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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
1.南のはしっこの森
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23 旅立ち

 朝日で、緑に光る大木の葉。

 きらめきの中に、小屋が見える。

 日ざしはおりて、みきは虹色にかがやいた。


 翌朝。

 ユーカリのそばで、別れをしむ三人がいた。


「それじゃあ、いろいろとお世話になったね。エル……ベ……ルト」


 橙色オレンジの髪をかがやかせ、大きな杖を持つ若者がしみじみ言った。


「エルベルト、本当にありがとう。

 どうしても……、一緒には行けないの?」


 黒髪の小柄な青年が、懇願した。

 腰には、きらびやかなさやと暗い袋が、しっかり結ばれている。


「アルフォンス、マルコ、私こそ感謝する。

 そうだな……。セバスティアンの小屋を、整理しないとな。

 喜ばしいことに、もう必要もないだろう」


 黄緑の髪を光らせ、狩人が答えた。

 彼は、若者に見える時もあれば壮年にも思えて、年齢が不詳だった。

 やがて、エルベルトは語る。


「アルフォンス・キリング、この地で二番目のグリーを用いる者。

 そしてマルコ、神の悪意、マリスをたずさえる異邦人。

 神の善意と悪意を運ぶ、旅の仲間……か。

 つくづく妙な組み合わせだな。

 アルフォンス、前途ぜんとは多難だぞ」


「ああ! 心得てるよ、エルベルト」


「まさかお前の『研究』が、こうして花を咲かせるとはな」


 エルベルトがおだやかにマルコをながめる。

 アルは、涙声になった。


「……10年かかった。

 魔法学院アカデミーを出て、研究が実を結ぶのに」


 マルコは、ちらりとだけアルを見上げた。


 ふと、エルベルトは朝日に目をやる。


「日も昇った。

 私に判別できるのかはわからないが、そのマリスを一度、見せてもらえないか?」


 アルが即座に反論する。


「やめたほうがいい!

 話したじゃないか? 私に起きた事を」


「……少しだけだ」


 エルベルトもゆずらない。

 マルコは板挟いたばさみになり、困った。やがて、沈黙に耐えられなくなり、ごそごそと腰から袋を取りはじめる。


 あわててアルは、木のかげへと駆けていく。


 マルコは、この気まずさを早く終わらせたくて、われるままに石を出した。


 瞬間、鋭い一声。


「もういい! マルコわかった。充分だ。

 …………悪かったな」


 エルベルトは顔を手でおおい、もう片方の手をマルコに向け、こばんでいた。

 マルコは、いそいそと石をしまった。


 だがそんな気まずさも、朝日のぬくもりがすぐにかして流してくれた。

 三人は手を握り、「さよなら」を言う。


 アルとマルコは連れ立って、旅に出る。

 とはいっても、行き先はまだ、決まってはなかったのだが。


     ◇


「ねえ、アル。端村はしむらに戻ろうよ。

 せめて皆にお別れの挨拶あいさつをしたいんだ」


「それじゃひと休みする時、また話そう。

 シェリーや亭主夫婦に会いたいんだね?

 ……セバスの仇討かたきうち……できたしね」


 まぶしい朝日に、アルは目を細めた。

 が明るくてらすので、マルコは思いきってたずねてみる。


「セバスティアンさんは、あの小鬼ゴブリンにやられたんだよね?

 あんなとこに一人で……なぜ?」


「それ、きみが言えるのかい?」と、アルは苦笑にがわらい。

 しかし、真っすぐにマルコを見つめる。


「セバスは、マリスにあの洞窟に来るようにいられたのだと思う」


 そう言ってアルは、マルコの腰の袋へ、静かに目を落とした。

 うつろな目で続ける。


「その悪意の石は、自分のあるじを、より強い者にしたいと考えたのかもしれない。

 セバスに、目をつけたんじゃないかな。

 だからあるじ小鬼ゴブリンと対決させた。

 彼は、抵抗できなかった。そして……」


「わかった! なんとなくだけど。

 そういうことなんだよね」


 マルコは、腰の黒い石がもたらす悪意に、思いをはせた。

 それによって、かなしみをかかえた人たち。

 そしてアルも、喪失感に苦しんでいるのだと、マルコはこの時はじめて気づいた。


     ◇


 静かな森をふむ、ふたりの足音。

 かすかな呼び声がまじる。

 マルコとアルは、同時にふり返った。


 遠目に見えるエルベルトが、まだ見送っていた。脱いだ帽子を精いっぱいふる。

 彼は、片方の耳だけが長くとがり、黄緑の髪から飛び出ている。


 それを見て、アルの口もとがゆるんだ。


 マルコも、大きく腕をふって返す。


「エルベルトは、なんだか……不思議な人だったなぁ。また会えるかな?

 ……また、会いたいな」


「必ず会えるよ。旅を続けていればね」


 アルは、優しい笑顔をマルコに向けた。


「彼には、高貴なる第一の民、すなわち森をいろどるエルフの血が半分だけ流れる。

 ハーフエルフなんだ」


 そう言って、アルは好奇心で目を丸くして、マルコを見つめる。


 だがしかし、マルコの返事は、アルが思いもよらぬものだった。


「あの……今さらなんだけどさ。

 エルフってなに?」


「………。え! そこから?

 えぇと……いやー。エルフって言葉だけでも聞いた事ない?」


 無言で、眉間みけんにしわを寄せるマルコ。

 アルは顔を上げ、大げさに目をおおう。最後に彼は、よく通る声で言った。


「これはもう、次の行き先は決まりだよ!

 マルコ、君にはまず、この地のことをもっとよく知ってほしいから––––」


 歩きながらさかんに語り合う、背の高い魔法使いと小柄な剣士。

 朝日を背にするふたりは、なおも森の中を進み行くようだった。


     ◇


 はずれ森のどこかの梢枝こずえで、小鳥がせわしなく首を回す。

 羽はくすんだ緑で、名の通り、目の周りが白い、メジロだ。


 鳥は、ユーカリの大木の下、帽子をふる男の背中を見下ろす。

 やがて、その男を目指し羽ばたいた。


 エルベルトは、旅立ったふたりを見つめるまま。

 その肩に、小鳥がとまる。

「チィチ、チチ……」と可愛かわいくさえずる。


 エルベルトはなおも同じ方を向くまま。

 とがった耳のそばで鳴く、その小鳥に答えるかのようにささやいた。


「……えぇ……その通りです。……いえ。

 この目で見たので間違いありません。

 ……たしかに、『たまご』は北へ……」


 不可思議な会話が終わると、小鳥はまた羽ばたく。


 大木の葉の間をあっというまにくぐり抜け森の屋根を越え、木々を見下ろす青空へ飛び立つ。


 右手には、くすんだ屋根がならぶ集落。

 飛ぶ先、左手には小高い丘。遠くに石柱がならぶ。


 ぱたぱたと小鳥が右へ旋回せんかいすると、右の彼方かなたには白い山脈がつらなる。

 正面は、様ざまにいろどられた、雄大な平野。アルバテッラの大地が、どこまでも広がっていた。






1章の最後までご覧いただきありがとうございました!

引き続き、ぜひ、お楽しみください。


貴方様に世界を彩る神々の祝福があらんことを!

©️2020- 王立魔法学院書記官

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