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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
4.西の海にしずむもの
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1 大河マグナ・フルメナの封鎖

 白銀に輝く水面が、模様を変えて流れる。

 まばゆい夏の日差しの下、なんとか向こう岸を見ようと、マルコは両目の上に手をかざす。

 ほとりに、羽は黒く体は白い水鳥が舞う。


 雄大な流れに沿って、旅の一行は街道を西へ歩いていた。「川というより海みたい」と、マルコは大河マグナ・フルメナの風景に感動した。


 しかしゴードンは、先の光景に目をやり、低くつぶやく。


「妙だな。船がない。橋を歩く者もおらぬ」


 驚いたアルが、大河の彼方に小さく見える石橋に目を凝らし、叫んだ。


「そんな! ……マルコ、急ごう」


     ◇


 旅の三人は、王都につながる巨大な橋のたもとに呆然ぼうぜんと立っていた。


 橋を埋める金属鎧の軍人と、大声を上げて詰め寄る人々。


 一行は、騒然とした群衆に近づけなかった。ゴードンがふり向く。


「私が事情を聞いてこよう」


 そう言うと、返事も待たずに王立軍のもとへと、どたどた駆け出した。

 不安が募るマルコが、アルの顔を見上げる。するとアルも、「大丈夫だから」とぎこちない笑みを返した。


     ◇


 ヌーラムに入ったマルコは、にぎわう街の彩り豊かな建物の間を歩いている。

 青や黄の派手な色の垂れ幕を見上げ、すっかり目を奪われていた。


 顔までかかる垂れ幕を次々とくぐる。そのたびに、両脇の露天商が声をかけてきて、自慢の珍しい商品を売りこんだ。

 見たことない色と形の果物や、どんな動物だか想像もつかない巨大な肉のかたまりあでやかな衣服もあれば、繊細な細工がほどこされた小さな調度品もあった。


 もの珍しさに目移りしながらも、マルコは前の二人の会話に耳を傾けていた。

 弁明するようなゴードンの声を、彼は初めて聞いた。


「私にも勤めがある。封鎖の元凶である川賊かわぞく討伐の任にかねばならぬ。

 代わりといってはなんだが、力になれる親族がここにも––––」


「ゴーディ! わかるだろ? 私たちの守り手は、あなたでないとダメなんだ」


 アルが、杖を上げて必死に懇願こんがんしている。

 マルコがゴードンの背中を見ると、広かった肩幅は、丸く小さくなっていた。


「それを……言わんでくれ。

 まずは、戦士を探す。次はいやし手だ」


「いや、それなら––––」とアルは反論を続けたが、マルコの耳には入らなかった。


 街に入る前、ゴードンから受けた説明を、彼は頭の中でまとめていた。


 大河の往来を狙う川の賊の被害が増え、事態を重くみた王が、川を封鎖した。

 大橋の通行も禁止され、商人含め誰も通れない。

 つまり、南から王都へ行くことができなくなった。

 神官戦士であるゴードンは、王立軍から、川賊討伐の任務を知らされた。川族の勢力は大きく、急いで対応が必要らしい。


 さらにゴードンの考えだと、南の山賊––––ルスティカの『守り神』マグナスを恐れた者たち––––が、北上して加わっていたのではないか、との事だ。


 なので一行は、ヌーラムの街でゴードンに代わる守り手、戦士と神官を探している。

 しかし、アルはまだ反対している。

 そしてマルコは、ゴードンとの別れを実感できないでいた。


     ◇


「いた! この季節ならと思ったが、やはりだ!」


 ふり返ったゴードンは、汗だくの顔にほっとした笑顔を浮かべた。

 こちらも汗だらけのアルが、杖を支えになんとか首をあげる。

 マルコは、ゴードンの指差す先を見つめた。


 広場の片隅におんぼろ馬車が置いてある。

 茶色い髭を三つ編みに、髪を後ろに流したドワーフが、忙しそうに荷運びする。運ぶ先は、貴金属の店のようだ。


「さっそく紹介しよう!」


 元気を取り戻したゴードンを見て、マルコとアルは顔を見合わせ微笑んだ。


     ◇


「いよー! ゴードン、久々じゃないか!」


 茶髪に三つ編みひげのドワーフは、満面の笑顔を見せる。


「オーホホ! ゲオルク、元気そうだ!」


 ゴードンが両手を広げ応じる。

 そして二人のドワーフは互いに駆け寄り、思い切り頭をそらせると、ガッ! ゴッ! と鈍い音をたててひたいをぶつけ合った。

 ゲオルクと呼ばれたドワーフが続ける。


「嬉しいじゃないか! 王都の従兄いとこ殿が会いに来てくれるなんて」


 ゲオルクのひたいが割れて、目の横を赤い血が流れ落ちた。が、無邪気な笑顔のままだ。

 おののくマルコは、震える指で彼をさす。

 アルは杖を握りしめ、目を見開くばかりだった。


     ◇


 ゴードンは、ドワーフとしては極めて簡単にマルコとアルを紹介した後、さっそく本題に入った。


「立派な旅の方なのだ! 私に代わる護衛を探している。報酬は、これだ」


 そう言って、あのマグナスの大剣を乱暴にゲオルクに押し付けた。

 ゲオルクは、いぶかしがってそれを手に取る。

 アルは「その剣を?」と驚いたが、ギロリとゴードンににらまれた。

 ゲオルクは戸惑うように「だけど、お二人のご親戚しんせきの名もまだ知らぬのに……」とつぶやく。


いわく付きの、価値あるものだ!」


 ゴードンは両手を広げ主張した。

 すると大剣を手にしたゲオルクの目が光り、店の奥へと声をかける。


「おーいっ! バール! バルタザール、ちょっと来てくれ!」


 店頭には、銀やはがねののべ棒、そして色とりどりの装飾品が並ぶ。

 その奥の暗がりから、三人目のドワーフの影があらわれた。


 マルコは、その意外な姿を見て、ポカンと口を開けた。

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