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12/33

変貌

 それから数時間が経って、やっと警邏隊からの外出の許可が下りた。ノーラが見つかったのは、そこからさらに時計の針が進み、日付が変わろうかという時間帯になる頃だった。だが、彼女を発見したのは、コルヌール家の者ではなかった。


「ノーラ嬢は、我々が摘発した、非合法のパーティーに参加なさっていました」


 ノーラを家まで送り届けてくれた警邏隊員がそう話してくれた。ノーラは、一旦は逮捕されたのだが、父のヨハンが用意していた保釈金のおかげで、すぐに自由の身になったのだ。


「パーティー? こんな時に?」

 警邏隊員から話を聞いていたヨハンが首を傾げる。不要不急の外出が厳禁となっている影響で、舞踏会などの催し物は、ここ最近では開かれていなかったのだ。ヨハンの隣にいたナンナも疑問に思って、「一体何のパーティーだったんですか?」と尋ねた。


「現在の政策に対する不満を持った者の集いです」

 警邏隊員は疲れ切った様子で言った。

 

「我々が乗り込んだ時には、『都市封鎖絶対反対!』と書かれた横断幕が、壁いっぱいに貼られていましたよ。もっとも、ノーラ嬢がいらっしゃったあそこに限って言えば、極端な政治思想の持ち主の集会という訳ではなく、外出禁止令に不満を持った若者のストレス発散の場という側面の方が強かったようですが」

 警邏隊員は苦い顔になる。


「ノーラ嬢は、ご親友に誘われてパーティーに行ったと証言しています。現在、そういった事例が、あちこちで見られるのですよ。中には、過激な主張を掲げる者たちの集まりへ、うっかりと足を踏み入れてしまい、よからぬ思想に感化される方も……」

「あなたっ……!」


 警邏隊員が話していると、甲高い声と共に、母が応接室に飛び込んできた。顔が真っ青になっており、唇が細かく震えている。


「……どうした?」

「ノ、ノーラが……」

 母は、家に帰ってきたノーラに付き添っていたのだ。ナンナは嫌な予感を覚える。それが当たっていたのだと、ナンナはすぐに知る事となった。


「あらぁ、皆こんな所にいたの」

 母の後ろからぬっとノーラが顔を出した。だが、その様子がおかしい。顔には残忍な笑みが浮かび、目はギラギラと光っていた。ナンナはごくりと息を呑む。


「私、お芝居が見たいの。馬車を出してちょうだい」

「ノーラ、今、外には……」

「この私が見たいって言ってるのよ! この分からず屋のクソ爺がっ!」

 諭そうとした父に向って、ノーラは暴言を吐いた。


 ノーラは確かに我儘だったが、ここまで口は悪くない。父は色を失って固まってしまった。


「早くしなさいよ、役立たず! あなたたちの手足は、私に奉仕するためにあるんでしょう? 分かったら急いでくれるかしら?」


 一家が硬直する中、ノーラは傲慢な調子で言ってのけた。ふと、ナンナは彼女が何か紙を握りしめているのに目が行く。


「ああ、これ?」

 ノーラは姉が紙の束を見つめているのに気が付いて、薄ら笑いを浮かべた。


「お姉ちゃんの大事な婚約者君からのお手紙よ」

 ノーラは紙をひらひらと振った。ナンナはポカンと口を開けてしまう。


 イアンからの手紙は全て、ナンナの自室に大切に保管してある。それがノーラの手元にあるという事は、彼女が勝手にナンナの私室に入り込んで、持ち物を物色したという事だ。


「目障りよねぇ。こーんなに沢山やり取りなんかして」


 ノーラは手紙に一瞥をくれると、「どうせ私への当て擦りでしょう?」とけんか腰で言った。


「私が恋人を作ってもすぐに別れる事への。本当、嫌な女ね」

 ノーラの目に残酷な光が宿った。


「こうしてやるわ」

 ノーラは冷たく言い捨てると、乱暴な手つきで手紙を破り捨てた。


 イアンが一枚一枚真心を込めて書いてくれた深愛の書が、細切れの紙片に変わってゆく。ナンナはやめさせる事も怒る事も出来ずに、その光景を見ていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 非合法パーティーとか怪しすぎる。 ノーラ完全に悪役病にかかってるこれはアカン、早く隔離しなきゃ……!
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