とある足軽の家
彦根藩のとある足軽の家。
子「父上。1つお尋ねしたいことがあるのでありますが。」
父「なんだ申してみよ。」
子「父上の身分は足軽でありますよね。」
父「急になんだお前。家老の息子にでもいじめられたのか?」
子「いえ。そのようなことはありませぬ。」
父「あとになって『実はあの時……』では遅いからな。遠慮なく申してみよ。」
子「いえ、逆にこちらが恐縮するぐらい、よくしていただいております。」
父「ではどうしたと言うのだ?」
子「父上。足軽と言いますと、一応武士と位置付けられてはおりますが。衣服は粗末なもので、住まいも長屋。と聞いているのでありますが、なぜ彦根の足軽は我が家のように屋敷が与えられているのでありますか?」
父「他藩(の足軽と喧嘩になるの)で申すではないぞ。我が彦根の足軽は、他藩には無い。特別な任務が与えらえている。」
子「どのような任務でありますか?」
父「古くは豊臣家との境に位置していたこと。今は都である京で何か不測の事態が発生した時、すぐに駆け付け。治安の維持に務める役割が与えられているため、他藩と比べ、待遇が良いのかもしれない。」
子「でもそれならば、わざわざ『足軽』で無くとも……。」
父「なんだお前。足軽であることが嫌なのか?」
子「いえ。そのようなことはありませぬ。」
父「まぁ権現様が、あまり華美なモノを好まぬかたであったからな……。」
大坂の陣の際、軍装煌びやかな井伊隊を見て徳川家康が
『堕落しやがって……。』
と嘆く中、使い古された具足で戦う我らを見て
『これこそが……。』
とお喜びになられた。
子「軍装を直すだけの……。」
父「……そう言われてしまえば弱いところではあるが。機能性に問題は無い。実際のいくさ場においても我が井伊隊は、先鋒となり。大坂方の木村・長宗我部隊を撃破するなど活躍。彦根藩の地位は揺るぎないものとなった。」
子「ならば尚更『足軽』と言う身分が……。」
父「それはな。私を含め彦根の足軽は、井伊の人間ではないからなんだよ。」