表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
2.神さまがおりたつ丘
40/204

12 テンプラム神官長との面会

 テンプラム神官団の長たる人の部屋は、赤い絨毯が敷かれているほかは、質素なものだった。10人は入れそうもない狭い空間に、小さな机と椅子。石造りの簡素な暖炉では、パチパチと火がはぜていた。


 その小さな机に面して、子どものように小柄な老婆が、椅子にちょこんと腰掛けている。老婆は、他の神官の青年たちと同様、真っ白な作務衣さむえを着ているが、一人だけ白髪頭に青々とした葉と鳥の羽の冠を付けている。

 マルコは、彼女の穏やかそうな眠ってるような表情に、拍子抜けした。


魔法学院アカデミー探究者にして神の善意グリーの使い手、アルフォンス・キリング様が、お連れ様とおみえになりました」


 神官の一人にそう紹介されると、アルはうやうやしく––––いつか、マルコにもしたように––––膝をついてお辞儀の礼をした。


「大変ご無沙汰しております。アルフォンス参上いたしました。神官長におかれましては、その後、ますますご健勝とお喜び申し上げます。

 こちらの連れは、私と王都へ旅するマルコ・ストレンジャーでございます––––」


 豹変したアルの様子を見て、マルコは「なんだかんだ言って、この人は社交的にもなれるんだなあ」と驚く。

 一方、挨拶を受けた老婆は、ゆっくりとアルに顔を向けると、呆けたように応じた。


「……あ、アルホンス? どなた様? ……い、いつぶりです? ……ムニャ」


「はい。先の祭事に参加してから、5年となります。アエデス・ヴィルジニアス様」


「……こ、去年?」


「……いえ。ごねん前! となります……」


「ムニャ……それはそれは。いつもご寄付に感謝します、アルホ様。……お礼参りは、確かに大切です」


「いえ! おれいまいりではなく、ごねんまえです。それにアルホって……アルでお願いできますか?

 とにかく本日はお会いできて光栄––––」


 そんなやりとりを前に、マルコは「確かに、かみ合ってないな」と人ごとのように見ていた。すると、ふと老婆の神官長がこちらを見つめる。


「アルホン、こちらはどなた様?」


「……。先ほど、ご紹介した通り––––」


「え? なんです?」


「……失礼しました。ま、る、こ、でございます」


「え? タルト?」


 マルコは、アルの横顔を盗み見て、そろそろ彼の忍耐力も限界なのでは、と心配した。アルは額に汗しながらも、引きつった笑顔をたもっている。

 老婆、すなわち神官長アエデス・ヴィルジニアスは、ふいにマルコを指差す。


「マルトん様、ようこそお越し下さいました。ムニャ……その、お腰に付けているものは、なんです?」


 即座に、アルはマルコをにらんだ。顔を小刻みに横にふり、必死に目配せをする。

 マルコも無言でうなずいて、腰の後ろに手をまわす。神の悪意マリスが入った袋を腰帯にねじ込み、代わりに剣をかかげ、ひざまずいた。


「神官長様、はじめまして。こちらは、端村の森で友人にもらった剣。名をハート・ブレーカーと申します。

 私は剣士なのです」


 とマルコが答えると、アルが満面の笑みでこちらを見て、嬉しそうに拳を握る。

 しかしアエデスは、剣には目もくれなかった。マルコの腰の後ろがなおも気になるように、細い目で彼の腰をよく見ようと首を伸ばした。アルがあわてて話しはじめる。


「アエデス様、私たちも祭事を拝見した後、旅を続けます。何かお手伝いできることが––––」


 アエデスが口を挟む。


「マルコ様、このお祭りを知っていますか?」


「いえ……。実は、全然わかっていなくて。どんなお祭りなんですか?」


 マルコが笑顔で答えると、アルが呆然と口を開ける。

 アエデス神官長は、その場の神官に目配せをして、話す途中から口調が変わった。


「ムニャ……それでは、ご説明差し上げます。

 ……ここへ酒を!」


 アルは、これまでになく大きく背をのけぞらせて、「あーーー!」と手で目をおおい、残念な気持ちを全身であらわしていた。


     ◇


 透明な液体が入った陶器の杯––––白と黒の渦巻き模様だ––––を、しわくちゃのアエデスの手が持ち上げる。ぐっぐっと喉を鳴らしながら、彼女は神酒を飲み干した。

 ほうと一息つくと、細かった目を、かっと見開く。腹にずしんと響く、しわがれた声を張り上げた。


「コラ! アルフォンス! そなた、参上するのが遅かったではないか!」


「はい! 申し訳ございません!」


「おおかた、わしと会うのが億劫になり、また食い物の事ばかり考えていたのであろう!」


 人が変わったアエデスに、マルコは唖然とした。おどおどしてアルを見ると、借りてきた猫のように緊張してかしこまっている。

 アルは、大杖の丸く暗い袋で顔を隠し、さらにアエデスの視線から逃れたいように、隠れるはずもない体を縮ませている。


「……と、とんでも……いや、おっしゃる通りです。ごめんなさいっ!」


 アルは泣いてしまいそうな勢いだ。


「そして、そっちの新入り!」


 大きな目でにらみ、指を差すアエデスの迫力に圧倒されて、マルコは「ぼ、僕の事?」と、彼も泣きそうになる。


「先ほどは、わしを誤魔化そうとしたな! 腰の後ろの只ならぬ気配を、さっさと見せい!」


「ご、ごめんなさい……。そんなつもりじゃなくて」


 マルコはあわてて腰から暗い袋を取り出すと、そのとば口を開いた。中から、紫色の光りがにじみ出た。とたん、神官たちから悲鳴が上がる。

 同時に、アエデスが手のひらをマルコに向ける。


「待てぇい! 何をしようと……。

 お主……人では、ないな?」


 今度は、アエデスが呆然とした顔でマルコを見つめた。アルは吹っ切るように一息吐くと、一歩進みいつものよく通る声をあげた。


「アエデス様。成功したんです。

 ……彼は、この地の外から来てくれた、異邦人なのです」


「召喚術か!」


 わめくようなアエデスの声に、アルは無言で大きくうなづいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=371337516&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ