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邪魔者到来

「何だ、お前もこの素晴らしい活動に参加しに来たのか?」

 息子の姿を認めると、モーティマー氏は感慨もなく言った。「違います」とイアンは否定する。


「私は父上とパトリックを連れ戻しに来ました。父上……お願いですから、教会へ戻ってください。今の父上は普通ではないのです。悪魔に憑かれているんですよ」

「ふん。この高名な聖職者たる私に、悪魔が憑りつく訳なかろう」

 モーティマー氏は、イアンの必死の訴えを一蹴した。


「そんな事も理解できんとは。……所詮、馬鹿な息子には、馬鹿な娘がお似合いなのかもな。そのあばずれを連れて、どこへなりとも行ってしまえ」

 モーティマー氏は、ナンナの方を顎でしゃくった。ここへ来て、イアンは初めてナンナがその場にいるのに気が付いたらしく、愕然とした表情になった。


「ナンナさん……どうして……」

「決まってるじゃない。パトリックさんを助けに来たのよ。それに、イアンさんの事も心配だったから……」

 ナンナはチラリとモーティマー氏の方を見た。


「イアンさん。モーティマーさんをここから離れさせるのは、簡単な事じゃないと思うわ。今はせめて、パトリックさんだけでも助けましょう?」

「……そうですね」

 先程の父親の頑なな様子を思い出してか、イアンが暗い目になった。


 しかしイアンはすぐに意を決すると、行進する人々の中へと突っ込んでいく。広い肩幅で人波を掻き分け、イアンはパトリックの腕を掴んだ。


「何をする!」

 モーティマー氏は飛び出さんばかりに目を見開いて、パトリックを引っ張り返した。パトリックは双方から腕を引かれる事に痛みを覚えたようだったが、唇を噛んで耐えていた。


「父上! おかしな事にパトリックを巻き込まないでください!」

「黙れ! 貴様には分からんのだ!」

 

 親子の闘争は周囲の耳目を集め始めた。だが、ここの集会に出ている人たちの中に、イアンの味方をする者などいる訳がない。同志を連れて行こうとしている青年を、デモ隊の面々は不愉快そうに見つめた。


「イアンさん、危ないっ!」

 ナンナが叫ぶ。


 とうとう辺りにいた者たちの内の一人が、イアンを強制的に排除しようとしたのだ。イアンは、間一髪のところで横から飛んできた拳を避けた。


 だが、彼に降りかかる災難は、それだけでは済みそうもなかった。その攻撃を皮切りに、他の者も、イアンに鉄拳制裁を加えだしたのだ。


 イアンはそれらをかわすのに必死で、もはや弟を連れ戻すどころではなくなってしまった。それに、多勢に無勢のこの状況では、数の暴力に任せて、遠からずイアンが嬲り者にされてしまうのは目に見えている。


 どうすべきかとナンナが苦悩していると、集団の別の所でも騒ぎが起き始めたようだった。デモの参加者の一人がこちらへと走り寄って来て、何事かを仲間たちに知らせる。


「警邏隊が来たぞ!」


 たったそれだけの一言で、デモ隊員の関心はイアンから逸れていった。そのまま警邏隊の到着に恐れをなして、集会が解散しないだろうか、とナンナは期待した。だが、予想に反して、誰一人としてこの場から逃げ出そうとはしなかった。それどころか、隊員たちは一様に決意のこもった表情になりさえする。


「奴らは辻馬車乗り場にいるぞ! 我々の邪魔をする気だ!」

 さらに情報が入ってくると、皆は口々に威勢の良い言葉を吐き始めた。


「そうはさせんぞ!」

「戦え、同志たちよ!」

「神の偉大さを見せつけてやるのだ!」


 誰も彼もが拳を振り上げながら、警邏隊がいるであろう方向へと雪崩を打って突進していった。モーティマー氏も、イアンの事などどうでも良くなったかのように、気勢を上げながらそれに続く。デモの参加者にもみくちゃにされて、イアンとパトリックの姿は見えなくなってしまった。

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