表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

元魔王、勇者に襲われる

作者: 守 秀斗

 私は元魔王だ。

 この世界を支配していない。

 体調不良で、魔王の地位は娘に譲った。


 今は引退して、各地の温泉巡りを楽しんでいる。

 すっかり調子が良くなった。

 もう、勇者たちとの対決とかはどうでもいいや。


 ある夜、農家の離れを借りて寝袋で寝ていると、人の気配がする。

 何奴!

 まさか、勇者たちか。

 けど、私はもう魔王じゃないんだけどなあ。


 面倒くさいなあ。

 まあ、仕方が無い。

 相手をしてやろう。

 体調も回復したところだし。


 勇者たちよ!

 元魔王の恐ろしさを見せてやろう!

 さあ、かかってきたまえ!

 ハッハッハ!


 けど、よく見ると女一人だけだね。

 凄い美人だ。

 色っぽいドレスを着ている。

 どなたですかと聞く。


「サキュバスです」

 なんだ、淫魔さんね。

 何のご用ですか。


「現魔王様から、ご連絡です」

 現魔王とは私の娘のことだが、何があったんだろう。


「魔王様はナイアルラトホテプ以下クトゥルフを殲滅するために、魔王軍全軍を率いて、クトゥルフ本拠地に攻め込むとのことです」

 何じゃ、クトゥルフって。

 あと、ナイアルラトホテプってよく覚えられるね。

 舌噛みそうだよ。


 魔王軍全軍って、随分御大層な事するね。

 娘は真面目だからなあ。

 魔王なんて、適当に仕事してればいいのに。

 誰も気にしないって。


 まあ、まかせるわ。

 サキュバスさん、連絡、ご苦労さん。

 じゃあ、私は寝るんで。


 すると、サキュバスは少しモジモジしながら言った。

「実は魔王様から、お父上の体の調子を確かめるため、同衾するようにとのご命令でございます」

 ふーん、あの潔癖症の娘にしては珍しいな。

 しかし、フフフフ。

 私はすっかり調子が良くなった。

 久しぶりに楽しむとするか。


「そういうことか、苦しゅうない、ちこう寄れ、ハッハッハ」と招き寄せる。

 サキュバスがドレスを脱いで、寝袋に滑り込んできた。

 ちょっと狭苦しいが、まあ、いいか。

 久々に張り切る。


 ………………。

 …………。

 ……。

 ふう疲れた。

 さすがに十回もすると、もう限界だな。

 サキュバスよ、ご苦労であった。

 もう帰っていいよ。


 すると、突然、サキュバスが私の首をナイフで掻っ切ろうとする。

 危うくよける。


「お前は、サキュバスではないな!」

「オホホホ! サキュバスですわ、元魔王。但し、異世界からサキュバスに転生したのよ。今は勇者様の仲間。さあ、元魔王よ、観念なさい」


 くそ、謀られたか。

 勇者め! 下半身で引っかけるとは卑怯なり!

 って、引っかかる私もだらしないけどね。

 しかし、腐っても私は元魔王だ。

 侮るなよ!


 しかし、サキュバス転生者を瞬殺しようとして、

「うっ!」と私はうめいた。

 ほとんど力が出ない。


「オホホホ! 先程でお前の精力はすっかりいただいたわ」

 しまった、久々とはいえ十回はやり過ぎだ。

 仕方が無い。

 とにかく逃げる。

 残った魔力で瞬間移動!


 私は、魔王城の魔王の間に移動した。

 へとへとだ。

 しかし、助かった。

 と思いきや、勇者たちが待ち構えていた。

 しまった、これは罠か!


「クククク、引っかかったな魔王。お前がここに戻ってくることは予想していたんだよ」

 勇者たちが笑う。

「私はもう魔王じゃないぞ」

「どうでもいいんだよ、そんなこと。さあ、お前の首をいただくことにするか」


 おのれ、勇者め。

 それにしても、私はもう引退したのに。

 しつこいぞ、勇者!


 悔しがる私を見て、さらに嘲る勇者。

「お前のところに行った、あの転生者のサキュバスは、元は男だぞ」

 なんだと! 気持ち悪い。

 男と十回もやってしまったのか。

 ショックだ。

 いや、差別は良くないけどね。


「魔王! 覚悟しやがれ!」

 勇者たち四人が襲いかかって来る。

 わが生涯もこれで終わりか。


 そこに、突然十人のサキュバスがやって来た。

 このサキュバスたちは本物だ。

「元魔王様、助太刀いたします」

 サキュバスたちは、あっという間に勇者たちの精気を吸い取る。

 勇者たちは、平状の干物のようになって、床に倒れて死んだ。


「助けてくれてすまない、サキュバスたちよ」

「いいえ、元魔王様。これぐらい大したことありませんわ。ところで出来ればまたお相手をしていただければ」とサキュバスが少し顔を赤くして言った。

 うーん、もうさすがに疲れてるんだけど。

 仕方が無い。

 残った魔力全部使って、魔法を使う。

「必殺、性感魔法! バイアグラレビトラシアリス!」


 サキュバスたちは大嬌声を上げて、失神。

 そんなに気持ちいいんかね。

 この魔法、私自身はちっとも気持ち良くもないし、楽しくもないんだよな。

 

 しばらくすると、サキュバスたちは失神から目覚めて起き上がる。

「さすが、元魔王様、素晴らしいですわ。後、あのサキュバス転生者は私たちが退治いたしますので、ご心配なく」と言って、城から離れていった。


 私は、すっかり魔法を使い切ってしまった。

 回復するまでは、ただの爺さんだな。


 魔王の間の机の上に、娘からの手紙が置いてあった。

「父上へ 魔王軍を率いて、ナイアルラトホテプ以下クトゥルフ殲滅のため、本拠地に行ってきます。後の事はよろしくお願いします」

 そんだけ。

 事前に連絡してくれないかなあ。

 多分、あの勇者たちは、この手紙を見て、今回の罠を思いついたんだな。


 娘は、ちと冷たいね。

 幼い頃は、「パパ! パパ!」といつも私につきまとっていたものだがなあ。

 いつの間にか、全く会話が無くなっていた。

 まあ、そんなもんですかね。


 魔王城には誰も居ない。

 全員が娘について行ったようだ。

 まあ、現魔王だからな。


 ん、床に干物が置いてある。

 おっと、さっきやっつけた勇者たちか。

 窓から、放り出す。

 ヒラヒラと落ちて行った。

 何となく一反木綿っていうモンスターを思わせる。

 儚いものだな。


 私は一人寂しく、がらんとした魔王の間の椅子に座っている。

 体力は回復したが、孤独だ。

 しかし、魔王というものは元来孤独なものかもしれないな。


 娘はいつ帰って来るのだろう。

 はっきり言って、寂しいぞ。

 退屈だ。

 つまらん。


 そういや、サキュバスたち随分気持ち良さそうにしてたな。

 私もサキュバスに変身してみようかな。

 けど、男を相手にしなきゃいけないのか。

 それは気持ち悪いな。


 おっと、差別はよくないけどね。


(終)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  娘は乱心しているがなんとなくこんな父なら大丈夫そうだ。 [気になる点]  娘さんに暗殺されるとしたら一瞬ですな……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ