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急報

 ナンナが陰鬱な気分のままに自室へ帰ると、窓を叩く音が聞こえた。一羽の鳥が、中に入りたそうにガラスの向こう側をうろうろしている。


 それは、イアンの生家であるモーティマー家が持っている伝書鳥の中の一匹だった。ナンナは、宛名を確認せずとも、それがイアンからの信書であると確信した。当分彼と連絡を取るのは断念しなければ、と思っていた矢先に向こうから手紙をくれたのだと分かって、ナンナは沈み切った気持ちが、瞬く間に晴れてゆくのを感じていた。


 ナンナは窓を開けて、幸福の使者にも見える鳥を招き入れた。だが文面に目を落としたナンナは、そこに書かれていた内容が、幸せとは程遠い事に愕然とする。イアンから送られてきたのは、つい数十分前に彼から受け取った手紙よりも、もっと悪い知らせだったのだ。焦って書いたためか、字が読みにくく、あちこちにインクが飛んでいる。


『 何度も手紙を送りつけて、申し訳ありません。ですが、どうしてもあなたに連絡をしておかなければと思ったのです。もしかしたら、私は、当分手紙なんて書けなくなるかもしれませんから。


 父が、また教会から脱走しました。今度は、家に帰ってきたのです。私はちょうど買い物に出ていたところでしたので、その場には居合わせませんでした。


 父は、母と弟が教会に戻るように頼んでも聞かないどころか、「自分の家なのに、ここにいて何が悪い」と言っていたそうです。それでもなお、二人が説得を続けると、今度は逆上して、暴力を振るい出したのだとか。私が家に帰った時には、強盗にでも押し入られたのかと思うほど室内は荒れていて、母が床に倒れていました。


 母は大した怪我も負っておらず、すぐに意識を取り戻したのですが、父と弟のパトリックの姿はどこにもありませんでした。こんな時なので外に出たとは思えませんから、父がどこかに連れて行ってしまったのでしょう。


 母は、父はこの後、駅で仲間たちと落ち合う予定だと言っていた事を話してくれました。恐らく父はそこに向かったのでしょう。パトリックも一緒にいるはずです。


 父の言う仲間とは、きっと、先日知り合った、たちの悪い者たちに違いありません。自分の意志で彼らの元に赴いた父はともかく、このままだと、パトリックはひどい目に遭う事になるでしょう。あまつさえ、今出歩くのは危険なのです。


 私はこれ以上、家族が恐ろしい事に巻き込まれるのに耐えられません。母は警邏隊に相談してはどうかと言いましたが、最近の警邏隊は、町の治安が悪化したせいで人手が不足して、何かが起こってもすぐに対処してくれないという噂を聞いています。その間にパトリックに何かがあっては、手遅れです。


 私は、パトリックを探しに駅へ行きます。警邏隊の許可を取った行動ではないので、恐らく後で投獄されてしまうでしょう。人の集まるところへ行く事によって、もしかしたら、『悪役病』にかかるという事も考えられます。いずれにせよ、私は当分、あなたと連絡は取れなくなってしまうのです。


 ナンナさんは、私の決断を馬鹿げた事だとお思いになるかもしれません。愚かな男だと思って、私の事など、お嫌いになってしまうでしょうか。ですが、それでも私はあなたの事を――』


 それ以上は、インクがにじんで読めなかった。

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