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第34話 帝国はおしおきされました (7)

 三人称視点です。

 帝国の首都帝都。


 その住民達はすっかり安心しきっていた。

 何しろ火消坂が去ったのだ。

 ゴーレム少女達ももういない。

 土地も皇帝陛下に返却された。

 火消坂も、もうこれ以上の要求はないと言っている。

 脅威は去った。

 元通りに戻ったのである。


 もっとも、何もかも元通りというわけではない。

 岩でつぶされた家々はもう元には戻らない。

 広場に刺さった巨大な岩を取り除き、広場が在りし日の姿を取り戻すのも困難であろう。


 何より元に戻らないのはメンツである。

 民衆に引きずり出され、土下座させられた皇帝陛下は、メンツも面目も完全に失ってしまっている。


 皇帝だけではない。皇太子をはじめとした皇族達も、貴族達も、政府高官達も、軍のお偉いさん達も、そろいもそろって屈辱的なフリフリのミニスカート姿にされ、広場の岩の目立つところに張り付けられたのである。

 彼らは、みっともなく泣きわめいているところを、大衆にバッチリと目撃されている。

 威厳も何もあったものではない。


 とはいえ、帝都の人々は変化を望んでいなかった。

 今まで通りでいいのだ。


 今まで通り、威張る。

 今まで通り、命乞いをする他民族をゲラゲラ笑って虐殺する。

 今まで通り、他民族からの略奪で、豊かに暮らす。

 帝都の人々が望んでいるのは、それだった。


 人々は、これからのことを(うわさ)する。


「火消坂様も去ったし、これでどうにか今まで通りやっていけそうだな」

「だな。あの人がいなくなれば、我々にはもう怖いもなんてないもんな」

「ただまあ、皇帝陛下にはご退位頂くことになるんじゃないかな。さすがにあまりにも醜態をさらしすぎたから……」

「だろうな。そうなると、次期皇帝は、皇太子殿下かな?」

「いやあ、醜態という意味では、皇太子殿下も随分と泣きわめいていらっしゃったからな。次男の第2皇子殿下であれば、さほど醜態も目立ってなかったし、あのお方が即位なされるんじゃないかな?」


 それから、他国の噂をする。


「他国への侵略は少しのあいだ控えた方がいいだろうな」

「ほとぼりが冷めたらまた再開すればいいさ。蛮族どもをぶっ殺すのは、神聖なる我ら帝国人の崇高なる使命なんだからさ」

「そりゃもちろん。世界を綺麗にしなきゃいけないしな。汚らしい蛮族がこの世界に存在しているというだけで虫酸が入る。ただ、少しの間は控えた方がいいだろう」

「ああ、早くまたぶっ殺したいなあ」


 帝都の民達は、火消坂にこっぴどくやられた。

 心を折られ、土下座した。

 それは確かだ。


 けれども、それは例えるなら、学校にいるいじめっ子達のところに転校生がやって来て、そのいじめっ子達をボコボコにして土下座させたようなものである。

 いじめっ子達は、確かに転校生に対しては負けを認め、土下座した。

 が、だからといって、いじめられっ子達に対する見方が変わったわけではない。相変わらずバカにしている。見下している。自分達の方が上だと思っている。

 しかも、肝心の転校生は、また転校してどこかに行ってしまったのだ。

 となれば、いじめっ子達が、またいじめられっ子達に手を出すのは時間の問題である。


 帝都民達の心境は、まさにこういったものであった。


 ところが、そんな彼らの楽観をぶちこわす出来事が起きた。

 火消坂が去ってから2日後、帝都の上空にその火消坂の映像が出現したのだ。


「やあ、帝都の諸君、2日ぶりだね」


 帝都民達は目をパチクリさせた。

 ごしごしと目をこすり、頬をつねり、それからあらためて上空を見上げた。

 火消坂の笑顔が映っていた。


「は……?」

「ほへええええ?」

「はひゃ? はひゃああああああ!?」


 帝都民達は驚きの絶叫を上げた。

 彼らにとっての恐怖の象徴である火消坂真が、姿を見せたのである。


「ひひひひひ、火消坂様あああああ!?」

「な、なななな、なぜここにいいいいい!?」

「ひ、ひいいい!? い、いったいどうして? どうしてえええ!?」


 慌てふためく民衆達に、火消坂はにっこり笑って、こう言った。


「今日は君達にプレゼントがあって来たんだ」


 帝都民達は意味がわからない。

 プレゼント……?

 いったい何を……?


「僕からのプレゼント。それは一言でいうなら、『みんなの気持ち』だ。

 君達帝国人は、国をたくさん滅ぼした。31の国を滅ぼし、そこに住む民達を虐殺した。

 その31の国の生き残りの人達と、このたび連絡が取れてね。

 この生き残りの人達の気持ちを、君達帝国人に届けたいんだ」


 帝都民達はやっぱり意味がわからない。

 届けたい気持ち?

 いったい何を言っているのだ?


 そんな時、帝都民の1人が叫んだ。


「あ! あれ!」


 指がさすほうを見ると、巨大が鏡が空に浮いていた。

 見ていると鏡は淡く光り始める。

 光がおさまると、そこには『蛮族達』が映っていた。

『蛮族達』の真ん中に立つ代表らしき人物は、帝都中に響く大きな声でこう言った。


「皇帝、および帝都の者どもよ。我々は南方沿岸都市同盟の者達だ。

 正確には我が国は君達帝国に滅ぼされているから、その生き残りの一派といったほうがいいだろう。

 我々は君達に、国を焼かれ、家族を焼かれた。

 私は今でも覚えているよ。君達が私の母の身体を少しずつ面白半分に焼いていたのを。子供だった私はそれを泣きながら見ていることしかできなかったことを。

 私だけではない。ここにいる者はみんな、そんな怒りと恨みに満ちた過去を持っている。

 どうにか逃げ延びて、新天地で苦労の果てに生活の基盤を築き上げた今でも、まだその恨みは忘れない。

 今回、火消坂様から、復讐のチャンスをもらった。

 このチャンスを生かし、これから、君達には地獄のようなおしおきをたっぷり味わわせてあげようと思う。楽しみにしていて欲しい」


 帝都民達は、やっぱりよくわからない。


「……南方沿岸都市同盟?」

「え、なにその長ったらしい国名?」

「わたしたちが滅ぼした? そんな国、滅ぼしたっけ?」

「どうかしら。いっぱい滅ぼしたから、いちいち覚えてないわ」

「っていうか、え? おしおき? え、なに、おしおきって。え?」


 困惑する民衆達。

 そこにまた新たなる巨大な鏡が空に浮かぶ。

 鏡はやはり淡く光り、光がおさまるとそこにはやはり『蛮族達』が映し出されていた。

 しかも、さきほどとは違う『蛮族達』である。

 彼らの代表はこう言った。


「俺達は山岳王国の生き残りの一派だ。

 おまえら帝国に滅ぼされ、世界中に散り散りになった生き残りのグループの1つさ。

 おまえら覚えているか? 俺達を焼いた時のことを。

 俺には5人の子供がいた。みんな素直で、かわいくて、いい子達だった。

 だが……だが、お前ら帝国人は、あの子達をみんな焼いた!

『誰が一番こんがり焼き上げられるか、勝負しようぜ!』と言って、『やめろ! やめろおおおお!』と叫ぶ俺の前で、焼いたんだ!

『お父さん、助けてぇ!』『熱いよ、熱いよ!』というあの子達を、ゲラゲラ笑いながら焼いたんだ!

 この恨みは絶対に忘れない!

 火消坂様が、この恨みを存分に晴らす機会をくれたんだ。たっぷりおしおきしてやるからな! 覚悟しておけよ!」


 帝都民達は、やはり頭にクエッションマークを浮かべるだけである。


「はあ……」

「山岳王国? そんなのあったっけ?」

「あったような、なかったような……」

「つーか、またおしおきって言ったぞ! なんだよ、おしおきって!?」


 彼らが首をひねる間にも、鏡は次々と上空に現れる。

 そのたびに、帝国に滅ぼされた国の生き残りの人々が姿を現し、恨みとおしおきを宣言していく。


 その数、合計31。

 帝国に滅ぼされた31の国々が、恨みとおしおきを宣言したことになる。


 困惑する帝都民達の前で、上空の火消坂はにっこり笑ってこう言った。


「さて、そういったわけで、君達帝都の民には、これから31カ国の皆さんからのリクエストで素敵で楽しいおしおきを受けてもらおうと思う。おしおきはみんなが納得するまで何年でも何十年でも続くから、楽しみにしててくれ」


 その瞬間、今までどこか他人事だった帝都民達は、ぞくりとした。

 言っている意味は相変わらずよくわからない。

 だが、火消坂が笑顔を見せる時は、だいたい自分達にろくでもないことが起きる時なのだ。

 彼らはそのことを思い知らされていた。

 強烈に嫌な予感がする。

 その嫌な予感に押され、民衆の中から声が上がった。


「ま、待ってください!」

「ん? 何かな?」


 火消坂が笑って答える。


「は、話が違います! 火消坂様は我々にはもう何も要求しないとおっしゃいました! 土下座して土地を渡せばそれ以上の要求はないと! わ、我々は無罪放免されたはずです!」


 その言葉に、他の民達も勢いづく。


「そ、そうですわ! 話が違いますわ!」

「一度言ったことは守ってください!」

「そ、そうです! 土下座の件も土地の件も、言う通りにしたではないですか! 火消坂様ともあろうお方が、約束を破るのですか!」


 帝都民達から次々と声が上がる。

 火消坂は、そんな帝都民達の声に対し、笑顔でこう答えた。


「僕はあくまでこう言ったんだ。『僕個人の要求』は、土下座と土地の譲渡だけだとね。

 これから行うおしおきは、僕個人の要求ではない。お前達帝国に滅ぼされた31の国々の民の要求だ。

 だいたいだね。さんざん他国の民を殺しておいて、土下座と土地の譲渡だけで許されると思っているのかい? 頭沸いているの?

 ま、そういったわけだ。これからお前達には楽しいおしおきライフが待っている。

 それとも、どうだろう、31カ国のみんな。

 帝国は無罪にすべきだろうか? それとも有罪にすべきだろうか? どちらにすべきだろうか?」


 31ヵ国の面々は一斉に答えた。


「有罪!」

「有罪ですわ!」

「有罪にしてください!」

「有罪以外あり得ません!」

「有罪です! 有罪です!」

「絶対に有罪です!」

「有罪! 有罪!」

「無罪? ありえません! 有罪です!」

「死んでも有罪です!」

「火消坂様! お願いします! 有罪にしてください!」


 31の鏡から次々と聞こえる有罪の声。


 有罪! 有罪! 有罪! 有罪!


「ちょっ!」

「ま、待ってくれ!」


 帝国人達は慌てる。

 しかし、声は鳴りやまない。


 有罪! 有罪! 有罪! 有罪!


 帝国人達に判決を告げる声が帝都中にこだまする。

 帝国の過去20年間の虐殺の清算を求める声が、帝都中に響き渡る。


 火消坂はにっこり笑ってこう言った。


「そういうわけだ、帝国人諸君。楽しいおしおきライフの開幕だよ。楽しみにしていてくれ」

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