表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/33

罹患

「あいつは『悪』だ。最低の男なんだぞ。お前には相応しくない」


(イアンさんは『悪』……)


 それは、悪魔に憑かれているからだ。だが、今のヨハンは、彼の心根も悪しきものだと認識しているような気がする。つまり、元々が『悪』だったと言っているのだ。そして、そんな男は『善』なるナンナには、不釣り合いだと考えている。


 だが、ナンナはすでに、人間は『善』でもあり、『悪』でもあると知っている。そのどちらか一方だけなどという事はない。ただ、『善』と『悪』のどちらの部分が大きいかというだけの違いだ。


(でも、お父様の中では、イアンさんは『悪』なんだわ)


 イアンが『善』の心を捨て去った訳ではないと、どうすればヨハンに理解してもらえるだろう。今の彼は『悪』が肥大してしまっただけの、ごく普通の状態だと、何とかして分かってもらわなければならない。そうしなければ、ヨハンにとって『善』のナンナは彼と引き裂かれてしまう。


(……いいえ。違うわ)

 ふと、ナンナは思い付いた。


 どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったのだろう。父に、イアンが完全な『悪』ではないと信じさせるよりも、もっと良い方法があるではないか。『悪』のイアンを『善』のナンナに寄せるのではなく、『善』のナンナが『悪』のイアンに寄っていくのだ。つまり、ナンナが変身を遂げればいいという訳だ。


(私も、『悪』になる……)

 ナンナはこの思い付きを、奇妙な事に変だとは思わなかった。


――悪魔になるかならないかは、自分で決められると思いませんか?


 イアンだって、そう言っていたではないか。自分はなろうと思えばなれるのだ。悪魔に変身すれば、自分はイアンと同じになれる。彼の傍に、これからもいられる。


 どうすれば悪魔になれるのか、ナンナはすでに知っている気がした。『善』の面を捨てるのではなく、ただ心の大部分を『悪』が占めるようにすればいいだけだ。難しい話ではないだろう。人間は簡単に悪魔になってしまえるという事を、ナンナはとっくに悟っていた。


「ねぇ、お父様」

 ナンナは薄い笑みを唇に乗せながら口を開いた。自分の目が完全に据わってしまっていると、ナンナは気が付いていない。


「私、お父様みたいな頭の固い方にはついていけません。これっきりで縁をお切りしたいのですが」

「何?」

 ヨハンは、我が耳を疑ったようだ。ナンナはその驚きっぷりがおかしくて、吹き出した。


「私は、もうコルヌール家の者ではないという事ですよ、ヨハンさん」

「……あの男からうつされたのか!」

 ヨハンは愕然とした顔になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪役病が発病してしまった彼を罵った父は、果たしてナンナにどう反応するのだろうか 我が子である妹は保釈金を払って家で守っているのにイアンだけ目の敵にするのは道理に合わないぞ~!
[一言] うーん、どう考えても最悪の状況ですが愛ですねえ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ