表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
1.南のはしっこの森
23/204

21 宮殿遺跡の対決 後編

 黒い石のあるじは、無造作に腕をはらう。

 マルコは、アルをうしろに突き飛ばして、自らもび下がった。


 気持ちは落ち着いて、身体からだも動けている。でも、何か足りない。

 マルコはそう思った。

 エルベルトに勇気をもらったのに、踏み込むには気後きおくれする。

 心と体のかたさを、どうにかしたかった。


 笑みを浮かべる小鬼ゴブリンは、次はどこに飛ばすのか、腕を宙でふり回す。


 ふとマルコは、端村はしむらの大宴会の儀礼を思い出した。

 ためしに、床の石畳を二度踏み鳴らす。

 ドンではなく、ペタン! と弱々しい音。

 それでも「おう!」と力強く叫んでみた。


 うしろのアルがはっとし、ひとり言をいう。


「なんで……狂戦士バーサーカーの真似事なんて」


 マルコの耳にその言葉は届かない。

 床を打つ刺激が脚のかたさをなくし、跳躍もして身体からだをほぐすと、彼は剣を構えた。



 ふいに巨大な爪が突く!


 間一髪、マルコは左によける。

 返す刀で、甲羅こうらふしを切り上げた。


 小鬼ゴブリンは、巨大な腕を上げ絶叫。

 またもマルコはび下がり、剣にべっとりついた黒い血を見る。

「腕をたたけば……なんとか」と、この時はそう考えた。


 あざやかな、マルコの剣さばきを目にしたアルは、驚き、そしてはげまされた。

 神の悪意への恐怖にあらがい立ち上がる。そして、静かにつぶやき詠唱。

 かがやくグリーの石から、光る雲がうずを巻いて広がる。彼の身体からだを取り巻いていく。

 顔の刺青いれずみは消え、アルは自分を取り戻す。


     ◇


 黒いものがしたたる腕をあげ、悲鳴をあげる石のあるじ

 だがしかし、しばらくすると、また笑みを浮かべる。

 小鬼ゴブリンの腕は傷がふさがり、黒いしたたりもおさまった。


「体をめないとダメだ」と、マルコは思い直す。


 再び、マルコへ鋭利えいりつめが飛んだ。

 こんどは右によけて体をねじり、マルコは相手に大きく踏み込む。

 反動から渾身こんしんの一撃!


 しかし「キイィーーン!」と音がすると、マルコのうしろでやいばが石畳の床に刺さった。

 小剣は、かた甲羅こうらはばまれ、根元から折れてしまった。


 呆然とするマルコを、横にはらうつめが吹き飛ばす。

 激しく石柱にぶつかり、彼は気を失った。そのまま体は沈み、柱にもたれる。


「マルコーーー!」


 アルが叫び、即座に白い雲を小鬼ゴブリンに放つ。

 だがそれは、けむたそうに払われるだけだ。


 打つ手はもう、無くなったように思えた。


     ◇


 ふと気がつき、立とうと手をつくマルコ。手に、腰から伸びる何かがあたった。

 あわてて引くと、すらりと抜ける。

 エルベルトにもらったけものの小剣。マルコは目の前にかざしてみた。


 かたどられたおおかみは、刃をみこんでいるようにも、逆に口から吐き出しているようにも見える。


 彼はそのを握りしめ、つぶやく。


「剣術のような……ハァ、曲芸のような……。

 フゥ……。

 つらぬく意志いし加護かごを!」


 そういのると、立ち上がった。



 無謀にもマルコは、黒い石のあるじを真っすぐ見つめ、一直線に駆ける。

 雲をはらったあるじは、またもニタリと笑う。

 マルコ目がけ、巨大なつめを真っすぐに突き出した。

 

 鋭い切っ先が、マルコに深々と刺さる。と思われた刹那せつな、踏み込むマルコはぎりぎりで体を半回転。右によけた。

 剣持つ体をねじる時、それはあらわれる。

 桃色ピンクの髪は燃え上がり、草色の体のまぼろしが、マルコに重なる。


 一撃目を打ち当て一回転。それは、勢いをつける打ち込みだ。

 さらに回りながら進んで二撃目を打ち込み二回転。マルコの心が叫ぶ。


「剣ではない。おどるように!」


 踏み込んでもなお、あるじの肩は遠い。

 しかし、精霊の幻が重なるマルコは、まだ動けていた。


 さらに回りながら進んで三撃目を打ち込み三回転。彼は、無心の踊り手となる。

 そして、三回まわりきった時、足を地面にぴたりとつけて、踏ん張る。

 顔の前で、驚く小鬼ゴブリンと目が合った。


 そうして、足から順にねじれてたまった力が、剣持つ肩を逆回転させる。

 あまりの反動に、マルコの身体からだはきしみ、悲鳴を上げる。

 だがしかし、草色の精霊とさらに、桃色ピンクの髪をゆらす少女の幻も重なる。

 3人のひとみあるじをにらむ。


「ぁぁあああああっ!」


 けものの剣は、あるじの肩を一気に切り抜いた。


     ◇


 黒い石のあるじは、いったいなにが起きたのかわからないまま、巨大な腕が自分から離れていくのをながめていた。


 左を見ると、自らの肩ごとゴッソリとなくなっている。

 しかし、断面はかわいて、痛みはない。


 その小鬼ゴブリンは、これまでになにがあったのか思い出せないまま、残った記憶のうち、王冠を見つけた時の喜びを思い出そうとした。


 体は床に打ちつけられ、ねる。

 腹這はらばいになり、なんとしても王冠を目指す。

 だが微塵みじんも進めず、蒸気を出してしぼむと、その体はちりになった。


     ◇


「シェリーのダンス、実戦で使えた……」


 意識は朦朧もうろうとし、マルコは勢いのまま石の床に音を立て倒れた。

 体を横に吐き気をこらえる。目は回って、世界がぐらぐらする。

 

 遠くから、歓喜の声が駆け寄って来た。



「マルコ! すごいよ!

 いつの間に、こんな立派な戦士に……」


 ふらふらとマルコが見上げると、べそをかいたアルが見下ろしている。

 無理して立ち上がり、マルコはふらついてアルに抱きついた。


「君も自分で身を守るすべが必要……って。

 手紙くれたの……アルでしょ?」


 彼もべそをかいた。



 ふたりは肩を抱き合い、しばらく泣いた。

 危機を乗り越え、ほっとした脱力感。

 それと、どうにか生き残れたという喜びを分かち合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=371337516&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ