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新たなる危機

 ナンナが遣る瀬ない思いでため息をついている間にも、外の騒ぎはますます激しくなってゆく。デモ隊と警邏隊の両方に怪我人が出始めたようで、負傷者が安全なところまで運び出されていた。だが、そうなってもデモの参加者はまったく引く気がないらしい。


 邪魔する者は容赦なく殲滅してやるのだと言わんばかりに暴威をたくましくする様に、ナンナが身震いしていると、煙がどこからか流れてきて、焦げ臭いにおいが漂っているのに気が付いた。


「あそこっ!」


 パトリックも異変を察知したらしい。駅舎の奥の方を指さして、慄然としている。デモ隊の誰かが放火でもしたのだろうか。建物の一部から火の手が上がっていた。


「二人とも、逃げましょう!」


 このままだと、自分たちまで炎に揉まれてしまうかもしれない。ナンナとパトリックは、イアンに促されるままに、まだ焼けていない出入り口を探し出して、急いで駅舎から脱出した。


 すぐ近くで火災が起こったために、警邏隊は一時的に後退する事に決めたようだ。引き上げてゆく隊員たちを見て、デモ隊は「我々の勝利だ!」と歓声を上げていた。


 その脇をすり抜け、ナンナたちは警邏隊と合流した。と言うよりも、彼らに保護されたのである。暴徒たちが投げる石が飛んで来ない所まで誘導しつつ、警邏隊員は、訝しむようにナンナたちに質問を浴びせてきた。


「あなたたちは、デモ活動に参加なさっているようには見えませんが、こんなところで一体何を? まさか、外出禁止令の事、何も知らなかった訳ではありませんよね?」

「申し訳ありません。実は……」

 事情を説明しようとして、ふとイアンは言葉を切った。その目が、駅舎の方に向いている。「どうしたの?」とナンナが尋ねると、彼は「父が……」と声を震わせた。


「父が、駅舎の中に入っていくのが見えた気がしたんです」

「何ですって!?」

 

 建物はすでに燃え盛る炎に包まれて、普通の人間ならば、とてもではないが立ち入ろうなどという判断はしないだろう。だが、相手は『悪役病』の患者だ。常人とは異なる行動をしてしまっても、おかしくはなかった。


「私が連れ戻してきます!」

 言うが早いか、イアンは脱兎のごとく駆け出した。


「お兄様!」

 パトリックが悲鳴のような声を上げた。ナンナも焦燥に駆られる。


「様子を見てくるわ。……パトリックさんを、よろしくお願いします」

 ナンナは返事を待たずに、呆然としているパトリックを警邏隊員に押し付けると、来た道を逆戻りした。

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