エドの予想はよく当たる
結局また更新遅くなってしまった……。申し訳ありません。
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「ごめんよ、迷惑かけちゃったね」
「遅すぎるよオサムさん。おかげで融合しきれなかった僕が出来ちゃったじゃないか」
「あはは………ごめん」
真っ白で何もない空間に、小さなエドと勇者だった青年が二人向かい合って座っていた。
怒る小さなエドに、青年は申し訳なさそうに頭を下げる。
「来るのが遅すぎる。あと、こうなることは予想できてたんじゃないのか」
「面目無いです…………」
「いくらなんでも【勇気の証】は保護が強すぎだよ。まさか本人の中の存在である僕まで弾くなんておかしいじゃないか」
「それだけ、大事なモノだったんだよ………」
頭をポリポリとかく黒髪の青年。
加護【勇気の証】とは、元々はこの青年が持っていた能力だった。
「彼に、返したんだ。元々は彼のものだったから。今になってやっと全部知れたんだけどさ、勇者の力って全てあの子に由来するものなんだよ」
「本人はまるで自覚してないけどね」
「君が自覚してるなら彼だってそろそろ――――」
「オサムさん………いい加減貴方も僕の馬鹿さ加減に気がつくべきだよ。あれは頭が良いように見えて、実のところは自分自身や自分を取り巻く環境に関してまるで何も気付いてない。とんでもない阿呆だ」
凄まじい勢いで捲し立てたエドにオサムと呼ばれた青年は苦笑する。
「同じ自分なのに………ずいぶんと厳しいんだね」
「自分だからこそ。認めはしたけど気には食わない」
「ひねくれてるなぁ」
ぶすっとした顔のエドを見てクスクスと笑うオサム。こちらのエドも、もう一人のエドと同じエドなのかと思うとあまりにも可笑しかったようだ。
「それじゃ、僕はもう帰るね」
「あぁ、うん。じゃあねオサムさん」
なんと。
これはまたアッサリしている。
「酷いなぁ、随分あっさりしてるんだね」
「僕はエドガーだけど、完全にエドガーってわけじゃないからね。ほら、そんなことよりあれを見なよ。僕達、だいぶこの世界について理解出来てきたんじゃない?」
「前任が沢山穴開けてったせいだよねぇ。ま、元々そんなに大きな世界じゃないから仕方ないか」
オサムはそれだけ言うと、空気に身体が溶けていくかのようにその場から消えた。
残されたエドは、ぼんやりと虚空を眺め始めた。
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「乙女ゲームじゃない?」
「ああ、正確には一つだけじゃなかったってとこだな」
勇者達との決闘を明日に控えた今日、リリ嬢の所のゴブリンさんからお話があると言うことで、訓練中の僕達は一度集まっていた。
ゴブリンさんの話に早速ライルが食いつく。
「なんというかちぐはぐなんだよな、この世界。元の世界に戻ったときに少し調べてみたんだが、『魔王竜ディアボロス』はRPG【デーモンズクエストⅡ】のラスボスだし、そこのゼムナス先生は同じくRPGの【夢の終わり】で最初にお助けキャラとして出てくるユニットだった」
「それ、本当か?なんか無理矢理混ぜこぜにした感じ………」
「他にも俺とお嬢を襲ったワイバーンの姿は友達がやってたオンラインゲームに出てくるワイバーンにそっくりだったし、学院のデザインこそお嬢の言ってた乙女ゲームそっくりだけど、町全体のデザインはさっき言ってた【夢の終わり】に出てくる【聖都リディエント】にそっくりだ」
意味のわからないことをペラペラと話続けるゴブリンさん。ライルやユーリ、リリ嬢達は理解できているようだけど、僕は全くついていけていない。聖都リディエントとかデーモンズクエストⅡだとか、全く聞いたことのない単語ばかりだ。
話を聞きながら何か考えていたユーリが、ふと顔を上げる。
「それで、それがどういう風に僕達に関係してくるんだい?」
「ふむ、それは………今俺達が感じているように、シナリオなんてものは存在していないって事がまず一つだな」
「だが僕達が学院に入学するまでは聞いた通りだったぞ?なのにシナリオは存在しないのか?」
「正確には………確定したシナリオは、かもしれないな。展開としてはお嬢が言ってたシナリオと似ているが、間のもろもろは丸っと吹っ飛ばされてる。何かしらの力は働いてるんだろうが、それの言いなりに絶対なるってことは無いんだろうな。勿論、俺達が先のシナリオを意識しているからその通りにはならないって可能性もあるがな」
「そうか…………まあ、シナリオ通りにならないなら良いか。シナリオ通りなら勇者に勝てるのはエド君だけだって話だったからな」
「でも実際エドは俺らの中で一番つえーぞ、多分。クザン先輩は知らんけど」
ライルが少しおどけた感じでそう言うと、真顔のクザン先輩がライルの頭を後ろからガシッと掴んだ。そして片手で頭を掴んだまま上へと持ち上げる。
見かけによらず凄い筋力だ。
「エドガーは兎も角、テメェらよか強いぞ、俺は」
「あだだだだだ!痛い!痛いっすよ先輩!」
「舐めんなクソガキ」
ライルがじたばたと暴れるが、クザン先輩はびくともしない。身体能力を魔法によって強化しているのだろう。
「いだだだだだだ!」
「クザン………そろそろ離してやったらどうかね?」
「生まれ持った力だけに頼って慢心するなって言うことだ。おい、エドガー!」
クザン先輩はライルを解放すると不意に此方を指差した。此方に話が振られるとは全く思っていなかったから、思わず身体がびくりと跳ねてしまう。
「なん………でしょうか?」
「お前、俺に『鑑定』か?使ったろ。だから知ってるたァ思うが、俺は『全属性魔法』と『複製魔法』を持ってる。これだけあれば一見恵まれてるように見えるだろうがな、俺は元々持ってた魔力が少なすぎて使いモンにならなかった」
でも、今は使えていると言うことは、使い物にならなかったそれらを使えるようにしたと言うこと。
「だから使えるレベルまで地力を鍛えた。それだけじゃない、学院に入ってからは魔法だって魔力消費を減らす為の研究を重ねてきた。ギリギリ魔法を扱えるようになってやっと四星の一番下に滑り込んだ。つまりは、俺みたいな元が弱いヤツでも努力次第で格上だって倒せる。だから逆もしかり、だ。お前らも相手が格下だからと絶対に油断せずに、確実に勇者を潰せ」
「勇者が格下だとは思っていませんが………」
「お前は一度勇者を撃退してる。あれを見ていて思ったことだが、地力だけならエドガー、お前の方が上だ。勇者はスキルが強いだけの。だから無意識に勇者を格下だと感じている可能性はある。違うか?」
無意識に、か。確かにスキルそのものの威力や手数こそ勇者の方が上だったものの、それ以外に関しては特に驚くようなものは無かった。もちろん勇者の手駒になっている四星の内の三人のように手加減していただけだという可能性もあるが、それを考慮したとしても互角ぐらいには戦えるのではないかと考えていた。
「まぁ、逆に言えば油断さえしなければ勝てる相手だって事だ。そこのゴブリンもお前らに他の事は気にせずに戦いに集中しろってことで話に来たんだろ?」
「ああ、簡単に言えばそうなる。お嬢が乙女ゲーだなんだ言い始めたから混乱したかもしれないが、どうやらそれだけでもないみたいだから気にするなって事だ」
クザン先輩の言葉にゴブリンさんもそう言って「そのとおりだ」と頷き、頭を抱えて蹲るライルの肩に手をのせた。
「話は終わったようじゃのぅ。それじゃあ訓練も仕上げと行こうかの」
ゼムナス先生がトントンと長い杖で床を叩き、皆を纏める。
話を聞いて考え込んでいたユーリも、いつの間にかジャックと戯れ始めていたリリ嬢も、意味はよくわからなかったがなんとなく聞いていた僕とアンリも先生の声に反応して集まった。ライルは蹲っていたところをクザン先輩によって小脇に抱えられた。
「良いかの?これは儂らだけの問題ではなく、国の存亡がかかった戦いじゃ。必ず勝利し、帰ってくるのじゃぞ」
そうして始まる最後の訓練。
付け焼き刃の力である固有魔法を完全に身体になじませるべく、厳しい特訓が小休憩を挟みつつ夜まで続けられた。
明日の決闘に参加するのは僕とライル、ユーリ、クザン先輩の四人。僕とライルは少々扱いがぎこちないが、最初の頃と比べると大分上達し、ユーリとクザン先輩は見たところほぼ完璧に能力を使いこなしていた。特にクザン先輩は元から固有魔法を持っていたこともあって四人の中で、一対一の勝負なら最強ではないかとも思える程だった。
そして、明日は必ず勝つと誓いあって僕たちは解散した。この四人ならきっと勝てる。皆に出会ってからまだ1ヶ月も経っていない短い期間だったけれど、それだけ彼等とは信頼しあえる仲になっていた。
しかし、決闘当日の朝。
予定の時間にクザン先輩だけが皆の前に姿を現さなかった。




