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暑すぎず寒すぎず

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 

「……ぽかぽかして、いい天気だなあ」

「ああ、これくらいの時期が一番快適だよなー。暑すぎもせず、寒すぎもせず、っていうか」

「ほんとそれな。……って、何かさっきから、くっそジジむさい会話してないか、今の俺ら」


 仕事の昼休憩、一緒に飯を食いに出た帰り道。

 同僚と歩きながら、のんびり言葉を交わす。

 故郷を遠く離れた都会に出てきて初めて入社した会社で、出身地が同じで歳も近いこいつと出会えたのは幸運だった。

 同郷のよしみですぐに打ち解け、良き同僚、良きライバル、良き友人として、共に色々な困難を乗り越えてきた。

 気恥ずかしいからわざわざ口にはしないが、社会人になってからただ一人出来た親友と呼べる友人だ。


「……まあ、お互い、もう若いって言える歳じゃないしなあ」

「おいおい、俺はまだまだ現役だぜ?」


 親指を立ててキラーンと白い歯をきらめかせ、実にウザやかな笑顔を見せつけてくる同僚。


 ……ほんと、このお調子者は。出会ってから変わらないな。


 この明るさとひょうきんさで、俺もひそかに憧れていた職場のマドンナのみっちゃんをこいつが射止めた時には、軽い嫉妬すら覚えたものだが。

 その後、俺も別の相手と結婚し、互いに家庭を持ってからも、気安い付き合いは変わらず家族ぐるみで続いている。


 思わず苦笑しながらも、一応警告してやることにした。


「いや、言っとくけど、俺は毎朝ジョギングとかしてるぶん、お前よりはまだ体力あるからな? 単にお前がインドア派だから実感ないだけなんだって。実際、アラフォーに入ったとたん、いきなりガクッと体力落ちてきたの感じたし。油断してるとヤバいぞー」

「そんな変わるもん?」

「具体的に言うとだな。……朝勃ちの回数減ってきた」

「昼間っから生々しいな!」


 キレのいいツッコミを入れてから、ふと考え込むような表情になる同僚。


「あー、でも、そう言われりゃ俺も最近、嫁とやる時、二回戦でへとへとになるなー」

「お前の方が生々しいよ! 次にお前んち遊びに行く時、みっちゃんと話すの気まずくなんだろが!」


 げらげらと笑い合う。正直、こうして下品な冗談を気軽に言い合えるような友人がこの歳になっても存在するというのは、けっこう幸運なことだと思う。


「……ってまあ、それは置いとくにしてもさ、やっぱ、だんだん体力落ちてきてるんだって」

「あー、だよなー。ちょっと腹周りも気になってきたし、ジムにでも通うかなー」

「駅前のフィットネスクラブ、なかなかいいらしいぞ? スパも併設されてて、溶岩浴とかもあるらしい」

「へえ、今度行ってみるかな……っと、おい、やばい、そろそろ昼休憩時間終わりだぞ、早く戻らないと」

「ああ、そうだな」


 俺たちは下らない会話を切り上げて、職場に向かう足を速めることにした。

 軽いジョギング程度の速さで駆けるたびに、大きな地響きともうもうとした砂ぼこりが巻き起こり、俺たちの各六本ずつの触腕の体節が、ギシュンギシュンと金属質な音を奏でる。


 ちょうどそのタイミングで東の空が急激に明るくなり、ビルの向こうから三つ目の太陽が、新たにその顔を覗かせた。


 紫色の酸性ガスの大気を透かして、それまでとは比較にならない強烈な日差しが一気に降り注ぎ、俺たち二人──ヴェジュレクト星系人特有の、硅素外皮甲殻の表面を赤熱させる。




「うわー、マジかよ。俺、結構肌弱いのになー」





 ───前言撤回。今日はどうやら、ずいぶんと暑い日になりそうだ。




 Fin.

※アラフォー=アラウンド400歳

※溶岩浴 (ガチ)

※みっちゃんの本名=(地球人類には発音できない)

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