第5話 最強ゴーレム軍を生み出そう
隠しスキルの内容は単純だ。
この先50年かけて、帝国が人類の半数以上を虐殺する。
これを阻止して、50年後の人口を今より多くできれば、この世界と地球を自由に行き来できる隠しスキルが手に入る。
以上だ。
悪い話ではない。
地球と自由に行き来できるスキル。
持っていて損はない。
それに僕は帝国が嫌いだ。
あいつらは僕を嘲笑して、生ゴミを投げつけて、牢屋に閉じ込めて、殺そうとした。
好きになる要素はゼロだ。
そんな帝国のやろうとしている虐殺を阻止するのは、悪い気分ではない。
でもなあ……。
この隠しスキル、取得するには『人類の星の人口が、50年後に今よりも多くなるようにする』必要があるのだ。
つまり、取得に50年かかる!
やってられない。
それに帝国が虐殺をすると言っても、僕はこの世界の人間のことなんて何も知らない。
知りもしない人達のために50年もがんばれるほど、僕は変わり者ではない。
なら、放置する?
人類なんて放置して月に引きこもってニート生活を満喫する?
僕は思案した。
考える時の癖でアゴに手をやり、草原をぐるぐると回る。
何かの遊びだと思ったのか、ゴーレムの女の子も同じポーズでぐるぐると回っている。ピコピコピッコンとリズムに乗った音を立てて、無表情のくせにちょっと楽しそうだ。うん、まあいいや。
考えた末の結論はこうだ。
僕は人類を救う。救って隠しスキルを手に入れる。
理由は簡単だ。
帝国には、きっちりやり返したい。ついでに隠しスキルも欲しい。
それだけだ。
50年かかるという問題もあるが、これも1ヶ月くらいに短縮できる裏技がありそうな気がする。
まずはやってみよう。
◇
「他民族を虐殺する悪の帝国から人類を守る方法を教えてください」
僕が今、地球のインターネットが使えたら、こんな質問をどこかのサイトでしていたかもしれない。
「状況次第なので答えようがありません」って回答されそうだけれど。
何が言いたいかというと、僕は今、人類を守る方法をあれこれ考えているのだ。
「ううん……」
またアゴに手をやり、草原をぐるぐると回る。
ゴーレムの女の子も、ピコピコとリズミカルな音を立てて、一緒に回る。
試しにスキップしてみると、女の子もスキップする。ピッコンピッコンと音のリズムも変わる。無表情のくせに、やっぱり楽しそうだ。うん、まあいいや。
さて、人類を守るには帝国を倒さないといけない。
帝国を滅ぼして、それで『めでたしめでたし』となるほど話が単純かはわからないが、いずれにせよ、あいつらは倒さないといけない。
帝国を倒すには何が必要でしょうか?
ネットでこんな質問をしたら、また「状況次第です」って回答されそうだけど、今の僕の状況で言うなら、必要なのは武力だ。
力づくで帝国を叩きのめそうとしているのに、力が無かったら話にならない。
問題は帝国の強さだ。
周辺国と戦争ばかりしているらしいから、それなりに強いはずだ。
特に気になるのが、ゴーレムの女の子が空からやってきた時、帝国の兵士が手のひらから炎を放ったことだ。
あれは、魔法というやつではないだろうか。
だとしたら、普通の兵士でも、少なくともあれくらいの攻撃魔法が使えるということだ。
しかも、ここは異世界だ。より破壊力のある魔法だってあるかもしれないし、ドラゴンのような強力な生物だっているかもしれない。
それなりに強力な武力が必要だ。
さて、問題です。
武力はどうやれば手に入るでしょうか?
『スキルの力で兵器を手に入れる』
これが僕の答えだ。
僕のスキルは、庭作りに必要なものを生み出す力がある。
ゴーレムの女の子も、魔法船も、そうやって生み出された。
でも、最初に用意されたものだけで庭作りができるとは限らない。
実際に庭作りを始めてみたら、「あれも必要だ」「これも欲しい」と追加で欲しいものが必ず出てくる。
僕が期待しているのは、庭作りスキルがそこらへんをサポートしていることだ。
つまり、(庭作りにロケットランチャーが必要になったからください!)と念じれば、追加の庭作りサポート用品としてロケットランチャーが出てくるかもしれないのだ。
僕は念じた。
(庭作りにロケットランチャーが必要になったからください!)
……何も出て来なかった。
(マシンガンがないと庭作りができません。出て来てください!)
(戦車100台を使って庭作りがしたいなあ)
(魔法船があと1000隻はないと庭作りができないんだ! くれ!)
あれこれ念じてみるものの、反応はない。
ダメかあ……。
ゴーレムの女の子が、うんうん唸って念じる僕を不思議そうな目で見ているけど、もう慣れた。気にしないぞ!
さあ、ダメだった理由を考えよう。
可能性は2つある。
1.追加のサポート用品が出てくるなんて僕の思い込みで、庭作りスキルにそんな機能はない
2.本当に庭作りに必要なものじゃないと出て来ない
1は今考えることじゃない。
問題は2だ。
必要なものじゃないと出て来ない。
つまり、庭作りにロケットランチャーが必要だといくら念じたところで、嘘なんだから、スキルが反応しなかったのではないか。
だとすると、庭作りに必要なもので、かつ戦争にも使えるものじゃないとダメということか。
なんだろう……?
僕は考え込む。
スコップ? 草刈り鎌? そんなんじゃダメだ。もっと強力な何かが欲しい。何かないか? 何か……。
考えながら、ぐるぐる回る。
そのうち回るのにも飽きて、しゃがみ込み、足下の草をブチブチむしり出す。
特に意味のない何となくの手遊び。
ふと気がつくと、隣でゴーレムの女の子がピコピコと音を立てながら草をむしっていた。
また僕の真似をして遊んでいるのだろう。
……ん?
僕の体がゾクリと震える。
何かがひらめきかかった。
なんだ?
そうだ、目の前の光景だ!
ゴーレムの女の子が草むしりをしている。
つまり、ゴーレムが『庭作りの手伝い』をしている!
「これだ!」
僕は思わず叫んだ。
月は広い。1人で庭作りをするのは大変だ。庭作りを手伝ってくれるゴーレムがたくさん必要だ。
そういう名目でゴーレムの女の子をたくさん生み出せばいいんだ!
それに、このゴーレムは強い。
帝国兵達を一瞬で倒したほどだ。
そんなのがたくさん手に入れば、すさまじい武力になるじゃないか。
よし、行けるぞ!
僕は興奮しながら念じた。
(ゴーレムがもっとたくさんほしい! 庭作りに必要だ! くれ!)
ドキドキしてきた。
女の子がどうかは知らないが、男の子にとって最強ゴーレム軍というのはロマンだ。
それがもうすぐ手に入るかもしれないのだ。
わくわくする。
が、反応がない。
何も起きない。
あれ?
……うん、わかった。
単に「欲しいからくれ」と念じるだけでは、今までと同じだ。
たぶん、具体的にどう庭作りに必要かを説明しないとダメなんだ。
僕はもう一度念じた。
(庭作りを手伝ってくれるゴーレムがほしい! 広い月を1人で管理するのは不可能だ。だから、どんな作業でもできるように人型で、あちこち移動できるよう空も飛べて、力仕事もできるくらい頑丈で、そんなゴーレム軍団を、広大な月全土をカバーできるくらい大量にほしい!)
……これでも反応はない。
くそ、まだダメか。
いや、まだだ。これならどうだ。
僕はさらに念じる。
(ここは月だ。手伝ってくれる人はいない。ゴーレム達がいないと庭作りはできない。だからほしい!)
その瞬間、あたりが光った。
無数のまばゆい光であたりが覆われる。
その光の中から何かが出てくる。
「すげえ!」
僕は興奮の言葉を口にしていた。
ゴーレムだ。
庭師の格好をしたゴーレムの女の子が、周囲を覆い尽くすほど大量に出現していたのだ。
僕の最強ゴーレム軍団の誕生である。