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神の悪意の物語  作者: 王立魔法学院書記官
1.南のはしっこの森
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プロローグ

 暗闇の中、光るしずくが落ちて青い水面みなもに波紋を広げるように、かすかな呼び声がして意識がさめた。


 上に、ぼんやりした明かりが見える。

 声はそこから聞こえるようだ。


「……は、きこ…………か?」


 よく聞き取ろうと、明かりを見つめる。

 するとそれは、光のうずとなって外へ広がった。


 光は、一つ一つが黄金こがねかがやく異国の文字で列をなしている。


 ふいに、音楽が聞こえる。いや正しくは、男の声をいくつも重ねた詠唱だ。

 低い声、高い声。ある声は力強くゆったりと、ある声はささやくように急ぐように。


 その多重奏に合わせて、光のうずはしだいに広がり、やがて目の前を白く染めあげる。


 音と光は意識に深くみわたり、まるであたたかいみずうみ身体からだが沈むよう。


 再び声が問いかけてくる。


「こんどは、きこえ……ますか?」


 夢からさめて、初めて言葉を発するように答えた。


「……ふぁ……はい」


 呼び声は、ほうと一息つくと明るく話す。


「よかった! わたしは、……るばてっら王りつあかでみー……たん究者、あるふぉんす・きりングともうします。

 あなたのお名前は?」


 なんとか、口に出す。


「マ……キ」


「まき?」


「……。マキ……オ」


 光の向こうから、楽しげな笑い声が響く。息づかいまで近づいてくる。


「マキ・オ?

 なんだか古代エルフの字名あざなのようだね。

 とても高貴で、素敵だけど、ここでは目立ち過ぎる。

 ……不本意かもしれないが、こちらへ来てもらったら、平凡な名前がいいよ。

 ……。

 マルコでどう? 大河からこっち、南ではとてもよくある名前なんだ」


 呼びかける声は急に饒舌じょうぜつになり、なんだかやけにれしい。


 マルコと名付けられ、ようやく意識がはっきりしてきた。

 夢を見ているんだろうか?


 詠唱のこだまがひびいて、息苦しくなる。


 疑問が一気に胸に湧く。


「マルコ? 名前を変える? いいですよ。

 ……いままで良い事もなかったし。

 でも、あなたは誰? これは夢––––」


 その瞬間、全ての音がんだ。


 男は、こんどはどこまでもよく通る声で、太陽のように朗々(ろうろう)と、いかづちのように激しく大音声だいおんじょうを唱えた。


われ、神の善意なりしロムレスのグリーを用いる者!

 アルバテッラの人ならぬ異邦の人の承認をたり!

 第三の神の力を借りて、の人を我が元へと召喚するものなり!」




 そうして、すべてが真白ましろになった––––。

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