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鳥が運ぶもの

 だが、『悪役病』は中々終息の兆しを見せなかった。それどころか、最近ではますます感染者も増える始末だ。他の町へ行く鉄道の本数は制限され、都市は本格的に封鎖されるようになる。不必要な外出はとうとう禁止になり、違反した者は投獄される事が決定した。


 街の治安はいよいよ悪くなって、流言飛語が飛び交い、今では『悪役病』の患者を出した事のない家まで、勘違いで嫌がらせをされる程だった。商店からも毎日のように怒鳴り声が聞こえてきて、店員の中には精神を病む者も出てくる。倉庫に保管されていた商品が盗まれ、高額で転売されるという事件も起こった。


 教会や修道院もすでに患者で溢れかえっており、パンク状態だ。そのため、症状が軽い者は自宅療養を勧められる事になった。だが、『悪役病』にかかっていない者が悪魔から身を守ろうとして、宗教施設に押しかけてくるなどという事もあり、依然として宗教関係者の苦悩は続いている。


 それでも、悪い知らせばかりではない。こんな状況下でも、毎日店や宗教施設に出勤して、市民生活の維持のために腐心してくれている人たちのために寄付金を募ったところ、沢山の人から、かなり多くの額が献金されたのだ。きっと迷惑を掛けているのは一部の人間だけで、ほとんどの市民は、良識のある人々だという事なのだろう。




 コンコン、と窓をノックする音がした。本を読んでいたナンナが顔を上げると、窓の外に、一羽の鳥が止まっている。


 ナンナは頬を緩めて本を傍らに置くと、鳥を室内に入れた。鳥は天井近くをぐるりと一周すると、机の端に置いてあった止まり木の上に落ち着いた。その足には紙が括りつけられている。


「鳥は良いわね。『悪役病』にならないんだから」

 ナンナはそう呟きながら、紙を解いた。その正体は手紙だ。差出人は、イアンであった。


 外出の禁止によって、自分の家で仕事をする者が増えたために、手紙の流通量がかなり増えた。皆、業務の指示や報告などを、全て手紙で行っているからだ。


 そのために郵便公社は仕事量が増えて、てんてこ舞いしていた。あまりの量に公社は郵便物を捌き切れず、ポストが手紙で溢れかえる、送った郵便が中々届かない、正しい住所に配達されない、などの問題が次々に起きていた。


 そこで代案として考え出されたのが、『鳥に手紙を運ばせる』という方法だった。何とも古風だが、こちらの方が公社よりも確実に届くとして、今ではすっかり信頼されている。斜陽産業だった伝書用の鳥を扱う事業はかなり活気づいており、どこの店でも伝書鳥は品薄だった。


 ナンナは比較的早期に鳥の有用性に目を付けた父のヨハンによって、早い時期から専用の伝書鳥を与えられた。以来、こうしてイアンとのやり取りには、鳥を使うようになったのだ。

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