Last and First~カッコつけた言葉はいつだって、鎖のように互いを縛る~
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──さて、お客様がた。
今宵もわざわざ我らが公演に足をお運びいただき、まことにありがたく存じます。
演目は、世にありふれた恋話。舞台は月夜のバルコニー。
いささか陳腐なシチュエーションではございますが、どうぞ皆様、お楽しみ下さいませ。
「……ああ、君はなんて美しいんだ」
「だめよ、いけません、私には親が決めた婚約者が……」
「我慢して、諦めてしまえとおっしゃるのですか、愛しい人よ」
傷ついたような顔をする男。女は、流されてはならじと毅然とした表情をとりつくろいます。
「嫁に選ぶのならば、私などよりもっとふさわしい素敵な方が沢山いるでしょう」
「美しくも残酷な方だ、こんなにまでも君を愛している哀れな男に、なんと心無い言葉……」
「馬鹿なことを、私のような者のために、全てを犠牲になさる覚悟がおあり?」
煽るような言葉に、男の態度が変わります。
おどけたような笑顔を引っ込め、真剣な表情で女の瞳を見つめます。
「理想の女が手に入らぬのならば、他の全てを手にしたところで、何の意味があるでしょうか?」
頬を赤らめ、目を反らす女。案外初心でございますな。
「……身体だけが目当てなのではなくて?」
いやはや素直ではございません。侮辱とも取れる言葉に、男は動じず言い切ります。
「手に入れたいのは身体ではなく、あなたの心です」
「す、少し、少し考えさせてください……」
「いいえ、考える時間も迷う時間も与えませぬ、どうぞご決断下さいませ」
男の剥き出しの情熱に、満更でもない表情を浮かべる女。
「……せっかちなお人」
「止まらぬのですよ、この愛は」
「私を……幸せにしてくれますか?」
女の問いに、間髪を入れず応える男。
「悲しみと不幸を、決してあなたには近付けさせぬと誓いましょう」
「裏切ったならばどうします?」
「すぐさまこの胸に短剣を突き立て、そのような不実な愚か者の心臓をえぐり出して見せましょう」
「……嘘だったら、許しませんよ?」
「良き恋人、良き伴侶として一生あなたに尽くすと誓います」
堂々とした態度で宣言する男の言葉に、女の瞳が揺れています。
「……少なくともあなたに、弁舌の才と女をその気にさせる才が有るのは確かなようです……私が愚かなだけかも知れませんけど」
「どうかお願いです、私のものになって下さい!」
弱々しく呟く女の手を取り、迫る男。はてさて、女の返答やいかに──?
→イエス
→いいえ
――女がどちらを選んだか。
結末はご想像にお任せいたしますが、いずれにしても、今宵のしりとり公演はこれにて終了にございます。
Fin.
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※タイトルの『Last and First』は英語圏での『しりとり』になります。カッコつけた言葉(「」つけた言葉=台詞)を辿るとしりとりになってます