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第2話 脱出しよう

 僕は庭作りスキルを月に向けて使うことにした。


 使ったらどうなるかって?

 知らん。

 でも、何もしなければ、明日には()(にえ)だ。


 僕は絶対に死にたくなんかない。

 何が何でも生き延びて、このクソ帝国に一泡吹かせて……いや、百泡くらい吹かせてやりたい。

 実のところ僕は、やられたことは、きっちりやり返す主義なのだ。そのためにはスキルでもなんでも使ってやる。


 よし、やるぞ!


 僕は月をしっかりと目で捕らえると、スキルを発動すべく、念じた。


(僕は月で庭作りがしたい!!!)


 気合いを入れて力強く念じる。

 しばらく待つ。

 何も起きない。


(ダメか……)


 そう思ったその時である。

 空から何か光るものが降りてきたのだ。


「……は?」


 僕はびっくりしてしまった。

 子供の頃に見たファンタジーアニメに魔法船というのが出てきた。クジラみたいな形をしていて、表面には魔方陣が描かれている。魔法の力で空も飛ぶし、宇宙にも行けるという代物だ。

 その魔法船に似た船が今、上空から降りてきたのだ。


「な、なんだ、あれは!?」

「ひ、ひいっ!」


 兵士達が悲鳴を上げる中、魔法船は空中で停止する。

 そして、パカッとドアが開くと、中から人型の何かが1体飛んできた。


「わっ、こ、こっちに来るぞ!」

「く、来るなぁ!」


 兵士達はパニックを起こす。

 兵士の1人が「く、くらえ!」と叫び、手から炎を放つが、人型の何かにはまるで効いていない。

 そして、そのまま地上に降り立った。


 女の子である。

 黒くて長いストレートの髪に、やわらかそうな白い肌。年齢は高校生くらいか。黒い瞳が印象的な綺麗な顔をしているけれども、表情は一切ない。

 そして、なぜかメイド服を着ている。


 そのメイド服の美少女が、高速で動く。

 バトル漫画のキャラクターのごとく、ものすごい速さで兵士達を次々と殴り倒していく。


「ぐえっ!」

「ぎゃあ!」

「て、てめえ、よくも、ぐひゃう!」


 兵士達はあっという間に昏倒し、動かなくなる。


 僕は予想外の展開で固まってしまった。


(え? なに? どういうこと? 僕のスキルって庭作りじゃないの? なんで魔法船が飛んできて、女の子が降りてくるの?)


 混乱する僕に構わず、女の子は無表情のまま鉄格子に手をかけると、なんとそのまま引きちぎった。

 かわいらしい少女とは思えない怪力である。

 のちに僕は彼女がゴーレム(魔法の力で動く人形)だと知るのだが、この時はそんなこと知らなかったし、どう見ても人間にしか見えないわけで、びっくりしてしまう。

 続いて、その指から一筋の赤い光が発射された。僕を縛っていたロープがパラリとほどける。きれいにロープだけが切れていて、僕の体に傷はない。

 自由になった僕に向けて、女の子は手をさしのべてきた。

 ついてこい、という意味だろうか。


「え……あ……」


 でも僕は、まだ固まっていた。

 困惑と戸惑い、それに警戒心。

 そういった感情がごっちゃになって、動けなかったのだ。


 女の子はそんな僕をしばらく見ていた。

 そして、何を考えたのだろうか。


 踊り出した。


 ……うん、見間違いじゃない。踊り出したんだ。

 無表情のまま、ピッコンピッコンとリズミカルな電子音を立てて、手足をカクカクさせる何とも形容のしがたい変なダンスを踊る。

 後で聞いたところによると、彼女は僕を安心させたかったらしいんだけれども、それでなんで踊ることになるのか、いまだに理解できない。

 ともあれ、目の前でコメディアンがやるようなダンスを真顔で踊っているメイド服の女の子がいるわけで。


「……ぷっ、ぷぷっ、あははっ!」


 僕は笑い出してしまった。

 警戒心はどこかに消えてしまっていた。

 立ち上がると、自分から手を差し出す。


「わかった。いいよ。僕を連れて行ってくれ」


 僕がそう言うと、女の子はピコピコとどこか嬉しげな音を立て、僕を大切なもののようにそっと抱きかかえた。

 そして、飛び立った。

 向かう先は上空の魔法船である。

 ドアから乗り込む。中は以外と狭く、座席は2つしかない。

 僕達が乗ると、船は動き出した。

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