元魔王、勇者に襲われる
私は元魔王だ。
この世界を支配していない。
体調不良で、魔王の地位は娘に譲った。
今は引退して、各地の温泉巡りを楽しんでいる。
すっかり調子が良くなった。
もう、勇者たちとの対決とかはどうでもいいや。
ある夜、農家の離れを借りて寝袋で寝ていると、人の気配がする。
何奴!
まさか、勇者たちか。
けど、私はもう魔王じゃないんだけどなあ。
面倒くさいなあ。
まあ、仕方が無い。
相手をしてやろう。
体調も回復したところだし。
勇者たちよ!
元魔王の恐ろしさを見せてやろう!
さあ、かかってきたまえ!
ハッハッハ!
けど、よく見ると女一人だけだね。
凄い美人だ。
色っぽいドレスを着ている。
どなたですかと聞く。
「サキュバスです」
なんだ、淫魔さんね。
何のご用ですか。
「現魔王様から、ご連絡です」
現魔王とは私の娘のことだが、何があったんだろう。
「魔王様はナイアルラトホテプ以下クトゥルフを殲滅するために、魔王軍全軍を率いて、クトゥルフ本拠地に攻め込むとのことです」
何じゃ、クトゥルフって。
あと、ナイアルラトホテプってよく覚えられるね。
舌噛みそうだよ。
魔王軍全軍って、随分御大層な事するね。
娘は真面目だからなあ。
魔王なんて、適当に仕事してればいいのに。
誰も気にしないって。
まあ、まかせるわ。
サキュバスさん、連絡、ご苦労さん。
じゃあ、私は寝るんで。
すると、サキュバスは少しモジモジしながら言った。
「実は魔王様から、お父上の体の調子を確かめるため、同衾するようにとのご命令でございます」
ふーん、あの潔癖症の娘にしては珍しいな。
しかし、フフフフ。
私はすっかり調子が良くなった。
久しぶりに楽しむとするか。
「そういうことか、苦しゅうない、ちこう寄れ、ハッハッハ」と招き寄せる。
サキュバスがドレスを脱いで、寝袋に滑り込んできた。
ちょっと狭苦しいが、まあ、いいか。
久々に張り切る。
………………。
…………。
……。
ふう疲れた。
さすがに十回もすると、もう限界だな。
サキュバスよ、ご苦労であった。
もう帰っていいよ。
すると、突然、サキュバスが私の首をナイフで掻っ切ろうとする。
危うくよける。
「お前は、サキュバスではないな!」
「オホホホ! サキュバスですわ、元魔王。但し、異世界からサキュバスに転生したのよ。今は勇者様の仲間。さあ、元魔王よ、観念なさい」
くそ、謀られたか。
勇者め! 下半身で引っかけるとは卑怯なり!
って、引っかかる私もだらしないけどね。
しかし、腐っても私は元魔王だ。
侮るなよ!
しかし、サキュバス転生者を瞬殺しようとして、
「うっ!」と私はうめいた。
ほとんど力が出ない。
「オホホホ! 先程でお前の精力はすっかりいただいたわ」
しまった、久々とはいえ十回はやり過ぎだ。
仕方が無い。
とにかく逃げる。
残った魔力で瞬間移動!
私は、魔王城の魔王の間に移動した。
へとへとだ。
しかし、助かった。
と思いきや、勇者たちが待ち構えていた。
しまった、これは罠か!
「クククク、引っかかったな魔王。お前がここに戻ってくることは予想していたんだよ」
勇者たちが笑う。
「私はもう魔王じゃないぞ」
「どうでもいいんだよ、そんなこと。さあ、お前の首をいただくことにするか」
おのれ、勇者め。
それにしても、私はもう引退したのに。
しつこいぞ、勇者!
悔しがる私を見て、さらに嘲る勇者。
「お前のところに行った、あの転生者のサキュバスは、元は男だぞ」
なんだと! 気持ち悪い。
男と十回もやってしまったのか。
ショックだ。
いや、差別は良くないけどね。
「魔王! 覚悟しやがれ!」
勇者たち四人が襲いかかって来る。
わが生涯もこれで終わりか。
そこに、突然十人のサキュバスがやって来た。
このサキュバスたちは本物だ。
「元魔王様、助太刀いたします」
サキュバスたちは、あっという間に勇者たちの精気を吸い取る。
勇者たちは、平状の干物のようになって、床に倒れて死んだ。
「助けてくれてすまない、サキュバスたちよ」
「いいえ、元魔王様。これぐらい大したことありませんわ。ところで出来ればまたお相手をしていただければ」とサキュバスが少し顔を赤くして言った。
うーん、もうさすがに疲れてるんだけど。
仕方が無い。
残った魔力全部使って、魔法を使う。
「必殺、性感魔法! バイアグラレビトラシアリス!」
サキュバスたちは大嬌声を上げて、失神。
そんなに気持ちいいんかね。
この魔法、私自身はちっとも気持ち良くもないし、楽しくもないんだよな。
しばらくすると、サキュバスたちは失神から目覚めて起き上がる。
「さすが、元魔王様、素晴らしいですわ。後、あのサキュバス転生者は私たちが退治いたしますので、ご心配なく」と言って、城から離れていった。
私は、すっかり魔法を使い切ってしまった。
回復するまでは、ただの爺さんだな。
魔王の間の机の上に、娘からの手紙が置いてあった。
「父上へ 魔王軍を率いて、ナイアルラトホテプ以下クトゥルフ殲滅のため、本拠地に行ってきます。後の事はよろしくお願いします」
そんだけ。
事前に連絡してくれないかなあ。
多分、あの勇者たちは、この手紙を見て、今回の罠を思いついたんだな。
娘は、ちと冷たいね。
幼い頃は、「パパ! パパ!」といつも私につきまとっていたものだがなあ。
いつの間にか、全く会話が無くなっていた。
まあ、そんなもんですかね。
魔王城には誰も居ない。
全員が娘について行ったようだ。
まあ、現魔王だからな。
ん、床に干物が置いてある。
おっと、さっきやっつけた勇者たちか。
窓から、放り出す。
ヒラヒラと落ちて行った。
何となく一反木綿っていうモンスターを思わせる。
儚いものだな。
私は一人寂しく、がらんとした魔王の間の椅子に座っている。
体力は回復したが、孤独だ。
しかし、魔王というものは元来孤独なものかもしれないな。
娘はいつ帰って来るのだろう。
はっきり言って、寂しいぞ。
退屈だ。
つまらん。
そういや、サキュバスたち随分気持ち良さそうにしてたな。
私もサキュバスに変身してみようかな。
けど、男を相手にしなきゃいけないのか。
それは気持ち悪いな。
おっと、差別はよくないけどね。
(終)