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ポルタ村ヒャッハー軍団



 ガサガサと音を立てて森の中を駆け抜けるエド。

 時折、野良のゴブリンやフォレストボア等が現れるが、エドの火球やローチの忍術(浪漫)によって瞬時に屠られる。


「はぁはぁ、もう少しだ」


『ますたぁだいじょーぶ?苦しそうだよ?』


「心配してくれてありがとうローチ。でもこれぐらい全然平気だよ」


 あれからずっとエドは走り続けている。

 エドのステータスは控えめに言っても、年齢からすると滅茶苦茶高いので、あのゴブリンの巣から村までのおよそ二キロの道のりを4分で駈けてきた。

 だが休まずに走り続けているので顔には疲労の色がだんだんと出始めていたのだ。


 少し先を見れば、村の防御壁になる柵が見える。

 あともう少し。

 エドは更に走り続けた。









「おっちゃん!」


「おっ?エドじゃねぇか。どうした?そんなに息切らしてよぉ」


 エドが村に戻ってきて真っ先に話しかけたのは村の猟師の中でもリーダーをつとめているおっちゃん『ゴリアテ』さんだ。

 リーダーと言うだけあって、彼は村の猟師の中でも、というか村の男衆の中で一番強い。

 それに彼が呼びかければいつでも猟師達が集まってきてくれる。

 だから、


「おじちゃん、大変なんだ。実は――」


 そうしてエドはゴリアテにそのゴブリンの巣穴のことを話した。

 上位主が多く発生し始めている様で、危険だと。

 このままでは村に大量のゴブリンの上位種が襲ってくるかもしれないから駆除を手伝って欲しいと。


「それは本当かぁ?流石に上位主がいきなり二体も出てくるゴブリンの巣穴なんてこんな近くにあるもんなのか?」


「本当だって!信じられないなら着いてきてくれれば良い。それにゴブリンならどうせ駆除しに行くでしょ」


「そりゃぁ、そうだけどな」


 そう言ってポリポリと頭をかくゴリアテ。

 やっぱり成人したばっかりの僕にそんな事言われても信じられないよな。

 と、その時だった。


「キャアァァァァアア!!!」


 村の柵の外から女の子の悲鳴が聞こえた。

 この声は、


「ニーアちゃん!??」


「確か外に花を摘みにいくって言ってたぞ。モンスターに襲われたのかもしれない、急いで助けに行くぞ!」


 ニーアちゃんは僕より二つ年下の女の子だ。

 最近はそうでもなかったけれど、小さい頃から妹のようにちょこちょこ何処にでも着いてきて可愛かったのを覚えている。

 あの子に何かあったのかとゾッ、と身体に悪寒が走った。


「わかってます!」


「おうっ!って、速っ!?速ッッ!!!」


 エドは門へと向かって駈けだした。

 後ろでゴリアテさんがわーわー驚いた声を出しているけど関係ない。

 一心不乱に彼女の声の元まで駆け抜ける。


「ニーアちゃん!!!」


 村の外に出てそこまで着くと、ニーアちゃんに襲いかかってビリビリと彼女の服を破いている二匹のゴブリンが居た。

 地面には花が沢山乗ったカゴが落ちて、カゴから落ちた花が散乱している。


「いやあぁぁぁ!たすけてぇ!たすけてよぉ!」


「ゴブゴブフッブゴォッ!」


 近所の年下の女の子を襲う醜悪な子鬼達。

 ピキッ、とエドの中で何かが切れた。


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


『ローチも殺すーーー!!!』


「え、エドおにいちゃん!??」


「ゴ、ゴブッ!?」


 恐ろしい言葉を吐きながら突撃するエド。

 ローチまで怖い言葉を平気で吐いている。

 そして暴言を吐きながらも、突然現れた助けに今まで泣きながら抵抗していた彼女はぱあっと顔を明るくさせた。

 ゴブリンはエドの登場に驚き、わたわたと慌てて逃げようとし始めるが、


「おらぁぁぁぁっっ!」 


「ブゴブゥァァァァ!!!!」


 縮地で一気に間を積めたエドはゴブリンの心臓を一突きして絶命させる。

 ドスッ、と音がして貫通したゴブリンの背中から血が噴水のように噴き出す。

 そして槍の先に死んだゴブリンを付けたまま振り回し、


ファーーーッ○!(ピーーーーッ!)!!!」


「ゴブァァァァ!!!」


 ゴブリンの死体をハンマーのように使ってもう一匹のゴブリンの頭をぶっとばす。

 ゴシャッ、と鈍い音がしてゴブリンの頭部はベコッと凹んでゴブリンは死んだ。


『ローチの出番なーーーい!!』


 出番は無かったけど『ますたぁ』が強かったのが嬉しかったようで、ローチはぴょんぴょんと肩の上で跳ねる。


「エド、おにぃちゃん.......」


「大丈夫?怪我とかしてない?」


「う、うん........///」


 地面にへたりこんでいるニーアにエドが話しかけると、彼女は顔を赤くして俯いてしまう。


「大丈夫そうだね。はぁ、安心した...........」


『ますたぁの女たらしー』


『えぇ?僕の何処が?』


『気付いてないのー?鈍感はぎるてぃだよー!』


 よくわからないことを言い始めたローチにエドは肩を落としてしまう。

 全く、いったい何処でこんな変な言葉を覚えてきたんだろうか。


「エド!ニーアちゃんは.........って、もう終わってたか。ゴブリンが2体、エド、お前中々やるじゃねぇか」


 足音も立てずに走ってきたのはゴリアテおじさん。

 ゴリマッチョだけど一流の猟師だから気配を消すのはお手の物なのだ。


「ごめんなさい、ゴリアテおじさん........僕、巣穴からゴブリンにつけられてたみたいです」


「確かにな........普段だったらこんな村の近くまでゴブリンは出てこねぇからな」


「すいません........。ニーアちゃんも、危険な目にあわせてごめん........」


「えっ?えっ!そ、そんな、結局エドお兄ちゃんに助けて貰ったし全然大丈夫だよっ!」


 上手く状況を読み込めずにあたふたしてしまうニーアちゃん。

 服が破かれてしまっていて目のやり場に困る。

 ゴリアテさんはニーアちゃんの事をガキとしか思っていないから大丈夫そうだけど、歳の近い僕はそんなニーアちゃんにオロオロしてしまう。


「ガハハハハ!やっぱチェリーだなぁ!エド坊よぅ!

 まあ、ニーアちゃんはこれでも羽織っときな!」


 そう言うとゴリアテさんはニーアちゃんに皮のコートをバサッと投げて渡す。

 ニーアちゃんは今自分の格好に気づいたのか顔を真っ赤にして慌ててそれを身体に巻き付けた。


「う、ううう..........」


「ガハハハ、二人とも面白ぇなぁ!

 まあ、それは置いといてだな。エド、お前の言ってることが嘘じゃないってこれでほぼ証明された訳だが、どうする?」


 急に真面目になったゴリアテさんはエドにそう聞いてくる。

 自分が始めた事だ、最後までやるに決まってる。


「僕もゴブリンを倒しに行きます!」


「おうっ!それならさっさと猟師ども集めて準備するぞ!ニーアちゃんもさっさと家帰って今日は大人しくしてな!」


「は、はいっ!」


 ニーアちゃんもわたわたと立ち上がって僕達についてくる。

 村の中まで戻ると、ゴリアテさんに「ここで待ってろ」と言われたので村の広場の真ん中にぽつんと突っ立っていることにした。

 ニーアちゃんはそのまま帰って行ったみたいだ。








 しばらくするとゴリアテさんがゾロゾロと村にまだ残っていた猟師のおじさん達を集めて来てくれた。

 ここまですぐに集まれるなんてフットワークが軽いと言うべきか、それとも皆暇なのかと言うべきか。


「よぉっし!つーわけでお前等!今日はエド坊が見つけたっつぅゴブリンの巣穴に駆除しに行くぞ!

 上位主も居るみてぇだから絶対に気を抜くんじゃねぇぞ!!」


「「「おおおおお!」」」


 気合いを入れる猟師達。

 この村の男衆はほとんどが猟師だからかなりの人数があつまった。

 お兄さんからおじいさんまで年齢層も様々だ。


「エドの坊主すげぇじゃねぇか!まだ成人したばっかりなのにお手柄だぞ!」

「久々に腕が鳴るわい!」

「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!!」


 集まってきた個性的な猟師の面々に囲まれるエド。

 そのうちの一人がエドの肩に乗っているGに気付いて話しかけてくる。


「あー、エド?ちょっといいか?」


「ん?なんでしょうか?」


「その肩に乗ってるのって.........ゴキ――」

「ええ!ローチって言うんですよ!僕の使役魔物です!」


「ええええええ........」


 有無を言わさぬ鋭い切り返しで「なんでゴキブリ?」とは言わせないエド。

 ローチはゴキブリはゴキブリでも超強い異世界ゴキブリなのだ!!

 しかも可愛い!(声だけ)

 自慢の使役魔物なのだ!!


 話しかけてきた彼は「ゴキブリ........使役魔物.......ゴキブリ?」とぶつぶつ呟きながら変な顔をして下がっていった。

 一瞬の内に脳味噌がゴッキゴキでカッサカサである。


 そうこうしていると、僕が集まられすぎて困っているのを気付いたのか、ゴリアテさんがパンパンと手を叩いて猟師達を纏めた。


「おまえら落ち着け落ち着け!

 ..........ふぅ、落ち着いたな?

 それじゃあおめぇら、ゴブリンの巣をぶっ潰す!

 場所はエドが知ってるからエドについてくぞ!

 良いな?おめぇら!!返事は!!?」


「「「応ッッ!!!」」」


 元気よく返事をする猟師のおじさん達。

 ゴリアテさんの号令がかかってエドは屈強なおじさん達を引き連れてゴブリンの巣穴へと向かうのだった。

  

 レベル上げをしていただけだったのに。

 どうしてこうなった。

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