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第4話 隠し情報をゲットしよう

 月に着いた。


 当たり前だけど、僕は月に来るなんて初めてだ。

 だから、魔法船から出る時はワクワクドキドキしたけれど、実際に外に出てみたら地球と変わらなかった。


 そこは広々とした草原だった。

 空が青い。風が吹いている。遠くには木々が生えている。

 普通に呼吸もできるし、どういう仕組みなのか重力すら地球と変わらない。

 ここは地球の自然公園です、と言われても信じてしまいそうだ。


 もっとも、そういう環境にしたのは僕自身なのだから文句は言えない。


 あたりは静かだった。

 人間は僕しかいないし、動物も鳥も見えない。虫はいるかもしれないけれど、今は見当たらない。

 本当に誰もいないのだ。


「もう一度聞くけど、ゴーレムは君1人だけなんだよね?」


 ゴーレムの女の子にたずねると、彼女はピッコンとうなずいた。


 ここに来るまでに、彼女にはいろいろ聞いた。

 わかったことは、彼女がゴーレムだということ。生まれたばかりで、僕がご主人様だと思っていること。月に向かっていること。その月は人が住めるようになっているけど、誰もいないこと。

 それくらいだ。

 彼女の知識は僕と大差がなかったが、それでも月が寂しい場所ということはわかった。


 のちに僕は最強ゴーレム軍団を率いる身分となるのだが、この時点ではまだ2人きりだったのだ。


 さて、現状を嘆いても仕方がない。

 今できることをやろう。


 この星に人はいないが、着陸地点のすぐそばに2つの建物があった。

 調べてみると、家と倉庫だった。


 家はヨーロッパの古風な町にありそうなものだった。

 エアコンや洗濯機まである。表面に魔法陣らしき模様がある。魔法で動いているのだろうか。


 倉庫は石造りの大きなものだった。

 中にはパンやハムや野菜、衣類、生活用品などが、僕が一生かかっても消費しきれないくらい箱入りで積まれている。

 腐らないかと心配だったが、箱に1つ1つ魔法陣が刻まれているので、もしかしたら保存の魔法がかかっているのかもしれない。


 なるほど……。


 僕は理解した。


 僕の庭作りスキルは『小麦や綿花や魔法草(まほうそう)のように、衣食住に役立つ植物は育てられない』という制限がある。

 スキルを使って「小麦よ、生えてこい!」とやったところで、何も生えてこないのだ。


 ここがもし地球だったら、それでも餓死することはない。

 町や村に行って、食べ物を調達してくればいい。


 でも、ここは月だ。

 町も村もない。食べ物もない。

 このままでは僕は餓死してしまい、庭作りができなくなってしまう。


 そこでスキルは、僕が最低限暮らしていけるよう、家と倉庫を建てておいてくれたのだ。

 ありがたい。


「まあ、いいや。何はともあれ、まずは……寝ます……おやすみ……」


 正直、ここに来るまでに色々あって、くたくただった。

 一息ついて安心したせいか、今まで神経が高ぶって感じなかった眠気がどっと押し寄せてきたのだ。

 僕は女の子にここまでの案内の礼を言い、彼女にも休むように言うと、そのまま家の中のベッドにダイブした。

 おやすみ。


 ◇


 ぐっすり寝て起きると、頭がすっきりした。


「おはよう」


 女の子に挨拶をし、草原に出て2人で朝の体操を済ませると、僕はこれからのことを考えることにした。


 選択肢は色々ある。

 たとえば、このまま月でニート生活を決め込むという選択がある。

 あるいは、魔法船に乗って人類の星に戻り、ゴーレムの女の子と2人で冒険をするという道もある。ちなみに『人類の星』というのは、僕が昨日までいたあの星のことで、この世界の人類が住んでいる星だから、そう呼んでいる。地球と呼ぶと、僕の故郷と紛らわしいからね。

 その人類の星で、帝国を倒すための活動に身を投じるというのも将来の選択肢としては有りだろう。


 どうするかは、まだ決めていない。

 決めようにも、まだまだ知らないことが多すぎるからだ。

 いろいろ調べなきゃ。


「で、何から調べればいいと思う?」


 僕はゴーレムの女の子に聞いてみた。

 女の子は僕を見て、申し訳なさそうに首をすくめて、ピコォ……と音を立てた。


 うん、そうだよね。

 これは僕の問題だ。自分で考えるべきだ。


 調べることはたくさんある。

 スキルの活用方法。

 月に何があるか。

 ゴーレムの女の子に何ができるか。

 どれも大事だ。


 でも、僕が真っ先に考えたのは、このどれでもない。

 一番最初に調べるべきこと。それは『視界に映る情報』についてだ。


 この世界に来た時、僕の視界にこんな情報が映っていたのを覚えているだろうか。


-----


 [スキル名]

  庭作り


 [効果]

  緑豊かな庭を作ることができる。


 [制限]

  他人の土地では使えない。

  小麦や綿花や魔法草(まほうそう)のように、衣食住に役立つ植物は育てられない。


-----


 とても重要な情報だった。

 これを知らなかったら、僕は月にスキルを使おうとも思わず、とっくに処刑されていたに違いない。


 さて、ここで疑問が生じる。


 見れるのは、スキルの情報だけだろうか?

 他にも何か重要な情報を見ることができてもおかしくないのでは?

 それこそ『この世界の危険情報』みたいな、見逃したら命を落とすくらい大事な情報が、隠されているかもしれないではないか。


 そんな隠し情報を真っ先にゲットすることで、僕はこの先の展開を有利に進めたいのだ。


 まずはスキル情報を自力で見れるかの確認だ。


「スキル!」


 僕は力を込めて言う。

 ……視界には何も出て来ない。

 ちょっと恥ずかしい。

 ゴーレムの女の子が不思議そうな目で見てくるが、僕はくじけない。


(スキル!)


 今度は強く念じてみた。

 すると、どうだろう。

 庭作りスキルの情報が視界に映ったのだ。


 オーケー、当たりだ!


 幸先(さいさき)がいいことに僕は喜んだ。

 どうやら念じると出てくるらしい。


 ということは、例えば(世界!)と念じたら、この世界の情報が視界に映るかもしれないわけだ。

 わくわくしてきた。

 やってみよう!


(世界!)


 ……うん、ダメか。

 何も情報は出て来ない。


 ゴーレムの女の子がまた不思議そうな目で見てくるが、僕はくじけない。

 世界がダメなら、他の単語はどうか?


(危険情報!)

(帰り方!)

(ステータス!)


 僕は思いつくがままに念じた。


(勇者!)

(魔法!)

(帝国の滅ぼし方!)


 念じて、念じて、念じ続ける。


 2時間が過ぎた。

 ざっと1000回は念じただろうか。

 反応したのは1つもない。

 さすがにもうネタ切れである。


 ううむ……。


 疲れた僕は、地面に座り込む。

 ゴーレムの女の子が、僕の隣にちょこんと座り、「どうぞ」とでも言いたげな仕草でココアを差し出す。


「ありがとう」


 糖分を補給した頭で僕は考える。


 結局見ることができる情報はスキルだけということだろうか?

 本当に?

 何か見落としている気がする。でも何を? もう思いつく限りのキーワードは念じたのに……。


 ……あっ!

 1つだけ念じていないキーワードがあった!


『スキル』だ。


 スキルなら最初に念じただろ、と思うかもしれない。

 確かにその通り。

 でも(スキル!)と念じて出て来たのは、あくまで『僕が今持っているスキル』の情報だ。


 もしかしたら『新しく取得できるスキル』なんてものがあって、『スキル』とは別のキーワードを念じることで、情報を見れるかもしれない。


 やってみよう。


(新しく取得できるスキル!)


 ……反応はない。

 でも、まだだ。

 キーワードを色々と変えてみる。


 そして……。


(隠しスキル!)


 僕がそう念じた時である。

 視界に、こんな情報が映った。


-----


 [隠しスキル]

  異世界転移


 [効果]

  この世界と地球とを自由に行き来できる。


 [取得方法]

  今後50年かけて、帝国によって人類の半数が虐殺される。

  この未来を阻止できれば取得できる。

  具体的には、今の人類の住む星の人口が、50年後に今よりも多くなるようにする。


-----


 ビンゴ!

 大当たりである。

 大当たりなんだけれども……。


 なんだこれ?


 僕は『隠しスキル』の内容に目をパチクリさせるのだった。

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