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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
1.南のはしっこの森
22/204

20 宮殿遺跡の対決 前編

 マルコとアルの前で、扉が少しづつ開く。

 神の善意グリーにてらされ、石畳いしだたみの床と、何本も柱がある大広間が見えた。


 そして、大量の小鬼ゴブリンの顔、顔、顔。

 その者たちはいっせいにこちらを見るが、みなキョトンとした表情だ。

 マルコが見上げると、石柱のはりにも大勢の小鬼ゴブリンが腰掛ける。


 その数に圧倒されて、マルコは思わず声が震えた。


「あ……アル? ど、どうすんのさ。これ」


「大丈夫……彼らのことは任せて」


 アルは落ち着いて答えると、大股おおまたで広間へ入っていく。

 あわててマルコも背中についていった。


 とたん、小鬼ゴブリンたちが金切り声で騒ぎ出す。

 息苦しいほど広間を満たす騒音に、マルコは両手で耳をふさぐ。

 あの端村はしむらの宴会も、これに比べれば行儀が良いほうだ、とたわいもないことを考えた。


 アルの口が動く。

 杖の先のグリーがかがやくと、小鬼ゴブリンたちも何かを感じ、急に静かになった。


 すかさずアルは、広間中にひびく大音声だいおんじょうを発する。


「聞け! 地から生まれし一族よ!

 たとえ神の悪意、マリスにさそわれこの地につどったとしても! 

 この神の善意、グリーの光がなんじらを焼き尽くすだろう!


 去れ! 一族が生まれでし地へ!

 さもなくば、いまだ目にせぬ光輪こうりんが、なんじらをしばさいなむだろう!」


 そう叫ぶと、アルはふり返った。

「目を閉じて!」とマルコにささやき片目をつぶる。


 マルコは、言うことをきいた。



 杖先から、白い雲のようなやわらかい光が、いくつもいくつもうずを巻いて広がっていく。

 すると、広間中に昼の光が満ちた。

 小鬼ゴブリンたちは、いっせいに悲鳴を上げて、四つんいで走り出す。


 目を閉じるマルコは、何も見なかった。

 だが、幾百もの手足があわてて床や柱をこする、砂嵐のような音を聞いた。


 そして閉じたまぶたを通してもまぶしい、爆発するようなかがやきを一回だけ感じた。


     ◇


 マルコがそろそろと目を開くと、広間は、きれいに小鬼ゴブリンがいなくなっている。


 グリーの光がてらす先へ目をらすと、壁にいくつも穴がある。そこから何か不満げなうめきがもれたが、それもすぐ消えた。


 マルコは、最悪の危機は乗りきったと興奮し、高揚してアルに目をやる。


 しかし、広間の奥にたたずむアルの横顔はさえない。

 彼は何かに気づくと、目を開きじっと見つめるままだ。


「あったよ、マルコ。……あれだ」


 マルコも駆け寄り、アルが見つめる先を、同じようにながめる。

 わずかに光が届く広間の奥に、びた鉄の玉座ぎょくざがあった。


     ◇


 グリーの明かりがなければ、真の暗闇であろう大広間。

 奥の玉座ぎょくざに向かって、ついになった石の柱がいくつも並ぶ。

 玉座のうしろの壁には、ごみとなった布の切れはしが舞う。


 マルコとアルがあゆみよると、びた玉座の背もたれに、やはりびた王冠おうかんがかかっていた。


 王冠の真ん中には宝石がはめられている。

 はじめマルコは、その宝石がグリーの光を反射しているものだと、てっきりそう思っていた。


「マルコ……ちょっと……待って」


 アルは息をするのも苦しげに、マルコの肩に手をやる。

 マルコは彼の顔を見上げると、もう口に出さずにはいられなかった。


「アル……ほっぺたに、刺青いれずみみたいなあとが」


 背を丸めたアルの顔に、黒くとがった刺青いれずみが何本も凶々《まがまが》しくはしる。

 アルは息を切らして答える。


「……ああ……これ?

 体質というか、血筋というか……。

 いまは、気にしなくて大丈夫……」


 苦しげになんとかそう答え、アルは玉座に目を向ける。


「……最悪だ」


 マルコが見ると、壁に巨大な人影がゆらめていた。



 背もたれのかげから、それは姿を見せた。

 はるかに大きい屈強な小鬼ゴブリン。頭には黒い、トサカのような毛が生えている。

 赤い目を開き、大きな赤い口をニタリ、とさせると王冠の石に指を伸ばす。


「遅かった……もう、あるじがついていた」


 そうつぶやくと、アルの体はくずれ落ちる。

 あわててマルコが支え、アルの手をにぎると小刻みに震えていた。


 小鬼ゴブリンは黒い石をつまみ、その左腕を、高くかかげる。

 とどろく、耳をやぶる叫び。

 腕の先から赤黒い甲羅こうらがおおい、見る間にふくらむ。

 切っ先はまるで、さそりつめだ。


 片腕だけがいびつに巨大なあるじが、腕をふりくうをうならせると、そばの石柱が音をたててくずれた。

 ついの柱を右に左にこわしながら、ふたりの方へ一歩、また一歩と近づいてくる。


「……ダメだ。計画は失敗だ……。

 逃げよう、マルコ」


 アルは目を開き、がたがたと震えている。

 だがマルコは、静かにアルの前に出ると、落ち着いて答えた。


「あとは、僕に任せて。アルは下がって」


 その時マルコは、やっと答えにたどり着いたと思ったのだ。


 セバスティアンの、いまマルコが着るこのよろいを、バラバラにこわした相手が今、目の前にいる。

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