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諦めたくないから

 あれから数日後。


 国から派遣された馬車と護衛の騎士達によってアンリは王都へと連れられて行った。

 結局、僕とアンリはあの日以来一度も言葉を交わすことがなかった。


「(アンリに、好きだって言えなかったな.......)」


 後悔先に立たず。


 もしもそう言っていたら、アンリは勇者のお嫁さんになるのに変なことを抱え込んで辛い思いをしないかと思ってやめたのだ。

 だけど、今となっては後悔ばかり思われる。

 

「ああ、クソっ........なんでだよ..........」


 『聖女』『剣聖』『賢者』この職業を持った成人したばかりの女性。

 この三人は勇者の伴侶として魔王討伐の旅路につくことになる。

 神様が決めたずっと昔からのルールだ。

 たとえその女性に婚約者が居たとしても、その婚約者とは永遠に結ばれることは無い。

 口出しすることすら許されない、大罪となる。

 あまりにも理不尽なルールだ。

 僕はアンリの婚約者でもなければ恋人でもないから何も文句なんて言える筋合いは無いのだけれど。


 クソ神め..........クソみたいなルール作りやがって..........。

 はぁ........勇者がアンリにとって良い人になることを願うばかりだ.........。

 もう、彼女は誰も手を出すことは出来ないのだから。


「王都...........か................」


 王都までは遠い。

 この村の一番近くにある町へ行くことさえも、大人の足で2日はかかるのだ。

 成人になりたてのエドが一人で行けるような道のりでもない。


 アンリは王都についたらまずは召喚された勇者と一緒に『王立魔導学院』に通うらしい。

 この学校は授業料を取らないことで有名だ。

 貴族から平民、果ては孤児まで受け入れる。

 だが、かわりに相当な才能を要求される。

 いつでも入学することが出来、学院の門を入れば入学試験を受けられる。

 何回でも受けることは出来るが、かなりの実力を見せつけなければならないので入学できる生徒は少ない。


 逆に言えば、実力さえあればどんな生徒でも受け入れるのだ。

 身分の貴賤に関係なく、授業料さえ要求しない。

 だから...........もし、もしかしたらの話だ。


「もしも僕がここに入れるレベルになったら?」


 一筋の希望が射し込む。


「またアンリに会えるかもしれない!!」


 ぐっ!と両手の拳をにぎりしめる。

 自分勝手な考えだとは思う。

 でもここで諦めたら一生ずっと後悔すると思った。

 もう一度、君に会いたい。

 君の笑顔を見せて欲しい。

 君の恥ずかしそうな顔も、怒った顔も、全部、全部大好きだったから。


 せめて、一言だけでも良いから言わせて欲しい。


 エドはいつもの持ち物を纏めると村の外へと飛び出していった。















 森の中、開けた場所まで来たエドは虫取り槍をザクッと地面に突き立てる。

 ここまで来るのにも何体も魔物を倒した。

 魔物を倒すのは成人する前からずっとやっていたから馴れている。

 スキルを手に入れて更に強くなった事で、村の近くにいる魔物では相手にならないのだ。


 背の低い草むらの真ん中に立ったエドはがさがさと荷物を整理する。


「まずは召喚術からだな。何を召喚しようか」


 駆け出しの召喚士が使役する魔物は主に『スライム』や『ホーンラビット』、『ポイズンワーム』等だ。

 まずはこの中から選ぶのが王道だが。


「ん?あれっ、そういえば........」


 エドは何かを思い出して、宝物の昆虫図鑑を取り出す。


「これって......呼び出せるんだろうか.......」


 召喚魔法とは、空間に作用し対象を召喚、使役する魔法だ。

 この昆虫図鑑に載っている虫達はほとんどが異世界にしか居ないものばかりだが、召喚魔法なら呼び出せるかもしれない。


「やってみますか........!!」


 パラパラとページをめくり始めるエド。

 何を召喚するべきか........悩むな。


 今の召喚魔法レベルは1。

 これだと召喚した魔物は2匹までしか使役できない上にあまり強い魔物も使役できない。

 その中でどの虫を召喚するべきか悩むところだ。


「これは........どうだ?」


 開いたのは例のアイツのページ。


「これなら持久戦向きかもしれない、どう戦うのかはわからないけど.......」




 そう、()()だ。

 黒光りする身体に長い触角。

 カサカサカサという独特の音を立てる素速い歩行。

 家庭の大敵。

 貴方の側に這い寄る混沌。

 一匹見つけたら100は居ると思え!!!


「召喚!『クロゴキブリ』!!!」


 カッ!とエドの前に魔法陣が現れて光り輝く!


――ズズズズズズ


 仰々しい演出と共に魔法陣よりせり上がってくる黒いヤツ。

 Gだ。

 Gである。

 えっ?なんでわざわざゴキブリなんか選んだって?だってゴキブリって走るの速くない?生命力半端なくない?しかも飛ぶことも出来るとか将来有望だも思うんだ、僕。

 え?オケラの方が泳ぐことも出来て万能だって?いや、でもさぁ.......オケラって滅茶苦茶やわっこいんだよね...........。すぐ死んじゃいそうで怖い。


 そんな訳で、デェェーーーン!!!という効果音が響きそうな格好で現れたクロゴキブリさん。

 体表ツヤッツヤのソイツはカサカサとGサウンドをたててエドの前までやってくる。


【クロゴキブリの召喚に成功しました】

【クロゴキブリを使役魔物に登録します】

【使役枠が残り1になりました】

【召喚魔法がLv.2になりました】

【使役枠が残り3になりました】

【クロゴキブリに名前を付けますか?】


「おっ、おおおおおお!ってかLv上がるの早っ!」


 今流れてきたのは『システムメッセージ』だ。

 男性か女性かわからない音声で、頭の中に直接響いてくる。


「クロゴキブリ、どれぐらいの強さかな~?」


 召喚魔法により使役魔物となれば、その主は使役魔物のステータスを確認することが出来るようになる。

 だから確認をしてみた、すると。




無名 女 1歳

Lv.1

HP40/40

MP80/80

力60

守40

速2720

魔130

器50

スキル:風魔法Lv.1 忍術Lv.1



「(うおぉぉ、強ぇ.....。ってか虫でも女って表記なのか。

 それとこの『忍術』ってなんだ?)」


 予想外の強さに少しびっくりする。

 特に【速】が半端ない。ゴキブリは速いと知ってはいたけれどここまでとは........。

 たしか時速170キロとか聞いた気がする。

 しかし異世界のGってみんなこんなに強いのか........異世界から勇者が召喚されるわけだよ........。


『あなたが、私の、ますたぁ?』


 可愛らしい女の子の声が頭に直接響いてくる。

 召喚士とその使役魔物は念話によって意志の疎通が出来るらしい。

 つまり、この声は..........


『もしかして、君?』


『うん、そうだよますたぁ。よろしくねぇ』


 Gである。

 可愛い女の子の声で喋るGであった。

 シュールだ。


『ああ、よろしくな』


『ねぇ、ますたぁ』


『ん?何だ?』


『名前つけてー?』


 あっ、そうだったな。

 まだ名前付けてなかったよ。

 どうしたもんかな.............。


『そうだな、Cockroachから「ローチ」なんてのはどうかな?』


『うん!よくわかんないけどそれがいい!』


 元気よく返事をする可愛い?ゴキブリ。


【クロゴキブリの名前に『ローチ』を設定します】


 システムメッセージが流れる。

 ローチは名前を付けて貰ったのが嬉しいのかカサカサフリフリと踊り狂う。


『んじゃっ、早速レベル上げしようか!』


『うん、ますたぁ!』


 パタパタと黒光りする羽根を広げて飛び立ちエドの肩に乗るローチ。


 そうして一人と一匹は森の奥へと進んでいった。

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