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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
4.西の海にしずむもの
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13 交渉相手

 漁村ピスカントルから森を抜けると、白い砂利じゃりの地面が広がっていた。


 満月が照らす中、松明たいまつをかかげる何人もの人影が見える。

 緊張して、一行は前方へと目をらした。


 アルが大杖を高くかかげると、グリーの柔らかい光が待ちびとを照らす。

 マルコは、グリーと松明たいまつが照らすホスペスの集団を見た。

 正面の人々は、太鼓を腰に吊り下げる。

 真ん中には、屈強な男たちにかつがれた御輿みこしが浮かんで見えた。


「あの台にかつがれてるのが、交渉の相手?」


 アルがひそひそとたずねた。

 だが、おびえたように震える息子イアンは、ゆっくり首を横にふる。


「話が……違う。ホスペスはもう少し先でして。あんなの、初めてで」


 そう聞くとアルは、すぐさまマルコに叫んだ。


「マルコ! 感じるかい?」


 マルコは、あわてて腰の後ろの暗い袋に手をあてる。

 神の悪意の石、マリスの振動はなかった。

 自らの胸に手をあてても、得体が知れないという緊張くらいで、恐怖は感じない。


「何もないよ! アルはどう?」


 そう言って、マルコはアルに目をやる。

 杖を持ったままアルは、エレノアに自らの頬を見せて「刺青いれずみ出てる?」と聞いていた。

 エレノアは、何度も首を横にふる。


 松明たいまつをかかげる男たちに向かって、勇敢にもキースが前に進み出た。

 続くマルコが目を上げると、御輿みこしの上で、男の影が座っている。

 近づいてみると、男は上半身が裸で、頭にはズタ袋をかぶっていた。

 袋の両横に一つずつ、穴が空いているようだ。


 ふいに、マルコにはわからない異国の叫び声が上がった。

 ひげのイアンが、おびえて訳す。


「小魚をいま渡せ、言うとります!」


「後日、必ず運ぶと伝えてください!」


 こたえて、若ドワーフのバールが叫んだ。

 イアンが、おそるおそる訳して話す。


 すると、ホスペスの民がどよめき、ズタ袋の男が大きく首を横にふりだした。

 怒り狂って地団駄じだんだを踏むと、御輿みこしの台からすべるように地面に降り立つ。


 奇妙なことに、台を運んだ精悍せいかんな男たちも松明たいまつをかかげる者たちも、ホスペスの民は一斉に砂利じゃりを鳴らして後ずさりする。

 御輿みこしと、袋をかぶった男だけが、真ん中に取り残された。


 マルコとアルたち一行は、みな鋭いまなざしで、袋の男に向けて構える。


 満月と星空の下、その男はあっさりと頭から袋を外した。


     ◇


「ぃぃやあああああぁぁぁっ!」


 目の前の異様な姿よりもまず、マルコはエレノアの大きな悲鳴に驚かされた。

 ふり返ると、エレノアが大きく手をふっている。


「無理むり無理むり、無理!

 わたし、こういうの本っ当ダメだから!」


 彼女は叫び、今きた森に逃げようとする。

 あわててアルが「待って! 困るよう」と手を取り引き留めた。

 となりから、ひげのイアンが逃げ出した。


 月下の男は、たくましい上半身、肩の上に魚の頭がのっていた。


「かぶりものであって欲しい」とマルコは心から願った。

 しかし、目を離せず観察していると、ぬめりのある魚の口がパクパクしはじめる。

 よだれのような、海水のような液をダラリと垂らす。

 恐怖心よりもむしろ、マルコは違う思いに支配され、心の声が口からもれた。


「気持ちわるいいいぃぃ!」


 そして、ほかの二人は固まったように動けない。

 となりの戦人いくさびとキースはゴクリとのどを鳴らすと、「ま、魔物?」とつぶやき腰がひけた。

 バールは、赤く充血した目を大きく見開くばかりだ。


 魚男が、ふらりと片腕を上げるだけで、その場の全員が散るように後ずさりする。


 声を枯らして、必死にアルが叫ぶ。


「マルコっ! これマリス? 神の悪意?」


「わかんないわかんないっ! ああぁぁ。

 こっち見ないでええぇぇ!」


 マルコは腰の袋に手をあてながら、魚の視線を避けようと逃げ回る。

 するとそれを追いかけるように、魚男はふらふらとマルコの方を向いた。

 その時、高く、朗々と、月の巫女みこの詠唱がとどろいた。


「ルーナムデウス! ルーナムデウス!

 が戦士のため、われ、全霊をささげる。

 再生のほどこし!」


 暗い森の前で、両腕を広げるエレノアの胸のメダルが、まばゆい銀光をはなつ。


 するとマルコ、バール、キース、そしてアルの身体から、青白い光がぼうっとあふれ、やがて消えた。


「あとは、お願い……」


 疲れ切った声でそう言うと、今度こそ彼女は森の中へと忍びかくれた。


 キースは、これまであった体のあちこちの痛みが消えた。

 しかし魔物への気後きおくれは消えず、そのままじりじりと後ずさりする。


 気味の悪い魚のえらが、ぷかあとふくらんだあと、開いたり閉じたりする。

「ゴボッ! ゴボッ!」と妙な音がもれる。

 突然、直線の水がマルコへ飛んだ!

 水は鋭い針となってマルコの肩を貫き、鮮血が散る。


 赤い筋を見たバールは、竹棒を強く握りしめた。


 水鉄砲の衝撃ではじき飛ばされたマルコは、尻もちをついて呆然とした。

 おそるおそる右肩に目を向けると、血が引いて、じわりと傷がふさがっていく。

 アルの声がかすれた。


「今のうちだ! 月の祝福があるうちに……倒そう!」


 マルコとバールは、それぞれが魚男を鋭くにらむ。

 しかしマルコは、立ち上がるといつものように跳躍や屈伸をして体をほぐしはじめた。

 バールは信じられないといった表情で、それをながめる。


 異邦人の戦士は、最後に片足ずつ砂利じゃりを踏んで、「おうっ!」と気合を入れる。

 そして魚男にいどもうと、ねるように飛び上がった。

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