表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/33

駅前の騒動

 ナンナは屋敷を出た。相変わらず通りには人影がなく、非常に静かだ。


 この町には、駅は一つしかない。そこはコルヌール家の屋敷から歩いて行ける距離にあったので、ナンナは目的地まで迷う事なく到着した。


 駅の周りでは、すでに騒動が起こっていた。『都市封鎖反対!』、『王を処刑せよ!』、『邪神を倒し、新たな神を受け入れろ!』などなどの文句が書かれた木の板を持った者たちが、大声で叫びながら行進していたのだ。


 一体何事かと思ったが、彼らの言葉を聞いている内に、おぼろげながらも事情を察する事ができた。どうやら都市の完全封鎖政策に反対する過激派たちが、『悪役病』の流行によって勃興してきたカルト教団と手を組んで、デモを行っているらしいのだ。


 参加者は若者から老人まで様々だったが、その中でも一際目立つくらい小さな、せいぜい十歳前後ほどの男の子がいた。


 中年の男性に手を引かれ、べそをかきながら無理やり行進に参加させられているその子は、黒髪と茶色い目で、イアンをそのまま幼くしたような外見をしていた。ナンナはモーティマー家に遊びに行った時に、彼と会った事があるので、その子がパトリックだとすぐに分かった。


「パトリックさん!」

「え……ナンナさん?」

 ナンナが大声で名前を呼ぶと、パトリックは目を見開いた。


「どうしてここに?」

「あなたを助けに来たの! イアンさんも、向かっているわ!」

「何をしている」

 パトリックが誰かと話しているのに気が付いた中年男性が、不愉快そうな声を出した。イアンとパトリックの父親のモーティマー氏だ。


 氏は苛立ちながら声の主を探し、ナンナを見つけた。イアンとそっくりの茶色い目が酷薄な光を帯びる。そのあまりの鋭さに、ナンナは背筋が冷たくなった。いつものモーティマー氏は、聖職者然とした、優しさと包容力に満ちた人だった。覚悟していた事とは言え、ナンナはその変貌ぶりにショックを受ける。


「イアンの婚約者のナンナ嬢か」

「モーティマーさん、お久しぶりです」

 ナンナは、出来るだけモーティマー氏を刺激しないように気を付けながら挨拶した。


「私、パトリックさんに用があるのです。彼と向こうで話してきても構いませんか?」

「貴様には用があっても、パトリックにはない。そんな事も分からないのか、この馬鹿娘が」

 モーティマー氏は素気無くナンナの申し出を却下した。


「大体貴様の事は、前から気に食わんと思っていたのだ。貴様はイアンを汚い手管で惑わして、腑抜けにしてしまう毒婦だ。それが今度は、パトリックまで誘惑しようと言うのか? この売女め」

 モーティマー氏は、ヨハンやイアンが聞いたら激怒しそうな言葉でナンナを罵った。パトリックはそんな父を、怪物でも見るような目で見上げている。


「どこかへ行ってしまえ。二度と私の視界に入るな」


 そう言いつつも、モーティマー氏は息子の手を強い力で引いて、行進する人々のさらに奥に入っていこうとする。ナンナがそれを止めようとした時、背後から声が掛かった。


「父上! パトリック!」


 そこに立っていたのは、息を切らして汗をびっしょりかいたイアンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 悪役病にかかっていたときの記憶が残ってしまったらぎくしゃくしそうだなぁ 社会への破壊力が日本の状況より上回りそう(後々まで引きずりそう) ノーラは元からワガママ娘だったみたいだけど温厚な聖職…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ