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やべぇ.......やべぇよ.............


「まぁ、なんだ。とりあえず落ち着こう。周りの様子からしてここで勇者の悪口言うのもなんだし、僕かライルの部屋のどっちかで話そう」


「スルーするなよぉぉ、転生者なんだろ?そうなんだろお前ぇぇぇぇぇ。地味に一人だけ転生者って寂しかったんだよぉぉぉぉぉぉ」


「はいはい、わかったわかった」


 なんか泣き始めて床にぶっ倒れたライルのことを肩に担いで寮へと向かい始める。

 流石に殆ど誰も歩いてるのも見ないとはいえ、学校の廊下であそこまで熱狂的なファンがたくさん居る勇者の悪口を言うのはあまり宜しくない。

 敵はなるべく少ない方が良いのだ。


「しかし..........あの生徒達の様子もなんか引っかかるっていうか、不自然なんだよなぁ............」


「あ、それわかる」


 肩に担がれてるライルもうんうんと頷く。

 うちの父さんにも熱狂的なファン(主に女性)が沢山居るけれど、あそこまで狂ったようなモノでは無い。

 

 それと君喜怒哀楽がコロコロ変わりすぎじゃない?

 切り替えが早いと言えばよく聞こえるけど、いくらなんでも切り替早すぎでしょ。


「おう、昔っから『本能で生きてる』って周りから言われてるぐらいだからな」


「心を読むんじゃない」


「ちなみに前世で俺が死んだ原因の一つに勢いで突っ走り過ぎたってのも有る」


「駄目じゃんか。直そうよ」


「イヤじゃ」


「........何故突然年寄り口調?」


「さぁ?ノリじゃね?」


「(やべぇ.........全然付いてけねぇ.............)」


「ノリに付いていけないって顔するなよ。悲しくなるだろ?」


「だから心を読むなって.........」


 これから苦労しそうだ.........。

 

 肩にイケメンを担いでとぼとぼと廊下を歩いていくエド。

 その背中を見つめる人影にエドは気付くことは無かった。



「嘘...........もう、来てるなんて.............。そんなに早く手紙が届いたのかな...........?」


 その少女はぽつりと呟くとエドが歩いていった方向とは別方向へと駆けだしていった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



―――ゴォォォォオオオオオ!


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「アハハハハハ!」


「お嬢...........アンタって奴は...............」


「うっ........吐きそうでござる............」


 絶叫する私。

 爆笑する黒髪イケメン。

 悲しい目をした私の使役魔物。

 吐きそうな顔のイケおじ。


 これ絶対乙女ゲーの世界じゃねぇ。


 私は確信した。

 いや、元々この世界は『乙女ゲー』っぽい現実の世界だっていうのは理解してたよ?

 でもそういうことじゃないんだわ。

 

 これまでの人生がゲーム通りだったからだいたいその通りにこれからの人生も進んでいくのかなぁってなんとなく思ってたんだ。

 そしたらこのザマだよ。

 

 このザマって?

 今、私まっ黒なドラゴンの背中に乗っかって王都に向かってますが何か?

 滅茶苦茶デカいし速いですけど何か?

 あっ、風ヤバい、落ちる。


『そう騒ぐな小娘。我が背中に乗せた人間を落とすようなヘマをしでかす訳がなかろう?』


 しかも喋るし。

 めっちゃいい声してるし。


 元々のストーリーだと王都まで私は家の馬車を使って行くはずだったんだよ。

 馬車がヤバいドラゴンに襲われて従者が皆殺しにされた時は『あ、これ終わった』とか思ったけど、結局たすかったし、このままギルドの馬車で王都まで行くのかなぁって思ってたんだよ。

 そしたら馬車じゃなくてデカくて黒くて喋るドラゴンだよ?

 落差激しすぎだよぉぉ..........。


「うっ、オロロロロロ...........」


『................小僧、吐いたな......』


「も、申し訳ないディアボロス殿.........」


「やー、もー怒るなってディー君。元魔王だろ?

 汚物なんて一瞬で消せるんだからこれぐらい許してやる器の広さあるでしょー?」


『...........こういうのは精神的な問題なのだ、アルトよ』


 .............元だけど魔王だし。

 何で魔王なんて引き連れてるのさアルトさんは........。

 何で先代魔王倒されてないのさ..........。

 先代勇者は何処に行った。仕事しろ。


 ギルドのある町まで着いたと思ったらいきなりこんなんに乗せられてビビったわ。

 【魔王竜ディアボロス】なんて名前から滅茶苦茶強そうなんだよ、どうしてくれんだよもう。


 これから先の未来が真っ暗だよ神様。

 まだ始まっても無いのに乙女ゲーのハードモード飛び越えてエクストリームモード突入してるよこれ。

 いやこれ乙女ゲーじゃねぇや。

 

『はぁ.......【クリア】。アルト、そこの小僧に酔い止めを渡しておかなかったのか』


「渡したけど効かなかったみたいだね!」


『そうか...........』


「うう........本当に申し訳ない.............」


 ジャックおじさまの顔が真っ青になってるよ。

 せっかくのイケメンが勿体ない。

 

 それとアルトさんって本当に30代後半なの?

 どう見ても20代前半なんですが。

 

「お嬢、そういえば向こうに戻ってたときにお嬢の言ってた乙女ゲームについて調べてきたんだ」


「ん?ああ、あれね........なんかもう役に立ちそうにないけど.......」


「いや、そうでもないぜ?やっと発見された隠しキャラのイベント発生条件であのゲームのストーリーがひっくり返ったんだ..........」


「...........どういうこと?」


 やけに真面目な顔で話し始めたゴブリン。

 彼も私と同じ転生者だ。

 とは言っても半分転生者で半分はもとの世界にもどってる感じだけど。


「まず隠しキャラのイベント発生条件が『勇者の親密度をエンディングまでに隠しパラメータの-100まで下げておくこと。そして他の攻略対象との親密度も友情エンド以下になるように抑えておくこと』の二つなんだ」


「ずいぶんとヘンテコな条件ね」


「まぁ、話を聞いといてくれ。ここから先でどうしてこの条件なのか理由がわかる。

 実はこのゲームの攻略対象全員が勇者の洗脳を受けていたってことが隠しキャラのエドとの出会いのイベントで判明する。攻略対象だけじゃない、学院の生徒のほとんどが勇者の洗脳を受けている状態だったんだ。

 ヒロインと攻略対象達の恋は全て勇者が娯楽の為に起こしたこと。攻略対象達がヒロインに向ける愛情は全て勇者によって仕組まれたことだったんだ。

 所謂ライバルキャラも全て勇者の洗脳下にあった。

 しかも勇者は自分がヒロインに選ばれてもそれを良しとした。何故なら勇者は極度の女好きだったから美少女であるヒロインに迫られることは勇者にとってもまんざらじゃ無かった訳だ。

 それに攻略対象達と上手くいったところで勇者はヒロインに洗脳をかけて最終的に自分のものにするつもりだったらしいしな。

 そしてエドと勇者の洗脳を免れた仲間達によって勇者が起こしてきた悪事を知ることになる訳だが―――」

「ちょ、ちょっと待って!」


「どうした、お嬢」


「そ、それって、それが本当だったら凄く拙いんたじゃない?

 今のところそれに一致したような情報は無いけど、もしそれが本当だったら国の危機に繋がるっていうか、勇者を倒すって殆ど無理だと思うっていうか.........」


「いや、もう一致しちまった部分があるんだ」


「へっ..........?」


 顔からサーっと血の気が引いていくのがわかる。

 ヤバいヤバいヤバい!

 学院行きたくない!腹黒ゲス野郎は嫌!


「ゲームでのエドは『古くからの慣習によって勇者に奪われた相思相愛の幼なじみを奪い返しにくるために学院に入った』。現実でのエドは『古くからの慣習によって勇者の元に行った片想いの幼なじみに言えなかった別れの言葉を告げに行くために学院に行った』。

 奪い返しに行くのではなく別れの言葉を告げに行くってところだったり所々違いはあるけれどだいたいの流れが同じだ。

 話を聞いている限り例の幼なじみとは現実でも相思相愛だった可能性が高いし、これはもう現実でも勇者は腹黒のゲス野郎だっていう可能性が高い。

 だからお嬢、勇者には注意しておいた方が良い」


「そ、そんなぁ..........ざまぁより怖いよそんなの.........。どうしてくれんのさぁ...........」


 そんなことを話してたら王都が見えてきた。

 本当、お先真っ暗だよぉ.........。























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「よい、しょっと」


「完全に荷物扱いだったな、俺」


「気にしないで」


「俺が気にする」


 寮に着いて肩に担いでいたライルをおろす。


 中々に個性的な人だ。

 感情のままに行動して、頭に浮かんだ言葉を次から次へと口にしているかんじ。

 運んでいる間、「俺のおかげでシリアスがシリアル」とかぶつぶつ呟いていたけど気にしたら負けだっただろう。

 彼は本能で生きている単細胞生物。たとえシリアスがサクサクするチップになったところで気にしてはいけないのだ。

 気にしなかった僕は正しかったはず。

 うん、正しいはずだ。


「なぁところでお前シリアルの味どれが好き?

 ちなみに俺はチョコ味が好きだ」


「まだその話続いてたのか。僕はプレーンが好き」


「そう言う癖にちゃんと答えてくれるんだな。お前やっぱいいやつだよ」


「お前も充分いい性格してると思うけどな」


「いやぁ、照れるなぁ//」


「いや、言葉通りの意味じゃないから.......」  


 顔を赤くして照れているライル。

 今日が初対面だっていうのもあるだろうけど僕は彼のことが全くわからない。

 なんというか..........その、正直申し訳ないのだけどなんか苦手だ。

 何を考えているのか、感情だったり、まるで読める気がしない。

 なにも考えていないっていうのもあるかもしれないけど。

 

 あ、ここだ。僕がこれから暮らす部屋。


「んじゃ、僕の部屋はここなんだけど、ライルは?」


「えっ、俺もここだけど?」


「えっ?」


「えっ?」


 二人して「えっ?」と声を漏らす。

 

「うぉいマジか!同じ部屋じゃん、やったな!」


 驚いた顔をしていたと思ったら満面の笑みを浮かべて喜ぶライル。

 紫苑さんも『無害そうな人が同じ部屋で良かったわねぇ』と言っている。

 ちょ、酷い言いようだな紫苑さん。ライルはガキ扱いですか。


「(しかし..........コイツと同じ部屋かぁ..........)」


 隣に立つ蒼髪のイケメンをちらりと見る。

 非常に満足げな笑顔である。


 そして、部屋の扉を見る。 


 ..................マジで?

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