5 神話 天地創造、第一の民エルフの誕生
陽のあたるテンプラムの神殿参道。
アルは壊れた石板の前では「あーー!」と残念そうに、大げさに顔を上げ手で目をおおった。それでも覚えてる限りの知識をマルコに教え、順序よく何枚も、石板の説明をしてくれた。
マルコが理解したアルバテッラの天地創造のおおよその流れは、次の通りだった。
はじめから存在していた、太陽の女神が、アルバテッラの元となる球体を投げた。
それが遠くまで飛んで、大きくなった後、冷えて固まり、大地の元となった。太陽神はその周りを回って照らし、意志ある灰色の大地が生まれた。
しかし女神は、一人でいる事に寂しくなってしまい、大地に涙を落とした。それが海になった。女神は、海の青い彩りに、しばし癒された。
だが、寂しさに耐えられず、女神は大地と取引をした。自らの目を一つ差し出し、大地から月の男神が生まれ天に昇った。
これが、最初の取引。
「アル! アル、ちょっと待って!
ハァ……。これ……、いったい、いつになったらマリスまでたどり着くの?」
頭も足もつかれ切ったマルコは、汗をかきながら、アルに訴えた。アルも相当息切れしながら答える。
「ハアアー! ……そうだね、なんせ……、ハア……。万物の起源だからね……ふうう〜! ……わかった。……ちょっと、はしょろう!」
そう言ってアルは、途中の石板を素通りして、つかれた様子で道を登った。
マルコもつかれてはいたが、歩きながら途中の様々な絵をながめて、それをとばしてしまうのが、少し惜しい気もした。
◇
頂上まで半分は過ぎただろうか。マルコがそう思った頃、アルがふと足を止めた。
「これは見逃せない」とつぶやいて、ある石板に近づき、じっくりと細かく見はじめた。
マルコもその後について、声をかける。
「……そろそろ、授業再開?」
集中していたアルは、我に帰ったように振り向いた。
「え? ……あぁ……そうだねぇ。……前に来た時より、ずいぶんと壊れている……。だけど、これは説明しないと……。
はい! じゃあ、授業を再会しますよ、マルコ君。
この石板は、太陽の女神と、月の男神の間に生まれた、初めての主神の子、第一の神の姿が描かれている。
……エルフを生み出した祖神でもある」
そう聞いたマルコは、半エルフのエルベルトのことを思い出して興味が湧き、しげしげとながめた。
その石板は損傷が激しすぎて、形を読み取れる部分が少なかった。
離れたり近づいたりしてなんとか読み取ると、中央にはムクムクと丸みのある大きな人のような形が彫られている。が、腰から上半身だけの姿だ。
その下には、粗く削られた木々、森のような形があり、その隙間や周辺にたくさんの小さい人の形がある。
そして、中央の大きな人の右側に、ほとんど削れているが、羽がある小さな何かがたくさん彫られているようだった。
アルが、説明をはじめる。
「第一の神から、第三の神まで、似た話しが続くんだけどね。この神はなんと自らの両脚を大地に差し出して、取引をし、森やエルフを、大地に生み出してもらったんだ。
その願いは、森とエルフで大地を彩ることだった。なので、エルフはこの地に生まれた初めての民。第一の民なんだ」
「なるほど、わかった。……それくらいの説明だと、僕にもわかるよ、アル。
……ところで、この右側にあるのは何? 羽を持った……人?」
マルコがそう言って指を差すと、アルは杖を持ち直して、足早に近づいてきた。
「いい質問だねぇ。これは魔法学院でも論争の的なんだ。
これは鳥の姿で、第一の神は鳥を生んだんだ、という人もいる。一方で、羽のある民、つまり、有翼人がアルバテッラのどこかにいる、と主張する人もいる。
マルコにも、これは人に見えるのかい?」
そう言ってアルは、好奇心旺盛な目を丸くした後、優しく微笑んでマルコを見つめた。




