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三人の転生者と虫取り少年


「紫苑さん、なんであんなことしたの……?」


「あんなこと?なんのことかしら?」


 言っていることがわからないと首を傾げてみせる紫苑。そんな嘘もローチの分身には通じない。


「紫苑さん、わざと勇者の注意を引き付けたよね?

 勇者が近くに居ることをわかった上であの姿になったんだもの。なんであんなことしたの?」


「そんなの気付かなかっただけよ。誰だってそれぐらいの失敗――」

「嘘だよね?」


 紫苑の言い訳を遮って詰め寄るローチ。

 紫苑も観念したようで溜め息をついた。


「………………はぁ。ローチちゃんって意外と鋭いのね。そうよ、()()()あの男の子の注意を引き付けたわ。それがどうかしたの?」


「紫苑さんは、何がしたいの?いくら紫苑さんだってあんなの直に受けたら洗脳されちゃうかもしれないんだよ!ますたぁが心配しないとでも思ってるの!」


 怒ったローチは止まらない。

 この女は何を考えているのかずっとわからなかった。ますたぁは優しい人だ。色々と未熟で拙いところは多いかもしれないけど、召喚した使役魔物である私たちのことを本当に大切に思っている。

 ジャックおじさんを勇者の監視に送り出した時だって、さり気なくおじさんの背中に『緊急避難(テレポート)』の護符を貼り付けていた。見つかってもすぐに逃げられるように。

 戦闘が終わった後も、自分よりも先にまず護符や薬を使って私たちを治療してくれる。

 そんなますたぁが紫苑さんのしたことを知ったらどんな気持ちになるのか。

 この女はそれがわかっていないのだろうか。


「そうね………あの子は、怒るでしょうね」


「わかってるんだったら、なんであんな事……」


「………あの子の助けになりたいの。それじゃあ駄目かしら?」


「助けになりたいって………紫苑さんはさんざんますたぁや私たちのこと助けてくれてるじゃない」


「言い方を変えましょうか……あの子には幸せになって欲しい。だからわざとあの子よりも前に立ったの。勇者の男の子から見て、目に入るのは当然近くて興味がある方からよね?」


 そこまで言った紫苑は『これで動きやすくなったでしょう?』と言ってクスクス笑った。

 ローチの分身はそれを不満げな顔で見つめる。


「紫苑さん………馬鹿だね」


「うふふ、馬鹿で結構。馬鹿を見るのにはもう慣れてるの」


 身を翻す紫苑。

 彼女が着ていた制服が一瞬にして全て脱げてめくれ上がり、彼女の全身を隠した。


「紫苑さん!」


 慌ててローチの分身が駆け寄るも既に紫苑は居なくなっており、着る者を失った制服だけが地面に広げられていた。


 ローチは急いで寮の一番近くに待機していた分身に連絡し、寮へと戻ったであろう紫苑を追いかけさせたが、部屋にはユーリへとむけたマスターの伝言だけが残されており、紫苑の姿は何処にも無かった。


 紫苑はその日、エド達の前から消えた。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「そんな………紫苑さんが」


「僕はよくわからないのだけど、拙いことになったみたいだね」


「某はまだ会ったことはござらぬが、余りにも自分勝手な失踪でござる!残されたマスター殿や我らがどう思うのか考えていないのか!」


 ドン!とテーブルに拳を打ち付けるジャック。


 僕とライルの部屋には紫苑以外の僕の使役魔物達とユーリ、リリ嬢、そして彼女の使役魔物のゴブリンさんが集まっていた。


 紫苑がどうしてそこまでしようと思ったのかわからない。何故自分から犠牲になりに行くようなことをしでかしたのか。

 彼女の実力なら確かに洗脳は効かないかもしれない。だけど勇者に狙われるということはこの学院の全員から常に監視を受け、常に追いかけられ続けるということだ。

 僕たちの前から消えたのはおそらく紫苑を通して僕に注目が及ぶのを避けるため。何故紫苑がそこまでするのか、本当にわからない。

 僕は彼女に何かしてあげられたことなんて一度も無いのに。

 助けられてばかりなのに。


「どうするんだよ、エド」


「ライル達は、いつも通り行動してくれ。僕は…………紫苑を捜す。訓練の合間になるだろうけど、放っておけない。紫苑さんは強い、でもそれが絶対だとは思わないから」


「ま、そうなるよな………。俺たちもフィーネ達に会いに行けるわけじゃないし、基本やることはお前と同じだし、出来ることがあったら手伝うよ」


「ありがとう………それと、ごめん」


「お前が謝る事じゃないだろ…………」


 べしべしとライルに背中を叩かれた。

『元気出せよ』ってことらしい。

 ありがとうライル。ちょっぴり元気出た。


「見つけたら、説教してやらないとな」


 年下からの説教なんて可愛いぐらいにしか思われないだろうけど。


「よしっ!そうと決まれば今度は他の話もしていかねぇとな!情報共有は重要だぜ!」


 パン!と手を叩いてライルが空気を切り替えた。

 お通夜ムードだった部屋の中が少しずついつもの空気に入れ替わっていく。


「そうだな。リリ嬢からも何か話があるらしいし」


 うんうんと頷いて肯定するユーリ。

 リリ嬢から話があるのかと彼女を見れば、真っ赤な顔でふるふると震えている。


「あれ?リリ嬢………?」


 心配そうな顔でリリ嬢の顔をのぞき込むユーリ。

 震えが止まらないリリ嬢。

 ジャックがユーリを押し戻すと、悲しそうな顔になった。


「すまぬ………リリ嬢は遅れてやってきた羞恥心で動けなくなっているのだ…………」


「あっ………」


 察し。

 

 僕たちが部屋に戻る前に、だいたい何が起きていたかは理解した。

 今度からはジャックを動かすときはリリ嬢も一緒にしないとな。というかジャックが何処かに行く度に勝手についてきそうだ。


「ふ、ふへっ………何してたのかしら私………精神年齢ならもうオバサンの筈なのよ……? なのにあんな子供みたいに……………うわぁぁぁぁぁ」


 ぶつぶつと呟き続けるリリ嬢に闇を感じた。

 しばらく触れないでおくのが彼女のためだろう。


「じゃあ……僕たちの方から話すとしようか」


 僕とライルは顔を見合わせると皆に向き直った。

 






















「そうなのか………そんな人たちが居たとは」 


「二人とも気付かれないようにうまく隠してたみたいだし。気付かなくても仕方ねぇだろ」


 顎に手を当ててなにやら考え始めたユーリ。ライルがそんな彼に気付かなかったのも仕方ないと声をかけた。


「嘘をついてる様子なかったし、洗脳も見たところされてない、それに―――」


 僕は『心願』を発動して何もない空間を見た。

 

「この学院の全てを『幻覚』の魔法が込められた結界が覆い尽くしている。これで勇者が女の子に手を出すのを邪魔しているのも本当のことなんだろう。見つかりにくいように細工も施されているから、勇者は多分気付いていないだろうし」


「そうか………それを聞いて安心したよ。ティナが無事だとわかって本当に良かった」


「ああ…………本当に、僕もそう思うよ」


 ほぅ……と息を吐き出す僕とライルとユーリの三人。この学院に来て、勇者の良くない噂や彼の実態を知ってから息が詰まるようだった。

 これだけ早く情報が仕入れられ、アンリ達がとりあえず今は無事であるということを知れて本当に良かった。


「成る程………?つまり三人は三人ともストーリー通りか」


「………ゴブリンさん?」


 無言のままで難しい顔をしていたゴブリンさんがスッと顔をあげて口を開いた。

 眉間に皺を寄せて、機嫌悪そうにしている。


「『ユーリの洗脳解除』理由は違うが『エドの学院入学』『勇者の本性』流石にゲームのシナリオ通りには進んではいないみたいだが、隠しルートに入ったところから始まっていると思えば条件は揃ってる」


「ゲーム?何か知っているのか?」


 ユーリが彼の言葉に食いついた。

 何か希望を見出したように目を輝かせている。


「ふむ……?つまりユーリ、あんたも転生者ってことか」


「君もなんだろ、ゴブリン君」


「俺は………少し違うかな。転生したわけでもないし転移したというのも少し違う。半端者だ」


「半端者………?」


 ユーリの頭の上に疑問符が浮かぶ。

 だけどゴブリンさんはそれは無視して続ける。


「まあ、この話はお嬢から聞いた方が良いだろ。お前等と同じで転生者だしな」


「リリ嬢も!?」


「うおおおお!仲間がこんなに。学院すげぇぇ!」


 驚くユーリとテンションが上がるライル。

 だが肝心のリリ嬢が未だに闇モードになっていて当分戻ってきそうにない。


「ほんと、何してたのかしら?……廊下で…………抱きついて?………匂いを嗅いで?……………何なの……………私は何をしてるの?……………あはは………あは、あはは…………」


「お嬢……………」


 悲しそうな目になるゴブリンさん。ジャックも『そこまで気にする必要なんてないでござるよ』と言って慰めている。


「はぁ…………仕方ないから俺から説明させて貰おう。まずゲームについての話なんだが――――」


 そうして話し始めたゴブリンさん。


 話をまとめると、おとめげーむという恋愛を題材にした絵物語のようなものがあって、僕とユーリはそれに登場する男性の一人なんだそうだ。主人公がリリ嬢で、お気に入りの男性を『こうりゃく』してハッピーエンドを目指すらしい。勇者が黒幕だというのもその『げーむ』とやらから知ったそうだ。こうしてその『げーむ』と同じ事が現実でも起きていることから、全て同じになるとは思っていないけれど報告するべきだと考えて報告しにきたそうだ。


「本来のエンディングの地点を通過してエドのルートに入った後にまた勇者以外の攻略対象のルートが追加されて好感度もリセット。勇者による洗脳じゃなくてちゃんと心から愛し合えるルートもしっかりと存在してる。あ、あとライバルについても話してなかったな。ユーリのルートだとラスティナ公爵令嬢が悪役として登場してきて―――」


 まだまだ続くのか。

 ここから先は要る情報と要らない情報と入り乱れてるな。

 あ、ライルが白目を剥いてゆらゆらと揺れ始めた。眠くなってきたみたいだな。








――――30分後


「さてと、これでルートとかの話もだいたい終わったかな?わかったか?」


「まあ、一応」


 唯一まともに聞き続けていられたユーリが答える。

 僕は途中からよくわからない単語が増えてきたせいでリタイアせざるをえなかった。そしてライルは死んだ。

 今の彼は眠気に負けてテーブルに突っ伏している。


「まぁ、しくじったらお嬢は勇者の慰み者、エドは処刑でユーリは勇者の玩具になる。最悪の場合はそんなところだな。さて、お嬢。俺が話しきったわけだがお前此処に来た意味あるか?」


「ある。ジャックおじさまといちゃいちゃできた」


 いつの間にか復活していた、というか吹っ切れていたリリ嬢がジャックの膝の上に乗っかって満足げに答えた。

 ジャックは目を閉じて微動だにせず、精神統一をして心を落ち着かせている。まぁ、リリ嬢も女の子だからな。ジャックも実のところは満更でもなかったりするんだろう。


『相手は貴族のお嬢様ですぞ!?逆に某にどうしろと!?』


『うん………まぁ、がんばれ』


 そうでもないみたいだ。


「こほん………と、いうわけでルート通りに行くならアンリさん達と連絡を取りつつ身体を鍛えて、ヒロインはヒーロー達が動きやすいようにヒーロー達の攻略をしつつも勇者の注意をギリギリまで引きつけた状態をエンディングまで維持するって感じなんだけど…………その紫苑さんっていう人がヒロイン役みたいになってるわね」


 リリ嬢がジャックの膝の上でキリッとした顔になったかと思うとそんな事を言った。

 紫苑さんがヒロイン役?


「成る程?つまりお嬢の存在意義が完全に消え失せたと?」


「ほんっと、可愛くない使役魔物ね貴方!私の存在意義ぐらいヒロインの仕事以外だってあるわよ!ほら、ジャックおじさまといちゃいちゃするとか!すりすりはぁはぁするとか!!」


「お嬢……アンタ、今言ったこと後で思い出して身悶えすることになるぜ」


 ぷんすかと可愛らしく怒るリリ嬢と呆れ果てたようなゴブリンさん。

 良いコンビじゃないか。ゴブリンさんの方が保護者感あるけど。


「これで皆の情報は出きったかな……?まだ3時ぐらいだし、僕はこれから訓練にでも行こうかな」

「いや、ダメだ」


「……………ライル?」


 立ち上がろうとした僕をいつの間にか起きていたライルが止めた。

 どうしたんだ?まだ話してないこととかあったかな。ライルも早く強くなりたいと考えてるだろうし、訓練に行くのを止めるなんてよっぽど大事な用事が――――


「まだ、『前世』の話。してないだろ?」


「…………はい?」


「これだけ転生者が集まったんだ。前世の話はしなきゃ駄目だろう。というか俺が話したい」


「はあ」


「ユーリ、リリ嬢、二人もそう思うだろ?」


 くるっ、と二人の方を向いてうんうんと頷くライル。

 出掛けてった先で同じ村の出身のやつに会ってテンションが上がってるみたいな感覚なんだろうか。


「まあ………いいんじゃないか?」


「前世はかなり地味な人生だったわね……」


「よしっ!じゃあ話そうぜ!」


 三人は転生者?っていうのだからいいんじゃないか?って感じに頷いてるけど、これ僕がここに残る意味とかあるのかなぁ?

前世の話するぞー!とかライルが盛り上がってますが普通にストーリー進みます (´・ω・`)


前半ラストまであと少し、がんばるぞー。

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