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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
4.西の海にしずむもの
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15 成れの果て

 白っぽい砂利の地面に、魚の頭とたくましい体が真っすぐに倒れている。

 満月が、目玉のぬめりを白くてからせる。


 黒い鎧姿の若ドワーフが、竹棒をふり上げ叫びながら走っていた。

 森からは、薄灰色の法衣ローブ姿の魔法使いが、あわてて飛び出した。

 地面から起き上がれないまま、マルコが叫ぶ。


「バール! きみは近づけない!」


 てかりを放つ魚の口が、ゆっくりと開く。

「ゴボッ!」という音が響いた。

 その次は音もなく、針となった水がマルコの前のドワーフの横腹を貫いていた。


 マルコとアルの顔がゆがむ。

 バールの腰から赤い筋が吹き出していた。

 だがしかし、ドワーフは意に介さず棒をふり下ろす。


「うおおおおぉぉぉ!」


 バールの棒が、魚の頭をつぶす。

 あまりのちからに、しなやかな竹も折れた。

 だがそれを二つ折りにすると、バールは繰り返し何度となく、魚の頭にふり下ろした。


 ビクン! ビクン! と魚のように、魔物の身体がねる。

 マルコは思わず顔を背けた。戸惑いのあまり目が泳ぐ。


「もう終わった! バール!」


 必死に、アルがバールの両肩を抱いて、若ドワーフはやっと動きが止まった。

 アルが見下ろすと、魚の顔は水気がなくなりぺったんこ。

 なんの感情もなく、こちらを見ていた。


     ◇


 マルコが上半身を起こすと、そばにはバールとアルがいた。疲れた顔でマルコが見上げると、ドワーフは言った。


「マルコ、もう一人ぼっちでたたかうな。

 お、お互いを護衛する約束だ」


 とっさにマルコは顔をそむける。

 茶化すように「泣けるね!」と答えたあとも、うつむいたまま。

 彼は、熱くなった目頭めがしらを見られるのが、恥ずかしかったのだ。


 たたかいが終わって、ホスペスの松明たいまつが近づいて来る。

 地面に座るマルコの周りに、エレノアとキースも集まり、一行は敵村の民をむかえた。

 ふいに異国の悲鳴が上がり、一同は緊張する。


 口々に叫びながら、女たちが事切れた魚男のもとに集まる。誰かが顔に布をかけると、何人もが泣き崩れて、亡骸なきがらの手を取り、体にれた。

 御輿みこしをかついでいた屈強な男たちは、マルコとバールのもとへ駆け寄ると膝を落とす。

 泣き声を上げたと思うと、次々と二人の戦士の手をとり、涙を流しながら笑顔を見せた。


「ありがとう、と言うとります……」


 いつの間にか、うしろにひげのイアンが立っていた。


 あわててマルコは見回す。アルと目が合うとお互いに首をかしげた。

 結局、あの魔物は何者だったのか。

 第二の民、ドワーフのバールが攻撃することができた。神の悪意とは関係がないのか。

 そうした疑問は晴れなかった。


 しかし周りはなごやかだ。

 エレノアがバールの腰に手をあて治癒している。バールがマルコを見てニカッと笑う。

 キースが膝をつき、マルコの肩に手をあてると、誇らしげに青い目で見つめた。

 ほっとしたようにイアンが笑い出すと、ほかの仲間も微笑み合った。

 困難なときは乗り越えたのだ。

 やっとマルコは実感した。


     ◇


 二日後。

 マルコたちは大勢の民と共に、はるばる、ホスペスで山登りをしていた。


 竹林と森を抜けて小山へと向かう間、充満する暑さとセミの声がマルコを息苦しくさせた。

 中腹で止まり、涼しい風にみんながいやされている頃、マルコは崖のきわまで近づいてみた。

 遠くには海が広がり、眼下には森と小川をはさんだ2つの集落が見渡せる。

 照りつける真夏の太陽の下、あおい竹の屋根が並び、かがやいている。

 上から見る2つの村はそっくりで、まるで姉妹村しまいむらだ。


 背中から、ひげのイアンの声がした。


「到着した、言うとります」


 マルコがふり返ると、向こうではアルが、傾いた門を興味深そうにながめていた。


     ◇


「これが……儀式の門、ですか?」


 アルが声に出すと、ピスカントルとホスペスの長老は共にゆっくりとうなづいた。

 何度聞いても名前が聞き取れないホスペスの長は、ピスカントルの長老イアンとそっくりだ。違うのは、肌の色と鳥の羽の冠をかぶっていることくらい。

 そんなホスペスの長老がもごもごと、息子の方のイアンへ話していた。

 そして息子イアンは、アルに向き直った。


「さようです。あの若者は、先の成年の儀式で、ああなって戻ってきたそうで」


「これ、エルフの転移門だよねえ?」


 アルは、となりのエレノアに聞いた。

「そうだと思う」と彼女もうなづく。


『転移門』と呼ばれる、瀟洒しょうしゃな石造りの門をマルコはしげしげとながめた。

 山の浅いほら穴に、ひっそりとたたずんでいる。

 ツタに覆われた二つの石柱は、上部で弓形になり尖った頂点を結ぶ。近くで見ると、石にはびっしりと文字が刻まれている。

 内側には何もなく、向こうの洞窟の壁が見えるだけ。

 外側は、足下になにか石の遺物が散らばるくらいで、全体は右に傾いていた。


 気の抜けたような、アルの声が洞窟の壁に響く。


「伝統はわかりますけど、こういうの、あまり使わない方がいいですよぉ。どこに飛ばされるかわかったものじゃない」


 ひげのイアンが、早口でホスペスの長老に訳しはじめた。

 片方の石柱をなでながら、アルは続ける。


「これを封鎖して、今回は一件落着––––」


「あ、あの!」


 突然のマルコの大声に、大勢が注目した。

 長老二人と息子イアン、ホスペスの民、エレノアもバールもキースも見つめる。

 そしてアルは、首を横にふりながら必死に目配せする。しかしマルコは、どうしても知りたかった。


「なぜあの人が、あんな事になったか知りたくて……。調べた方がいいんじゃないかなあって」


 そう聞くと、すかさずひげのイアンが長老らにまくし立てる。

 二人の老人は、だんだんと顔をほころばせた。

 まだ首をふりながら「ダメ。だめっ!」とアルはつぶやく。

 だが、わざとらしく伸びをしながら、マルコはその視線からのがれた。


     ◇


 後々《のちのち》まで、ホスペスの村でその勇気が大いにたたえられた調査隊は、3人だ。

 興奮したように顔を赤らめる若い戦士、マルコ。

 そのとなりでは、げっそりとやつれた顔で首を横にふる魔法使い、アル。

 最後は、両拳を前にあげて張り切る月の巫女みこ、エレノア。

 バールは迷ってうろうろとしたが、「やっぱり留守を守る」と身を引いた。


 先ほどから、ホスペスの長老はもごもごと口を動かし感謝と称賛の言葉を並べている。

 ひげのイアンが細切れに訳すが、彼も何を言っているのかわかっていないようだ。


 挨拶が終わると、老人に促され、マルコは足を踏み出す。


「慎重に! 変な感じがしたら戻って––––」


 背後でアルが必死に叫ぶが、もう手遅れだった。


 石柱で囲まれた空間に足を踏み入れる。

 足先から、青い光が生じて自分の肉体が消えていく。

 半身を入れた時マルコは、腰の暗い袋が「ブブブブ……」と振動するのを感じた。

 わずかなためらいの後、思い切って向こうに飛びこむ。


 一瞬、目まいがした後、マルコは塩からい水で息ができなくなった。

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