンナは返した。どうだか、という目でノーラはナンナの方を見る。
こんな事をしてはいけなかっただろうか、とナンナはしばし気に病んだが、数日後にイアンからの返事が来た事によって、そんな罪悪感は一気に吹き飛んでしまった。