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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
2.神さまがおりたつ丘
29/204

1 西のいにしえの町へ

 アルバテッラの南、はずれ森の西の境で、葉が茂る木立こだちの中に、朝の光が一筋さした。

 らす先には、き火の跡が見える。


 木立の向こう側、葉の隙間から草原の緑がのぞく。そこから、流れる川のせせらぎが、途切れなく聞こえていた。


 マルコは、焚き火のそばの木に背をあずけて座っていた。

 旅の連れのアル––––神の善意の石を隠した杖を持つ魔法使い––––と大喧嘩したことを、後悔していた。

 夕べは意固地だったかもしれないと思う。しかし今でも、アルの言い分に心から納得したわけではなかった。


「やっぱりどうしても端村はしむらに一度戻りたい」と譲らないマルコに対し、アルはさとすように何度も丁寧に説明した。


 マルコの腰、暗い袋の中にある黒い石––––マリスと呼ばれる神の悪意の石––––が、ここアルバテッラの人々にとって、いかに危険なものであるか。

 枯れ川の洞窟の奥で、アル自身がその石に支配され、もう少しで人ではない何かに変わってしまいそうだった事。

 何かの拍子ひょうしでその石が袋から出されてしまえば、端村はしむらの人たちも容易にそうなってしまう事。

 そして最後はいつも、さびしそうにこう言った。


端村はしむらの人たちは、昔から、その神の悪意の石の近くに住んでいた。だから何年も何年もそのマリスの災いを受けて、弱ったに違いないんだ。

 マルコ、君のおかげで、やっと彼らは解放される。……だからこのまま、自然と活力が戻るのを、そっと見守ってあげて欲しい」


 マルコは、頭ではその理屈がわかっても、会いたい人に会うことができない辛さは変わらなかった。

 頭でわかる正しい方向と、心の向く先が、どうしても一致しないことがある、と彼は初めて知った。


 それでもマルコは立ち上がり、アルに自分の思いを伝えようと思った。

 そう決意すると、さっきまでは顔も合わせたくなかったのに、早くアルに話したくなって彼を探しはじめた。

 先ほどアルは、「川で洗い物をするね」と木立こだちの向こうへ消えたままだ。


「アルー! わかったよ!

 端村に寄るのは、マリスを王都へ届けた後にする!」


 そう叫びながら、マルコが木立をかき分けて森を出ると、正面は太陽に照らされ、光り輝く草原におおわれた丘だった。


「マルコー!

 わかってくれると思ってたよ!」


 そう答える先に目をおろすと、土手の下を流れる浅瀬に、手ぬぐいを持つ裸のアルがいる。そのまま彼はこちらを向いた。


「それじゃ、このまま丘を西へ越えて、私たちはいにしえの町、テンプラムへと向かう!」


 日の光で橙色オレンジの髪は輝き、笑顔をはじかせる。

 一糸まとわぬ姿のまま、彼は何も隠そうとはしなかった。


「いやあああああああぁぁぁぁ!」


 マルコは、女の子のような悲鳴をあげてしまった。

 真っ赤になって、アルに背を向ける。


「どうした? マルコ! ……まさか、神の悪意が––––」


「違う! 違うよ、アル。お願い……。

 お願いだから、何か着て!」


「…………。なんだい。……男同士なのに」


 アルは首をふりふり、小川から上がろうとじゃぶじゃぶ水音をたてた。


 マルコは自分でも、なぜアルの裸にこんなにも動揺したのか不思議だった。

 思い出そうとしてみても、この地に来る前の記憶は、ぼんやりとしてわからないまま。


「自分の体と魂はズレてるのかな?」と彼は一瞬考えたが、それは脳裏をかすめただけですぐに忘れてしまった。

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