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第18話 帝国の皇帝が土下座する話 (3)

 三人称視点です。

 帝国軍15万人は、目を覚ますと、見知らぬ場所にいることに気づいた。


「な、なんですか、ここは!?」


 皇太子をはじめ、一同はあたりをきょろきょりと見回す。

 見渡す限り、土の壁である。

 光は頭上から射し込んでいている。


 どうやら自分達は巨大な穴の底にいるらしい、ということに気づく。


 穴は深い。

 見上げると、地上ははるかに高い位置にある。


「く、くそ、登れねえ」

「なんだ、この壁!? つるつるしてやがる!」


 将兵達の声がする。

 見ると、穴をよじ登ろうとして、失敗しているようだ。


 穴の壁は垂直に切り立っている。

 おまけにどういうわけか固くつるつるとしていて手足を引っかけることも出来ない。

 とても登れそうにない。


 彼らは知らなかったが、これはゴーレム少女達が掘った穴であり、壁も彼女たちが固めたものであった。

 庭作りに穴掘り技能は必須であり、それを駆使して見事に脱出不能な穴を作り上げたのだ。


「くっ……」


 その穴の中で、皇太子はうめく。

 誰かが自分達をここに閉じ込めたに違いない。

 だが、一体誰が?

 あの女どもか?


 皇太子がそう思っていると、突然穴の上から大声がした。

 見上げると黒髪の若い男が穴の上から見下ろしている。

 火消坂(ひけしざか)である。


「帝国軍のみんな。目が覚めたかな?」

「だ、誰ですか!?」


 皇太子が頭上に向けて問いただすと、声はこう言った。


「しばらくの間、お前達のことを閉じ込めさせてもらう。本来ならおしおきをしてやりたいところなのだが、あいにくここでは庭作りスキルが使えなくてね。数日後には、ここから出しておしおきを受けさせてやるから、しばらく待っていてくれ。水や食糧はお前達の補給物資をそのまま置いておいたから、みんなで仲良く分けるんだぞ」

「……は?」


 皇太子は、ぽかんとした。


 我々を閉じ込める?

 何を言っているのですか、あの蛮族は。

 私は栄光ある帝国の皇太子殿下ですよ? 閉じ込めるなんて許されるはずないでしょう。

 皇太子殿下のためなら、喜んで奴隷のように奉仕するのが筋です。

 蛮族というのは礼儀も知らないのですか。


「待ちなさい!」


 皇太子は叫んだ。


「ん?」


 立ち去ろうとしていた火消坂は振り向く。


「この私が誰だかわかっているのですか? 帝国の皇太子様ですよ」

「……皇太子?」


 火消坂は皇太子の言葉を確認するようにたずねる。

 そのリアクションを『蛮族のバカがようやく帝国の皇太子様に手を出したという事実に気づいてビビっている』と解釈した皇太子は、強気で返す。


「そうです。もう一度言いますよ。私はこ・う・た・い・し殿下です。帝国で父上、つまり皇帝陛下の次に偉いのですよ」

「ほう……」


 火消坂の一見ビビっているように見えるリアクションに、将兵達も罵声を浴びせる。


「そうだそうだ、ここにいらっしゃるのは恐れ多くも帝国の皇太子殿下なのだぞ!」

「しかもここには、帝国軍最精鋭の炎軍(えんぐん)もいるのだぞ! あの真っ赤な鎧を見ろ! あれぞまさしく地上最強の炎軍様のシンボルなのだぞ!」

「わかったら、さっさと俺達をここから出せ! このウスノロ蛮族が!」

「なに、ぼーっと突っ立っているんだよ。早く動けよ。この未開人!」


 彼らはゴーレム少女達にボコボコにされたが、だからといって急に人格が変わるわけでない。

 弱そうなやつにはとことん高圧的に。それが帝国人である。


 だが、火消坂は皇太子の名前にビビって()いつくばったりなどしなかった。

 反応は逆である。

 喜びで目を輝かせたのである。


「いいねえ。皇太子に最精鋭部隊か。使えるね」

「は?」


 火消坂の反応に、皇太子は、わけがわからないといった顔をする。


「皇太子。お前は、僕と一緒に帝都まで来てもらう」

「……はああ?」


 帝都とは帝国の首都である。

 だが、『薄汚い蛮族ごとき』が帝都に行って何をしようというのか?


 困惑する皇太子をよそに、火消坂はゴーレムの少女達に3つの命令を与えた。


 命令1.皇太子を拉致しろ

 命令2.赤い鎧を着ている連中のうち、特別偉そうな格好をしているやつらを全員、これまた拉致しろ

 命令3.残りの赤い鎧のやつらは鎧だけでいいから、全員分ひっぺがえしてここに持ってこい


 火消坂に命令されるのが大好きな少女達は、嬉しそうにぶんぶんと首を縦に振ると、命令を実行に移すべく、飛んで帝国軍に襲いかかった。


「ひ、ひいい! な、何をするのですか、無礼者!」


 皇太子はそう言って抵抗する。


「な、何をする! や、やめろおおおお!」

「く、来るなあ! 来るなあ!」

「うわあ、あっち行け! どっか行け!」


 炎軍もそう言って抵抗する。


 が、誰も彼も皆、あっさりと意識を刈り取られる。

 後は火消坂の命令が忠実に実行されるばかりである。


 皇太子は拉致された。

 炎軍の首脳陣も拉致された。

 炎軍の鎧は全員分、強奪された。


 こうして大量の獲物を手に入れた火消坂は、意気揚々と引き上げるのだった。

 火消坂には、とある作戦があった。

 帝国を滅ぼし、ついでに隠しスキル(この世界と地球を自由に行き来できるスキル)もゲットする作戦である。


「さあ、目指すは帝都だ。皇帝を土下座させるぞ」

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