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第21話 帝国の皇帝が土下座する話 (6)

 三人称視点です。

 その日、帝都の民たちは、いつも通りの日々を過ごしていた。


 大広場では、異世界人を呼び出すための召喚石が鎮座しており、周囲を帝都民たちが行き交い、楽しげに会話をしている。


「今度の皇太子殿下の王国への遠征は、炎軍も同行しているらしいぞ」

「ぎゃはは、そりゃ王国の連中も皆殺し間違いなしだな」

「実はうちの息子も遠征に行っていてねえ。略奪品をたっぷり持ち帰ってきてやるから、それで家を建てようって言ってくれているのよ」

「へえ、そりゃあ孝行息子さんだねえ」


 そんな会話がゆきかう大広場に異変が起きたのは、ちょうど昼頃のことである。

 突如として謎の少女達数百人が舞い降りたのである。

 茶色いショートヘアに、庭師のような動きやすい服装をした可愛らしい少女達である。


「はっ?」

「へ?」

「……え?」


 いきなり『蛮族の女ども』が空から飛んできたのを目の当たりにした帝都民たちは目を丸くする。

 意味がわからない。

 え、何、こいつら? というか飛んできた? うそ?


 そうして固まっている間に、彼女達は行動をはじめた。

 ある少女達は、巨大な召喚石を持ち上げると、いずこかに飛び去った。

 別の少女達は、初帝の像を粉砕した。

 さらに別の少女達は、広場に穴を掘り始めた。


 帝都民達はびっくりぎょうてんした。


「あ、ああ! 召喚石が! 初帝様の像が! な、何をやっているのよ、あんたたち!」

「そ、そうだ! この蛮族の女どもめ!」

「ここは、高貴なる帝都なのだぞ! 薄汚い野蛮人ごときが足を踏み入れていい場所じゃない。ええい、やめろ!」


 そう言って何十人もの帝都民達が少女達を止めようとする。

 が、彼らは少女達に指先でトンと軽く叩かれただけで「ぐあっ!」だの「あぐっ!」だのと(うめ)き声を上げ、その場に崩れ去って意識を失ってしまう。


「帝都を騒がす不逞の輩はどこだ!」という声を共に衛兵達も駆けつけてきたが、結果は同じである。


「不逞な輩は貴様らか! ええい、おとなしくお縄にほごはぎゃあ!」

「くそ、おのれ! 魔炎でもくらはぎょぎひゃあ!」

「このクソ蛮族がぐひぎゃあ!」


 そろいもそろって、少女達に軽く叩かれただけで、のびてしまう。

 残された帝都民達は、遠巻きに呆然とみていることしか出来ない。


 邪魔をする連中がいなくなると、少女達は作業を再開した。

 あっという間に地中深くまで穴を掘ると、上空に何やら合図を送る。


 なんだと思って上空を見上げた帝都民達は、そこで信じられない光景を目にする。

 岩である。

 巨大な細長い岩が、ゆっくりと垂直に降りてきたのである。


 ズゥゥゥゥン!


 地鳴りと共に、大岩が穴に綺麗に刺し込まれた。

 大広場に巨大な岩が垂直に刺さったその有様は、あたかも30階建てのビルが建っているかのごとき光景である。


 信じられないことは、まだ続く。

 呆然とする群衆の耳に、悲鳴が届いたのである。


「な、なんだ?」

「誰の悲鳴だ?」

「どこから聞こえてきているんだ?」

「高いところから聞こえるぞ。ちょうどあの大岩の上の方から……」


 帝都民達は頭上を見上げた。


 人が張り付けにされていた。

 1人ではない。おおよそ30人はいるだろうか。

 全員両手と両足を広げた大の字の格好で、地上から20メートルほどの高さに金属のようなもので固定されていた。

 みな、男である。

 服装は異様である。少女のアイドルが着るようなひらひらのフリルのついたミニスカートの衣装を身にまとっていたのである。


 帝国では、老若男女問わず、ミニスカート姿などありえない。

 若い女性ですらありえない。

 そのような格好は破廉恥であり、屈辱であり、人間ではなくケダモノがする格好と考えられている。


 その屈辱的な格好で、張り付けにされた男たちは悲鳴……というより絶叫を上げていた。


「うわああああ! み、見るなあ! 私を見るなあああ!」

「た、頼む! 俺を降ろしてくれ! ここから降ろしてくれえええ!」

「ひ、ひいい! た、助けてよぉ!」


 異様な光景に群衆は口をあんぐりと開けることしかできない。

 なんだあれは……。

 いったいなんなんだ……。


 人々が呆然とする中、少女達が宙に浮かび、岩の上部に文字を刻みつけた。

 そこにはこう書いてあった。


『バカ皇太子とバカ炎軍』


「え?」

「はっ?」

「へ……?」


 群衆は思わず声を上げた。

 皇太子? 炎軍?

 いやいやいや、皇太子殿下と炎軍の方々は、南の王国の連中を虐殺すべく、遠征の途にあるはずじゃないか。

 こんなところにいるはずがないじゃないか。

 あの女どもはいったい何を言っているのだ?


 そう思いながら、「いやいや、まさか」とつぶやきつつ、あらためて縛られている頭上の男たちを見る。


「あああっ!」

「あ、あれは!」


 群衆は叫んだ。

 顔に見覚えがあるのである。

 帝都民達は偉い人達の顔をよく見る。

 皇城のバルコニーで群衆の歓声に応える皇太子や、凱旋式で帝都を練り歩く炎軍などを、しばしば目にする。

 だからわかる。


「あ、あれは皇太子殿下だ!」

「あちらにいらっしゃるのは炎軍軍団長のエンデス様だぞ!」

「炎軍幹部のバルガ様もいるぞ!」


 そう、岩に縛り付けられているのは、高貴なる身分であらせられる皇太子殿下と炎軍幹部の面々だったのである。


「バ、バカな! 皇太子殿下がこんなところにいらっしゃるはずが!」

「で、でも、あの顔は間違いなく……」

「炎軍の方々の顔も見おぼえがある! あれは間違いなくエンデス様達だ!」

「そ、そんな……」


 立派な身分だと思っていた人達が、あまりにも情けない格好で泣きわめいていることに、群衆はもうどう反応していいのかわからない。


 そんな彼らのもとに何かが落ちてきた。


 ガシャン!


 金属音を立てて落ちてきたそれは、何やら赤いかたまりである。

 なんだ? と群衆が思う間もなく、赤い何かは次々と落ちてくる。


 ガシャン!

 ガシャン!

 ガシャン!


「わっ、わっ!」

「な、なんだなんだ!」


 見上げると少女達が上空から赤い何かを落としている。

 それは巧みに人のいないところへと、次々と落ちていく。

 落ちてくる量は次第に増えていき、ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン! と音を立てて、広場に積み上がっていく。


 やがて、音は止まった。

 赤い何かは山のようにうずたかく積み上がっている。

 群衆から1人の男が出て来て、恐る恐る赤い何かを手にとってみた。

 鎧である。

 男は叫んだ。


「あっ! こ、これ、炎軍の鎧だ!」

「え? うそ?」

「いや、本当だ! この形、それに刻印……本物の炎軍の鎧だ! 俺は軍に物資を渡す仕事をしているからわかるんだ。これは正真正銘本物の炎軍の鎧だ!」


 そう言って、男は積み上がった鎧を次々と手に取っていく。


「これも! これも! これも! みんな本物だ! 本物の炎軍の鎧だぁ!」


 それを聞いて「う、うそだ! 俺は実物を見たことがあるから騙されないぞ!」と叫んだ別の男も、自ら鎧を手にとると「ほ、本物だ!」と叫ぶ。


 本物……。

 本物の炎軍の鎧……。

 それが何千何万と広場に積み上がっている……。

 いったい何がどうなっているんだ?


 頭上では相変わらず、

「うわあああ! 助けてくれええええ!」

「ひいい、見ないでよおおお!」

 などと情けない声が聞こえる。


 帝都民達はもう、何が何だかさっぱりだった。


 いきなり『蛮族の女ども』がやってきて群衆と衛兵を蹴散らし、穴を掘ってそこに巨大な岩を刺し込み、皇太子と炎軍を岩にはりつけにした後、大量の炎軍の鎧を広場にばらまいた。

 言葉にすればこういうことなのだが、意味がわからない。

 いったいぜんたい、どうなっているというのだ?


 その時である。

 上空から声が聞こえた。


「帝都の諸君。お久しぶりだね」


 見上げると上空に映像が写し出されていた。

 若い黒髪の男の映像である。


 映像の中の男は、にっこり笑うと、帝都中に響き渡る声でこう言った。


「僕は火消坂だ。1週間前、お前達に召喚された『庭作り』スキルの持ち主と言えばわかるかな。今日はお前達におしおきをしに来たんだ」

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