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第11話 帝国の遠征軍が悲惨な目にあう話 (4)

 三人称視点です。

 帝国兵達は残党狩りのため、オアシス都市のあちこちに分散していた。

 その兵達が、次々と狩られていく。


「ああん? なんだこの女……って、何をしやがごぐぎゃあ!」

「て、てめえ! よくもごくはぁっ!」

「ええい、どけ! 俺の魔炎(まえん)で仕留めてやる。くらえ! へへ、ざまあみろ……って、はあ!? な、なんで効いてないんだよ!? う、うそだろ……そんな……って、こ、こっち来んな、ふぎゃあっ!」


 混乱は中央広場にいる司令官の皇子にも伝わる。


「第3部隊ほぼ壊滅! 謎の女どもに次々とやられていっています!」

「第8部隊もダメです! 魔炎が効かないんです!」


 そのような報告が次々と入ってくる。


(バカな! バカな! バカな!)


 皇子は意味がわからなかった。

 地上最強であるはずの帝国軍がなすすべもなく、次々とやられていっているというのである。

 いったい何が起きているというのか?


「何やってんだよ、お前ら! たかが女どもにやられてるだと? それでも帝国軍かよ!」

「し、しかし……」

「ああ、もう、2つの部隊で挟み撃ちにすればいいだろ! 第4部隊と第6部隊に伝えろ! 第5部隊はバックアップだ!」

「は、はいっ!」


 そうやって次々と指示を出すが、状況はまるで良くならない。


 気がつくと、中央広場以外の部隊は全てやられていた。

 そして、残る中央広場に少女達がやってきたのだ。

 そこにいるのは司令官である皇子と、彼の信頼する精鋭部隊たち。そして、オアシス都市の住民達だった。


「撃て!」


 少女達の姿が見えた途端、皇子は号令を下した。

 先手必勝とばかりに、必殺の魔炎が少女達目がけて一斉に放たれる。


「ああっ!」

「ダメ! 逃げて!」


 住民達の悲痛な叫び声が上がるが、少女達は動かない。

 蛇のようにうねる炎が少女達全員に全身に絡みつき、炎の塊となって大きく燃え上がった。


「……は、ははっ。なんだよ、魔炎、効くじゃねえかよ」

「本当だぜ。他の部隊の連中何やってんだ」

「まったく、情けねえなあ」


 兵達はそう言って「あはははは」と笑った。

 その表情は余裕に満ちあふれていた。

 何しろ魔炎は高熱である。その灼熱は石すらも溶かすほどであり、オアシス都市が短時間で攻略されたのもこの魔炎で城壁を破壊されたからというのが大きい。

 それほどの魔炎に全身を包まれて、生きているはずがないではないか。


 皇子もまた余裕たっぷりだった。


(ふん、なんだ。しょぜんは蛮族のザコじゃないか。まったく、人騒がせな連中だ)


 帝国軍は、へらへらと笑いながら、少女達が消し炭になるのを待っていた。


 ところが、どうにも様子がおかしい。

 普通なら魔炎に包まれた人間は、その場で倒れる。全身を高熱で焼かれてしまえば、立っていることすら出来ないからだ。

 だが、炎に包まれた少女達は、平然と直立しているように見える。


「な、なあ、あれ、あいつら立ってねえか?」

「い……いやいやいや、そんなバカな」

「ははは、だよな、そんなわけねえよな……」


 帝国兵達は、そう言って目の前の光景を否定しようとする。


 だが、そんな彼らの態度をよそに、少女達はさらにおかしな動きをした。

 砂遊びをした子供同士が、顔や服についた砂を払い落とすかのように、お互いの顔や体をパンパンと手で払ったのだ。

 水をかけても消えない魔炎だ。そんなことで火が消えるわけがない。わけがないはずなのだ。


 ところが、どうだろう。

 炎はあっさりと消えてしまったのだ。

 そこにいたのは、顔も体も服もきれいなままの、無傷の少女達だった。


 住民達はあぜんとする。

 自分達の軍を壊滅させた炎をあっさりとかき消すという信じられない光景に、口をあんぐりと開ける。


 帝国兵達もまた、パニックになる。


「バ、バババ、バカな! バカなああああああ!?」

「う、うそだ……ま、魔炎が……最強の魔炎が……」


 信じられないとばかりに、固まる。


「う、う、う、うろたえるな! ま、魔炎剣だ! 使えるやつは全員、魔炎剣を使え!」


 金髪おかっぱ頭を振り回しながら、皇子は叫んだ。

 魔炎が効かないなど信じられない。理解できない。気が狂いそうになる。


 それでも、自分は地上最強の帝国の遠征軍司令官なのだというプライドがある。

 そのプライドにかけて、負けるなど許されない。クズの人間以下の蛮族に負けるなど絶対に許されない。

 皇子はただその一心で叫んでいた。


「は、はいっ! 魔炎剣ですね!」

「よ、よおし、女どもめ。覚悟しろよ!」


 部下たちが皇子の声に呼応する。


 魔炎剣とは、魔炎をまとわりつかせた剣である。

 高熱の魔炎を薄い炎の形に圧縮し、炎鉄(えんてつ)と呼ばれる特殊な金属の剣にまとわりつかせることで、岩や鉄の塊すらも一刀両断できるほどのすさまじい斬れ味を発揮する。

 リーチは短いが、破壊力という点では単なる魔炎よりも数段高い。


 誰でも使えるわけではないが、ここにいるのは皇子の信頼する精鋭部隊たちである。

 皇子自身も含め、魔炎剣の使い手は200人ほどいる。


 彼らは一斉に剣を抜くと、「はあっ!」という気合いの声を入れる。

 すると、その剣が炎に包まれた。


 赤々と燃え上がる炎の剣を見て、皇子はニヤリと笑った。


「蛮族の女どもめ。この剣が見えるか? 今からお前達を八つ裂きにする剣だぞ」


 帝国兵達も魔炎剣の赤々とした輝きに自信を取り戻したのか、ニヤニヤと笑い出す。


「ぎゃははは、謝るなら今のうちだぜ、女どもめ!」

「そうそう、土下座しな」

「そうだ。土下座しろ。そうすりゃ許してやってもいいぜ!」


 帝国兵達の間から「ひざまづけ!」だの「土下座しろ!」だのと下卑た叫び声が鳴り響く。


 少女達はピクリとも動かない。


「ふんっ、蛮族にはこの剣の恐ろしさがわからないみたいだね。お前達、行くぞ!」


 皇子のかけ声に、部下たちは「はっ!」と応えると、少女達に向けて一斉に駆けていく。


「でえええい!」

「おりゃ!」

「くらえっ!」


 気合いの声と共に、炎の剣が次々と少女達目がけて振り下ろされていく。


 帝国軍は勝利を確信していた。

 魔炎剣という、神に愛されているとしか思えぬほど強力な武器を使いこなせるのは我ら帝国しかいない。やはり我らは高貴なる選ばれし民なのだ。バカな女たちよ。黙って言う通りにしていれば、もう少し長生きできたものを。まあ、しょせんは下賤な民。まともな知恵などあるはずもないか。


 そう彼らが余裕の笑みを浮かべたその時である。


 少女達は振り下ろされる剣にデコピンをした。

 冗談としか思えないその行動は、しかし剣をパキンと真っ二つにへし折ってしまった。


「……ほわ!?」

「……はひい!? はひいいいいいいい!?」

「……ぶ、ぶ、ぶはぁ!? ま、まえんけんがぁぁぁぁl!? おれたちの、しゃいきょうの、まえんけんがああああ!?」


 帝国兵たちは驚愕の絶叫を上げる。

 岩をも切り裂く必殺の魔炎剣が、デコピンで弾き返され、へし折られてしまったのだ。

 現代人の感覚で言えば、銃弾を……いや大砲をデコピンで弾くようなものか。

 もはや現実とは思えない。


「あ、あ、あばばばば……こ、これはゆめ、そ、そう、ゆめなんだ……あはははは、きのうちょっと、のみすぎちゃったかな……」


 皇子は呆然としながら、現実逃避の言葉をつぶやくことしかできない。


 少女達は、人間とは思えない速さで、固まったまま突っ立ている帝国兵らのところに駆け寄ると、1人1人意識を刈り取っていった。

 こうしてオアシス都市を占拠していた帝国遠征軍は、あえなく全滅したのだった。


 ◇


 帝国軍全滅から2時間後、オアシス都市に1人の男がやって来た。

 火消坂(ひけしざか)である。


 出迎えた庭師ゴーレム達は絵で現状を報告した。

 彼女達は、話すことは出来ないが、絵が上手い。

 庭作りには、庭の図面を書いたり、樹木の形を整えるのに幾何学的な感覚が求められたりするから、その影響かもしれない。


 その絵で火消坂は次の事実を知った。

 ゴーレム達が、火消坂が与えた偵察任務の際にオアシス国家を発見したこと。

 帝国兵達に攻撃されたので、命令通りやり返し、彼らを1人も殺さずに拘束したこと。

 火消坂は、満足そうにうなずいた。


 戦果を上げた庭師ゴーレム達の頭を撫で、リクエストに応えて頬や喉元も撫で、彼女たちの顔を上気させる。


「いいね。本当によくやってくれたよ。じゃあ、まずは彼らを使って実験をしよう。そのあとは、おしおきタイムだ」


 ひと思いに殺すよりも、長きにわたって罰を与えることを好むこの男は、どんなおしおきが悲惨かつ屈辱的だろうかと考えながら、現場に向かうのだった。

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